59、異常種のデスピオン
「こいつはデスピオンだ!」
レオさんの言葉にエクスが声を荒げた。
「……! 希少種のか?!」
「そうだ!」
レオさんの声と同時に、デスピオンは黒く大きな尾を勢いよくこちらへと向ける。すると尾の先端から液体が発射され……私の防御魔法に当たった。液体の掛かった部分を見るが、幸い防御魔法には傷ひとつついていない。
「今のは毒だ! デスピオンの厄介なところは、尾の先から毒液を噴射する。しかも量が多い」
「あの毒がかかると、皮膚が溶けてしまうのよ! 気をつけて」
デスピオンの毒は腐食性があるようだ。エクスは眉間に皺を寄せながら、声を上げる。
「デスピオンはこんなに大きかったか?!」
「いや、元々腰くらいの大きさの希少種だ。こいつは少食だからか、普段は滅多に遭遇しない」
レオさんの言葉に私はサソリを思い出す。確か地球にいたサソリも、日中は隠れて動かない生態だったような気がする。だから食事量も少なく済むんだったか……。けれども目の前のサソリはあまりにも大きすぎる。
「こいつは特殊個体だな……ヴィリー、ちょっと弓で外殻を射て欲しい」
「わかったわ」
ヴィリーさんは私の防御魔法から抜け出すと、目にも留まらぬ速さで矢を射る。それと同時に私が彼女に向けて防御魔法を展開した。矢はデスピオンの額部分に当たったのだが……黒光りする甲殻が硬かったのか、弓は刺さることなく落ちていく。
「ちっ……剣でも刃が通りそうにないな……殻の隙間を狙うしかないか」
「魔法は使えないのか?」
レオさんの舌打ちを聞いたエクスが訊ねる。彼の代わりに後ろにいたヴィリーさんが答えた。
「あいつは魔法無効の能力を持っている、と本には書かれていたけれど……実際は分からないわ」
「一度試してみてもいいですか?」
私の言葉にレオさんとヴィリーさんは目を見開く。魔法無効の能力が、どのようなモノなのか確認しておくべきだと思ったからだ。殻へと届く前に魔法が消えてしまうのか、殻には届くのか……これが分かるだけでも、大きな違いがある。
「やってみろ! エクス、一旦俺らは後ろに下がるぞ」
「ああ!」
私はシロアリで使った火魔法をデスピオンへと放つ。魔法はデスピオンの外殻に当たると……そのまま霧散する。どうやら殻自体に魔法を無効にする効果があるのだろう。
これではシロアリのように、魔法で胴体を貫くことはできない。
私の火魔法を受けたデスピオンは、尾の先をこちらに向けた。その後先ほどよりも大量の毒液を周囲に撒き散らす。
——ジュッ
何かが溶けるような音が聞こえる。私は音のする方へと顔を向けると、デスピオンの毒が落ちたと思われる砂は黒く変色し、煙が出ていた。そして辺りにただよう腐敗臭。まるでデスピオンの毒性が高いことを証明しているように見えた。
しかも私の防御魔法に穴を開けようとしているのか、連続で尾先から液体を噴射している。身動きが取れない私は防御魔法内で考えを巡らせていたのだが……デスピオンの様子が突如変化した。
どうやら防御魔法が壊れないことに気づいたらしい、デスピオンは動きを止める。
私たちが訝しげにデスピオンを見ていると、レオさんが叫んだ。
「まずい、離れろ!」
エクスと私は風魔法で宙に浮かぶ。そしてレオさんはヴィリーさんの元へ、全力疾走でたどり着いた。それと同時に、デスピオンの身体が左へと動いたと思ったら……その反動を利用して、身体を回転させたのだ。
その勢いは凄まじく、近くにあった岩が粉々に砕けていた。
私たちが唇を噛んでデスピオンを睨みつけていると、まだ敵がいることに気づいたのかこちらへと向かってくる。しかし、身体が巨体であるためか、動きはゆっくりだ。
レオさんとエクスは毒攻撃に近づくことができず、眉間に深い皺を刻んでいる。
「毒の噴射がどうにかなれば……レオ! 毒切れとかはないのか!?」
「分からん! こいつは滅多に出てこないから、情報が少ないんだ!」
「でも普通のスコーピオンだって毒切れなんて聞いたことがないから、無いと仮定して戦った方がいいわ!」
ヴィリーさんの言葉に、忌々しそうに顔をしかめるエクス。そうね、常に最悪を考えた方がいいわ。
デスピオンは近づいてくると、巨体や尻尾を振り回す。尻尾からは毒が滲み出ており、辺りに飛び散って煙を上げていく。あの尻尾を無力化できればいいのだけれど……。
「あの! 尻尾を魔法で拘束してみます!」
「頼んだ!」
私は風魔法でデスピオンの尾を捕らえようとする。けれども、外殻の魔法無効化の影響なのか、風魔法では拘束することができない。その間にも遠くからヴィリーさんが矢を何本か鋳るが、なかなか殻の隙間に入れることは難しいようだ。レオさんやエクスも尻尾を気にして近寄れていない。
「魔法だと、完全に無効化されてしまうのね……どうすれば——」
尻尾さえ捕縛できれば……ついでに身体ごと動きを止められれば、エクスとレオさんも倒しやすいはずだ。色々な魔法が頭の中をよぎる。しかしどれも納得のいく魔法では無い。
そんな悩んでいる私の目に、ふと入ってきたのは砂だった。デスピオンの毒液が掛かった砂は、固まっているように見える。その時、私は天啓が降りてきたかのように閃いた。
「もしかしたら……!」




