61、えー? 昇級ですか?!
ギルドにたどり着く。
報告を終えた私たちを呼んだのは、ギルド長のイメルダさんだった。彼女は執務室に私たちを呼び出すと、ことの詳細を一通り聞いてくる。
「なるほど、デスピオンがねぇ……巨大化かね……それは資料にも載っていなかったねぇ」
イメルダさんは顎に手を触れながら考えているとき、エクスはレオさんと顔を見合わせた。そしてエクスは毒の入った瓶と甲殻を取り出す。
「ドロップ品がこれだ」
エクスが差し出したものを見て、イメルダさんは目を見張る。そして毒の小瓶を手に取って顔の前でくるくると回し始めた。
「そうだねぇ。通常のドロップ品より……若干大きいくらいじゃないかい?」
「やっぱりそうだよな……」
「お前たちの見間違いの線はないねぇ。四人全員に錯覚させるような幻惑なんて掛けられるはずがないさ」
「しかもデスピオンに止めを刺した時、手応えがしっかり感じられたからな」
レオさんの言葉に、お手上げだというように肩をすくめるイメルダさん。
「特殊個体が異常進化した、としか判断できないが……変わったことはなかったかい?」
皆が頭を悩ませる中、私は不意に落ちていた欠片のことが頭によぎった。
「あ、こんな欠片が落ちていたのですが……」
私がカバンの中から取り出すと、それは既に透明なガラスの欠片のような姿になっていた。私は驚いて目を白黒させる。イメルダさんは私の手からヒョイっと欠片を取り上げた。
「ただの透明な欠片にしか見えないねぇ……」
「おい、それさっきは赤くなかったか?」
エクスの言葉に私は頷く。私たちの会話を聞いたイメルダさんは、一瞬眉間に深い皺を刻んだ後立ち上がった。そして窓へと歩いていき、その欠片を太陽の光に翳した。
目を細めてじっと見つめるイメルダさんに、私たちは息を呑む。
しばらくして戻ってきた彼女は、欠片をテーブルの上に置いて腕を組んだ。
「……僅かながらではあるが、この欠片には魔力が込められていた形跡があったね」
「ギルド長、それになんの意味があるんだ?」
深刻な表情を浮かべているイメルダさんに、不思議そうな顔で訊ねるレオさん。彼女は一息ついてから、話しだした。
「いやぁね、数年前にさ。あるバカ研究者が、ダンジョンのモンスターに外部から魔力を与えたらどうなるか……そんな実験を行ったさね」
「酔狂な奴もいるもんだな」
レオさんは呆れたように肩を縮こめる。それに同意しているヴィリーさんとエクス。
「その結果、巨大化したそうだよ」
「巨大化……」
「そうさ。その時は二倍ほどの大きさになったらしいが……倒しても、元々の大きさで落ちるドロップ品しか手に入らなかったそうだよ。ほら、今回と似ている気がしないかい?」
デスピオンの巨大化。通常個体よりも少し大きいだけのドロップ品。そして、魔力が込められていたという欠片。もしかして、何か繋がりがあるんじゃ……?
「でも誰が……あっ!」
私は無意識に声をあげた。あのことを思い出したからである。皆が驚いたような表情で私を見ていた。
「エクス、思い出したよ! この欠片、ガルムの洞窟にあった赤玉に似てない?」
「確かにそう言われてみれば似ていたかもしれないな……」
片面が何かで割った痕があり、片面は綺麗に湾曲している。欠片だとは思っていたが、もしかしたら断面を見る限り、故意に誰かが割ったのかもしれない。
青であった理由はわからないが、多分割れた部分を確認すれば赤い玉と似たようなものであることはわかるかもしれない。
「そうか、お前さんたちが洞窟の件を解決したんだったねぇ。話は聞いてるよ」
イメルダさんは欠片を手に立ち上がる。そして自分の執務机にそれを置いた。
「これも王都に送ろうじゃないか。話に聞いている赤い玉とこれは同じものか……わかるといいけどねぇ」
「お願いします」
「ああ、あとは任せておくれ」
彼女は欠片をどこからか取り出した箱の中に仕舞う。そして魔法を掛けた。
「これで王都までは開くまい……そうだ、言い忘れていたよ。マリ!」
「は、はい!」
いきなり名前を呼ばれてしどろもどろになる私。何事だ、と皆も目を瞬かせている。
「アンタはルビー級に昇級さね! ギルドカードを出しな!」
「ええ?! まだ私はジェイド級で……」
「いやいやいや、無理に決まっとるだろう? そもそもルビー級は三十五階まで降りられないからね。それについて行って、しかも巨体のデスピオンの足止めをしたんだろう?!」
イメルダさんは私以外の人に視線を送る。エクスは無言で頷き、ヴィリーさんは満面の笑みを浮かべて首を縦に振っている。そして——
「ああ! マリの魔法がなければ、倒せなかったぞ!」
「そ、そんなことありませんよ?」
花開くような笑顔で楽しそうに告げるレオさんを、私は止めようとしたのだが……。
「そもそも一人だけジェイド級ってのがおかしいんだよ! 早くルビー級にでもなっておきな! そうすれば、早々サファイア級にはならないと思うからね!」
「マリちゃんならすぐに昇級しそうだけどねぇ〜」
お腹を抱えながら笑うヴィリーさん。
エクスなんて私から顔を背けて吹き出している。
「えー、どうしてこうなった?!」
そう私が叫ぶと、エクスが口角をあげながら告げた。
「……師匠があの人の時点で無理があるだろ」
「その通り!」
「そうよねぇ〜」
「諦めるんだね」
私ののんびり昇級ライフはどこに行ってしまったの……?




