60、討伐!
デスピオンと睨み合いになる中、私は砂に水を掛けてみる。ある程度固まったように見えるが、強度はなさそうだ。しかし、これに土魔法を使えばどうだろうか。
魔法は魔力から生み出すだけではない。その場に関連するものがあれば、それを操ることができるのだ。
まず水魔法で周囲に雲を発生させ、雨を降らせた。いきなりの雨にデスピオンは一瞬空を見るような動きをしたが、すぐにまた尾を振り回している。
私は静かに待った。その時を。
そしてデスピオンが毒液を噴射させようと、尾を引く。尾が地面に付いたその瞬間、私は土魔法を発動させた。
水に濡れた砂がデスピオンの尻尾の周りに張り付いていき、少しずつ覆い隠していく。異変に気がついたデスピオンが尻尾を動かそうと身体を左右に振るけれど、強度が増しているためか身動きが取れないようだ。
「GYAOOOOO?!」
辺りにデスピオンの叫び声が響き渡った。尻尾の拘束に成功したのだ。尾先も砂の中に埋まっている。デスピオンは束縛から逃れるために、砂に向けて毒を発射したようだが……周囲の砂に阻まれこちらに届くことはない。
むしろ発射した毒が更に砂を固めているのか、尾先から煙が上がっている。
私はこれ幸いと、下半身の捕縛を試みた。殻に引っ付いていく砂にデスピオンは対抗しようと更に身体をよじっている。
ヴィリーさんが隙を見て、弓を引く。弓はデスピオンの目を一直線に捉えているが……ハサミで防御される。残念ながら、こちらの存在を忘れているわけではなさそうだ。
身体を動かしながらも、エクスやレオさんから視線は離していないのだろう。
私はどうしたらいいのだろうか、と悩んでいたその時。
「マリ! このままデスピオンを押さえててくれ!」
「は、はいっ!」
レオさんの言葉に私は更に魔力を込める。デスピオンが苦しむ様子を見たレオさんはエクスへと視線を送る。
「エクス! いくぞ!」
「ああ!」
レオさんはデスピオンに正面から切ってかかろうとしているらしく、真っ向から走っていた。エクスは反対に風魔法を使って飛び上がってから、デスピオンの背に向けて勢いよく落ちていく。
デスピオンはエクスを見失ったのか、辺りを見回すような仕草をしているが、その隙にレオさんが懐へ入っていく。そして同じ頃、エクスも背中に飛び乗った。
破茶滅茶に二本のハサミを動かし、二人を振り払おうとするデスピオン。二人はハサミを避けるのに精一杯だ。そんな中、一人機会を窺っていた人が動く。
「GYAAAAAA!」
「当たったわ!」
ヴィリーさんの放った矢の一本が、目に当たった。雄叫びをあげて仰け反るデスピオン。その機会を逃すまい、と言わんばかりに二人は急所をめがけて剣を振り下ろした。
何かが潰れたような音が辺りに響く。それと同時に、デスピオンは背筋を伸ばした後今までにないほど高音で叫び……力が抜けたのか、身体が大きな音を立てて崩れ落ちていった。
二人の攻撃は効いたようだ。
全員がデスピオンを睨みつける。私も手を緩めず、引き続き魔力を込め続けた。すると——
ポンッ!
気の抜けるような音が聞こえたと思えば、目の前のデスピオンはドロップ品になっていた。レオさんとエクスがその場所へと歩いていく。私とヴィリーさんも顔を見合わせて頷き合ってから、二人の元へ急いだ。
「この小瓶はデスピオンの毒か……こっちは、甲殻か?」
「思ったより小さいわねぇ。あれだけ身体は大きかったのに」
レオさんとヴィリーさんも目を丸くしている。二人も二回ほどデスピオンのドロップ品を見ることがあるらしいのだけれど、それと同じくらい……大きくても一回りほどなのだとか。
首をひねるヴィリーさんを横目に、レオさんが悩み出す。
「どうやって持って帰るか……流石に毒は手持ちだと怖いな」
「それなら俺ので持っていく」
「いや、あぶな……ああ、そうか。エクスのは師匠お手製だったか。それが一番安心だな」
そう言ってレオさんはエクスにドロップ品を渡す。受け取ったエクスはそれをしまった。
「さて、多分今回の原因はこいつだろう。一旦報告のため、帰るとするか」
「マリちゃん、素晴らしい魔法だったわぁ〜!」
ヴィリーさんに頭を撫でられた私は、恥ずかしさから下を向く。すると目の端にキラリと光るものが落ちていた。私はそのまま座って手を伸ばす。
「どうした、マリ?」
「エクス、これ見て」
「……何かの欠片……か?」
青い欠片。似たようなものをどこかで見たことがあるような……ないような。
私とエクスはお互いに首を傾げてから、念の為に私のカバンの中に入れておいた。
だから気づかなかったんだ。
そこに入っていた僅かな魔力が私の中に吸い込まれたことに。




