52、手に入ったものは……
「ねえ、これ、なんだろう? 腕輪?」
「……腕輪、だな」
宝箱に入っていたのは、腕輪だった。バングル型ではなく……日本でよく売られているパワーストーンを使った腕飾りが近い。
石の色は濃紺。所々に黄色い斑点模様が浮かび上がっており、まるで夜空に輝く星のようだ。
私たちは顔を見合わせる。
「ねえ、これって何に効果があるのかとか調べられるの?」
「ああ、鑑定魔法と言われる魔法を使うな」
やはり鑑定魔法か、と私は納得した。エクス曰く、どうやら鑑定のための魔道具がギルドには置かれており、利用料を支払うことで使えるのだとか。
「鑑定魔法って使えないの?」
「鑑定魔法を使える人……聞いたことないな。鑑定魔法は初代賢者様が編み出した複雑な魔法らしいからな」
話を聞いていた私は、ふと思いついて初代賢者様が作成したと言われている本を鞄から取り出した。私は目を瞑って右手を本の表紙に触れてから、鑑定魔法を使いたいと強く願う。
すると本が淡く光り出し……自然とページが捲られていく。そして以前と同様に、ある場所で止まった。そこに書かれていたのは、新たな魔法陣である。
私は本に書かれている魔法陣を先ほどの腕輪の前に描く。
その途端、魔法陣は腕輪へと吸収され……私の頭の中に情報が入ってくる。
「これは……ラピス・フェリスと言う腕輪らしいわ。えっと……いわゆる『幸運の腕輪』なんだって」
「幸運の、腕輪――」
私の言葉を聞いて、絶句するエクス。
「どうしたの?」
私が不思議そうな表情で訊ねると、彼は正気に戻ったのか、顎に手を置いて考え事を始めた。
「ラピス・フェリスは滅多に出ないアイテムだぞ? 国に片手の数あるかどうか……」
そんな話をし出したエクスに、私は口をあんぐり開ける。幻と言われるアイテムをまた私は手に入れてしまったらしい。
「えっ、またレアなやつ?! どうするの、エクス! これだと私たち、国宝級アイテばかり所持しないといけなくならない?! 歩く国宝じゃん?!」
「ぶっ」
私の狼狽にエクスは吹き出して笑う。いや、笑いごとではない。また厄介なことが起きるのではないか、と戦々恐々としているのだ。肩を落とす私にエクスは近づき、頭をポンポンと撫でる。
「大丈夫だろ。マリは強いからな。それに……いざとなったら俺が守ってやる」
私は微笑んでいるエクスをじっと見つめる。あまりにも見ていたからだろうか、しばらくするとエクスも居心地が悪そうに、身体を捩らせた。
「……なんだ?」
「エクス、そんなイケメンが言うようなことも言えるのねぇ……」
「……おい、いけめんってなんだ?」
一人で感心する私に、眉間に皺を寄せながら疑問を呈すエクス。私は少し照れ臭くなって、「なんでもない」とそっぽを向いたのだった。
洞窟を抜けた私たちは、そのままダンジョンを出ることにする。監視の視線が背中に突き刺さっているけれど、私たちは気づかない振りをして歩いていく。拍子抜けするほど何事もなく、ギルドへ辿り着いた私たちは一番に受付へと向かう。
そしてエクスは開口一番にこう告げた。
「3階層の洞窟を突破した」
「……! 承知しました。お待ちください」
受付の女性は最初目を見開いてエクスを見ていたけれど、それ以降動じることなく静かに席を立ち上がった。そして暫くして戻ってきた彼女は、私たちを応接間へと招く。
「少々お待ちくださいませ。ギルド長が参ります」
目の前のテーブルにお茶を出した彼女は、会釈した後仕事に戻っていく。扉が小さな音を立てて閉まったところで、私はエクスに声をかけた。
「あの人たち、仕掛けてこないのね」
てっきり監視の者たちが仕掛けてくるかと思ったのだが、拍子抜けしてしまう。首を傾げてエクスを見ると、彼は腕を組んで考え込んでいる。
「そうだな……洞窟を途中で離脱した、と思われている可能性はあるな。何もない状態で俺らを襲っても、捕縛される危険性が高くなるだけだろう?」
「それもそうか……」
下手に手を出して捕まってしまったら元も子もないか……と思うけれど、そういう奴らは早くお縄についた方がいいような……。
「それと俺のランクを把握したのかもしれないな」
「あー、そうか。エクスはサファイア級だもんね。それを知ったら、警戒されるか……」
サファイア級は確か、最上のダイヤモンド級のひとつ前、だったか。それに比べれば、私はジェイド級……下からふたつ目なので、舐められる可能性が高い、ということか。
「もし狙われるとしたら、この腕輪の存在を気づかれた時だな」
「そっか……この腕輪、国宝級だったっけ?」
本当にあの宝箱はどんな仕組みなんだろう。そう首を傾げていた私だったが、エクスはニヤリと笑って言った。
「ああ、けどあの店長の依頼はやりやすくなったぞ」
「え、なんで?」
「あの依頼の中にはレアドロップのものが幾つかあったからな。それがあれば、比較的楽に収集はできると思うぞ」
「そっか、幸運の腕輪だもんね」
そういえば直前に、幸運が上がる装飾品のことを考えたような……? と考え事を始めようとした矢先、扉が叩かれる。どうやらこの街のギルド長がやってきたようだ。
私は頭に残っていた考察を一旦隅におき、姿勢を正した。




