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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第86話 取引済み

 非常に疲れた。僕はずっと玲姉たちの戦いを見守り、大王と話していただけなのだが、

 心身ともにボロボロになった気分だった。


 飛行自動車に乗り込むと思わず寝ころんだ。


「あたしが膝枕してあげよっか?」


 するとまどかが僕を見下ろすようにそう言ってきたのでバッと起き上がって真ん中に座りなおした。


「い、いや遠慮しとくよ……」


 まどかとて女の子の柔らかさはあるので魅力的な提案な気もするのだが、何か弱みを握られるというか……まるでまどかの方が年上みたいな……まどかと付き合ってるみたいな不思議な気分に複数襲われたので嫌だった……。


 反対側からドアが開き、島村さんは僕たちのやり取りを静かに見つめながら座った。


 この2人に挟まれると嬉しいような緊張するような複雑な気持ちなんだよな……。


「なんか、お兄ちゃんやお姉ちゃんが好き勝手言われている感じでイヤだったね……」


 まどかがそう不満げに口をすぼめた。さっきの膝枕はどうやら冗談の延長線上みたいだった。


「大王と話すたびに緊張するよ。何か発言で怒りの導火線に火を付けやしないかとね。油断したら人体実験要員になりかねないから……」


「人体実験ってそんなに怖いの?」


「そりゃヤバいだろ。今まで人間に使ったことが無いような薬や電極を体にぶち込まれるんだ。

 生きている保障は無い。若しくは死ぬことが分かっていて大王はやっているんだ……」


「そんなに酷いだなんてイヤだね……」


 まどかは全貌を知らないのだ。それをデータ改竄して人体実験要員を増やしていた僕の罪はとても重いと言えた……。


「ま、そうやってこちらがビクビクしているのを見てストレス解消しているのよ。

 権力者なんて誰もが皆そんなものだわ。

 だから堂々と胸を張って話していればいいのよ。

 大王さんは輝君の怯えている姿を見ていつもほくそ笑んでいるわよ」


 玲姉が僕たちの方を振り返ってそんなことを言ってきた。

 

「とは言え権力も実力もある大王を前に堂々とするなんて無理だよ……」


「……輝君は即座に実験体になっていないだけでまだマシだと思った方が良いと言う感じね。

 私たち3人だって手伝ってあげたいところだけど、コスモニューロンが使えない以上は、限定的にしか手伝えないわ。それだけは分かってね」


 玲姉は後半の方は申し訳無さそうな声で言った。玲姉たちのように特に健康に気を付けている人たちが突然コスモニューロンの電極を入れると健康被害を受ける可能性がある。


 そうでなくても玲姉は大王に対抗するための手段や信念として思考を読まれないためにやっているんだから理解しなくてはいけなかった。


「う、うん……」


 しかし、そうは言っても玲姉に頼り切りの日々のためにポッカリと穴が開いたように心細い……。


「大丈夫ですよ虻輝さん! 私が現状に加えて更なるサポートをさせていただきます! 私も個人で耐久力のある新生物を探しますので!」


 建山さんが背後から僕に元気よく言葉を投げつけてきた……。この建山さんが特攻局の人じゃなければ邪険に出来るのに……。と日々思えてしまう……。


「建山さんは部下にキッチリと指示を与えてるときのような凛とした威厳のある姿を私たちの前でも見せて欲しいものだわ」

 

「え~~~~!!!! 今だって威厳があるようにしているつもりなんですけど~~!」


 玲姉からもそう思われてたんだな……。常識的に考えてそう思っちゃうよな……。


 普段はこのように僕のことを何故か好きな力が強いどこか間抜けな女性にしか見えないから……。


「私たちにもコスモニューロンが無くても出来ることは無いですか? 例えばロボットを手で遠隔操作するみたいなことは出来そうな気もするんですけど」


 島村さんはとても意欲的だった。本が消えた一件以来、何とかして取り返そうという姿勢がうかがえた。


「そうですねぇ……この作業は無限に人手が必要ですから、出来る範囲で構わないのでコスモニューロンが無い3人にもやっていただきますかね。玲子さんであればすぐにマスターされそうですけど」


「えー、私そんなにできるかな~」


 しかし、玲姉はそうは言うもののやらせてみれば何でもとんでもない高レベルの水準でこなしてくるからな……それも楽しそうに……。


 ゲームも現段階ですら僕と戦ったらハンデ無しでも骨が折れるほどだ。

 極めさせたら平然と短期間で僕をも上回りそうだから同じレギュレーションで戦う事が無くて本当に良かったと言える……。




 

 家に着くと烏丸が玄関で笑顔で迎えてくれた。


「あ、お帰んなさい~。リビング無事に戻ってますよ~」


 帰り際に様々な機械とすれ違ったが、僕の家を総力を結集して修復した帰りだったようだ。


「えー、あたしの腰より上が全部無くなったと思ったんだけど……夢?」


 まどかの言う通りリビングの上部が吹き飛んだのが悪い夢だったかのように元通りになっており、ダイニングテーブルには夕食が並んでいた……。


 夕ご飯は今回の成果の記念だったのか近江牛ステーキだった。近江牛は良い部位は口の中で溶けるようでジューシーなんだよな……。


「流石に最初に掃除船用ロボットが10台、その後建設用ロボット10台がせわしなく動いてようやく元通りと言う感じでしたけどね~。設計図そのものは残っていたので調度品も合わせて修復するのが楽だったみたいですよ~」


「ひぃえ~。すんげぇな……」


 景親が壁などをポンポンと軽く叩いているが何の問題も無さそうだった。


「まさに金にものを言わせたというところかしら。今回に関しては私の暮らす場所でもあるから直ってくれて良かったとも言えるけどね」


 玲姉は皮肉を込めたような言い方だった。


「キッチンまでやられてましたからねぇ~。玲子さんの好きな電磁波が少ないタイプのオーブンレンジもやられてましたから最新のに換えておきましたよ」


「あら、そうなの? 新しくなったのなら怪我の功名かしらね」


 玲姉は料理が本当に好きなのか一転して嬉しそうにそう言った。


「為継、この修復にいくらぐらいかかるんだ?」


「そうですな。スピードが速かったこともあり、20億円ぐらいはかかっていそうですな。

 しかし、私の得た情報ではこの損害金は日本宗教連合に請求されるとのことですから、虻利家の財布には影響が無いと思います。むしろ、それ以上に請求した可能性も高そうです。

 日本宗教連合としても組織そのものが潰れないための取引とでもいうべきですかな」


「へぇ……僕が所属している家とは言え根回しが凄いな」


 流石は経済の頂点にも立つ虻利家。損を回収するスピードも抜かりが無い……。

 これが国家権力と科学技術局を味方につけた力だというのか……。

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