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気づけば全部の死亡フラグをへし折っていた転生悪役令嬢ですが何か?  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中
第四章 ラクロワ領ラクリス編

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53、ギルド長はお茶目でした?

「おやぁ、エクスじゃないか。おまえさん、元気だったかい? 噂では、ご令嬢の護衛の仕事をしていると聞いていたが」


 現れたのは杖をついた女性。身長は私より小さいくらいか。腰が曲がっているので、もしかしたら同じくらいかもしれない。白髪で表情は穏やかだが……眼光は鋭く、修羅場をいくつも潜り抜けてきた経験者のような立ち振る舞いだ。

 エクスは立ち上がり、礼をとる。

 

「その仕事が終わりましたので、気ままな冒険者に戻りました」


 初めて見るエクスの姿に思わず目を丸くしてしまった。こんなにエクスが丁寧に対応したことがあっただろうか、いや、ない。呆然と座っている私の耳には、エクスとギルド長のやり取りが届いているが、右から左耳へと流れていく。


「ところで、エクス。そこのお嬢さんは?」


 しばらくして彼女が私に声をかけてきたことで、やっと正気に戻る。慌てて立ち上がった私は、頭を下げた。

 

「わ、私はマリと申します。エクスさんと共に冒険者として旅をしています」

「おや、ご丁寧にありがとう。私はイメルダ。このギルドの長だよ。全く、領主様はいつまでこの老いぼれを酷使するのかねぇ」


 肩をすくめるイメルダさんに、エクスは私に聞こえる程度の声でつぶやいた。

 

「いや……老いぼれではないだろう」

「なんか言ったかい? エクス?」

「いえ、何も言っておりません!」


 杖の先が地面に叩きつけられる音が響くのと同時に、エクスの姿勢が更に良くなった。それだけではなく、何故か彼は敬礼の姿をとっている。どうやらエクスはイメルダさんに頭が上がらないらしい。

 鼻を鳴らした彼女は、対面に置かれていたソファーへと勢いよく座る。そして私たちにも座るように指示を出した。


「さて、雑談はここまでにしようじゃないか。聞いたよ。三階の洞窟踏破おめでとう。その時の様子を話してくれるね?」


 先ほどののんびりとした空気が打って変わって、緊張感ある空気が漂い始める。私とエクスは姿勢を正した後、イメルダさんに出された地図を確認しながら、洞窟内のことについて話し始めた。




 一通り話し終えると、イメルダさんはソファーの背もたれに寄りかかり、腕を組む。どうやら今までの私たちの話を頭の中で噛み砕いているようだ。ぶつぶつと漏れ出ている言葉から、そのように察せられる。

 しばらくして、彼女のつぶやき声がなくなるとすぐに背もたれから身体を離し、私の方へと前のめりになった。


「お嬢ちゃん……いや、マリと言ったね? ギルドカードを見せてもらえるかい?」

「え……あ、はい!」


 いきなりの要求に驚いたが、私は首にかけていたカードをイメルダさんへと手渡す。彼女は私からカードを受け取り裏返してから、右手の中指に嵌っている指輪を翳した。

 紫色の宝石から同系色の光が放たれ、ギルドカードの裏を照らす。すると、そこから文字が浮かび上がっていた。

 横目に見えるエクスも、これは初めてのことだったらしくポカンと口を開いている。彼女はその内容に一通り目を通し終えると、私にカードを返却した。


「今見せてもらったんだけどねぇ……マリ、おまえさんも苦労してきたね。まさか最初の依頼でブラック・ファングに、その後一か月も経たないうちにフロスト・グレイブにも出逢ってるなんてねぇ」


 名前を挙げられて、困惑していたマリだったが、途中で黒ライオンと白クマの魔物のことだと理解する。


「それならこの早い進級も理解できるね。まさか一か月そこらでジェイド級になるなんて。普通は考えられないことだけどねぇ。エクスも規格外だろうが……マリも規格外か」

「え、いえ、エクスはともかく、私はまだ初心者でそんなことないと思いますが……」


 イメルダさんは私の言葉を聞いてため息をついた。


「本気で言ってるのかい? どこに一か月程度で進級する初心者がいるんだい……普通は早くても半年、大抵一年は進級するのにかかるがね」

「え……」

 

 思わずエクスへと顔を向けると、彼は私と目を合わせないようにしているのか、そっぽを向いている。


「しかも先ほどの話を聞いたけどね、光線だって? 私だってそんな魔法聞いたことないさ。しかも光魔法ではなく、火魔法でだろう?」


 彼女にじろりと見られて肩が跳ねる。やばい、これは問題があったのか……確かにエクスが目を丸くしていた時点で気づくべきだった。そう考えても後の祭り。どう言い訳しようかと緊張が続く私だったが、先にフォローするようにエクスが口を開く。

 

「ああ、マリは賢者の元で修行しているからですよ」

「おや、あの魔の山にいるという、エクスの師匠かい?」

「ええ。彼の方の専門は魔法ですから。そこでよく使っていましたね」


 そうエクスが話していたので、私はソワソワしてしまった。いや、そもそもジャックさんは使っていなかったし……私が考案した魔法だけど、大丈夫なのだろうか……?

 そんな私の考えは杞憂だったようだ。イメルダさんは納得したのか顎に手を触れて頷いていた。

 

「賢者の弟子か……なら、不思議な魔法を使ってもおかしくはないね。私だからいいけれど……軽々しく話すんじゃないよ?」

「分かりました」

「師匠もマリの能力の高さに嬉しそうでしたから……色々仕込まれていると思いますよ」

 

 そう苦笑いでエクスが告げると、イメルダさんは肩を落とす。独り言で「あのお坊ちゃんは……」と呟いているので、どうやらイメルダさんもジャックさんと面識があるようだ。

 その間にエクスがこちらを一瞥する。彼の口角は少し上がっていて、得意げな様子だ。普段はあまり見ないそんな姿に、エクスも年齢相応の姿を見た気がする。その後彼はすぐにイメルダさんへと顔を向けると、話を続けた。

 

「もしギルド長が使うとしたらどんな魔法を使うんですか?」

「私かい? 私は風魔法が得意だから、烈風を使うね。風を渦巻かせて、一気に地面に叩きつける」


 どうやらイメージは竜巻か。落ちる衝撃を利用して、範囲攻撃を行うのだろう。


「勢いのある渦を巻いた風は、砂だけでなく岩や石も巻き上げるだろう? あいつらの甲殻に細かい傷をつけてやるのさ。傷があるのとないのでは、大違いさ。圧倒的に傷のある方が、重傷を負いやすい」

「広範囲で敵を殲滅できますし、魔力が多くある場合は非常に有効なやり方ですね」

「おや、マリも理解できる口かい? これは確かに変わり者賢者が好きそうなお嬢さんじゃないか」

「マリは優秀ですから」

 

 エクスに褒められた私は目を見張る。

 いやいや、君、そんなにさらりと人を持ち上げる言葉を吐くような人だったっけ……? なんて心の中で思っていると、エクスの言葉を聞いたイメルダさんは何度も頷いていた。

 

「そうだな、一ヶ月でジェイド級になる理由も理解できるね。マリなら、ルビー級もすぐだろうねぇ」

「え、そんなに……?」

「よかったな、マリ。ルビー級になるには、だいたい5年以上かかるって言われているからな」


 いたずらっ子のように笑うエクスに、思わず頬を膨らませる。そんなに早く進級しなくて良いんだけど……と呟こうとした私だったが、その前にイメルダさんから言葉が紡がれた。


「ただ、お前たちが手に入れた幸運の腕輪だけがネックだねぇ。それは欲しがる人が多い。お金を提示する者もいれば、襲ってでも手に入れようとする奴もいるだろうよ。まあ、エクスもマリも手練れであることは知っているが……用心することに越したことはないからねぇ。所有権がお前たちにあると、私の名前でギルドカードに記載しておくようにするさ」

「あ、ありがとうございます」


 言われるがまま、イメルダさんへとカードを渡す。テーブルの上に二人分のカードを並べ呪文を唱えると、文字の羅列が浮き上がってくる。そしてその羅列の下に、彼女は指で文字を書いた。書き終えたと思えば、その字は光に紛れて霧散していく。

 美しい光景に息を呑んで見守っていた私だったが、イメルダさんにカードを差し出されて我に返った。

 

「これならお前たちに所有権があることを示せるだろう。何かあった場合は、このカードをギルド長に渡すと良い。お前たちが幸運の腕輪を持っている証明になるだろう」

「ギルド長、ありがとうございます」

「これくらい、なんの手間もかからないから問題ないさ。ところで……」

 

 イメルダさんはチラチラとこちらを見てくる。もしかしたら私に用事があるのだろうか。そう思って首を傾げていると、彼女は手のひらをさすりながら、上目遣いで私を見据えている。

 様子を窺っている彼女に困惑していると、意を決した彼女が声をかけてきた。


「マリ、私にその光線とやらを教えてくれないかい? 実は私は火魔法も多少使えるのさ」


 猫撫で声で私に依頼してくるイメルダさん。あれ、もしかして、こっちが素なのだろうか……。そう考えていると、エクスが大きな息を吐いてから、告げた。

 

「ギルド長……もしかして俺たちと会ったのは、面白い魔法の存在を知ることができそうだ、という好奇心ではないですよね……?」

「ギクッ」


 エクスの言葉にあからさまに狼狽えるイメルダさん。どうやら図星のようだ。


「いやいや、私はギルド長としてだね――」

「いや、絶対好奇心ですよね?」


 そう延々と話が平行線のままの二人を見て、私は思わず笑みがこぼれていた。

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