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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第6章 科学VS呪い

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第85話 絶妙な攻防

 建山さんが意気揚々と本殿入ってきた部下に対して、斎宮神主を逮捕することが出来ないと静かに話すと部下たちは愕然とした表情になった。


「くっ……本丸を捕まえられなきゃ、何のためにここまで動いたか分からないじゃないですか!」


「そもそも私たちの権力と言うのは正式なものではない。そもそも機関そのものが正式では無いのだから。

 そのためにこうした”取引”と言うのがまかり通るのだ」


「し、しかし本部には神主を含む数百人規模の逮捕と申請してきたのですが……」


「捜索をしても証拠が挙げられなかったと報告書を書きなさい」


 建山さんの”仕事モード”の時は本当に威厳があるし、感情を押しとどめるのが上手い……。


 是非僕たちの前でもそうして欲しいものなのだが……。


 建山さんと特攻局の部下とのそう言ったやり取りはしばらく続いた……。


  一方で端の方では斎宮神主が満面の笑みを浮かべていた……。


「……為継、本当に斎宮神主のやり方は盤石なの?」


「そうですな。現状の中では彼にとって最善と言っても良いでしょう。斎宮神主は日本宗教連合の代表でありながら様々なシステムを駆使して我々の弱点や特徴を調べ上げているようですからな。

 科学技術局は大王局長の裁量次第であり、特攻局は非公認機関であることを上手くついていると言えます。

 今回の罪状は”扇動の罪”ということでしたが、実行犯のみが罰せられるようなものになりそうですな」


「そんな悪さをしておきながら罪に問われないとは……」


「裁量が与えられている場合は案外そんなものですよ。法治国家や罪刑法定主義の時ですら、警察官や裁判官の匙加減で決まりました。どう見ても犯人だったとしても証拠が完全にそろわなければ有罪にならかったりした一方で、警察の捜査に監視カメラが無かった時代では脅迫じみた行為による自白で死刑判決になったこともありました」


「その時代はそれはそれで問題があったけど、今は今で別の問題があるってことか……」


「そうなりますな」


 AIやマイクロチップ、監視カメラなどで日本中を網羅しているが、虻利家とその関係者が絶対的権力を握り最終決定権を担っている。その構造の隙を上手くついて来ていると言えた……。


「それで何をやってるの?」


「斎宮神主から渡されたデータが本物であるかどうか確認しているのです。

 他の神社のサインもあったので照合しましたが、本物である可能性が極めて高いようです」


「それは良かった」


「ふぅ……ようやく納得してくれましたよ。部下たちも功を焦ってもらっては困るんですけどね」


 気が付けば特攻局の捜査員たちは音もなく消えていて建山さんだけが残っていた。いつもの美人だけどどこか間が抜けた雰囲気に戻っていた……。


「ま、今回は残念だったけど、あのレベルの人物であれば時期にまたやらかして捕まるようなことをするでしょ。

 全ての事象が不問になったわけでは無いのだからね。

 私たちとして見たら手に入れたいものを手に入れることが出来たのだから上々の出来だわ」


 玲姉は為継から本物であると伝えられてからニコニコと満足げだった。玲姉からしたら日本宗教連合がどうなろうとあんまり関係ないのだろう。


「あの……私は部下に対して日本宗教連合の代表を捕まえる! と意気揚々と宣言して300人出動してきただけあって立つ瀬が無いんですけど……」


「人数を動かすだけで理想通りいくなら苦労することは無いわよね?

 特に物事の本質的な事柄に近い本丸ほど困難なものよ」


「確かに虻輝さんは恋愛対象として難攻不落ですからね……色仕掛けしても反応が薄いですし……」


 建山さんは僕の方をチラリと見る。いや、そんなこと言われても困るんだけど……。


 色仕掛けで落ちたら落ちたで別の問題が発生しそうだし……。命が危なくなりそうだし……。


「ともかく今日のところはデータだけでも手に入ったことだし、大王さんのところに行くわよ。

 データに閲覧期限とかがあったら困るでしょう?」


「そうですね。喜んでいる場合では無いですね。こんなに苦労したのに失ったら痛すぎますからね……」


 島村さんが表情を引き締めている。今日のことに対して並々ならぬ気迫を感じたので最後までやり遂げたいのだろう。


 一方でまどかはどこか力を使い果たしたようで眠そうだった……。玲姉はそれを察したのか手を引くようにして車に向かっていった……。





 科学技術局に到着すると、再び厳しい顔になりながら建山さんは外で待っているとのことだった。

 やはりライバル関係である以上はお互いの縄張りに侵入しないという不文律みたいなものがあるのだろう。


 厳密な検査を通過して大王の元に到着すると、大王はご機嫌の雰囲気だった。既に為継から結果報告を受けているのだろう。


「――流石ですな。これならば問題ないでしょう。成果を出すことに関しては玲子さんを信頼して良いようですな」


 データを確認すると満足げだった。


「ええ。私はこれまでいかなる苦境も自分の実力と実績で切り抜けてきましたからね」


「大丈夫なの? 神主逮捕できなかったけど……」


「私は斎宮神主を逮捕することを条件としていませんからな。あくまでもここにある痣を取り除いて欲しいだけですので。

 そこに向かって前進したことはとても良いことなのですよ」


「へぇ……そういうものなのか……」


 科学技術局と大王からしてみたら特攻局がどうだろうと関係ないんだろうな……。


「局長、このような日本宗教連合の急所とも言える情報が流出したとなると縄張りの変更など新たな動きがあると思いますが、いかがされますか?」


「それならば問題ない。ある程度歴史と伝統があっての縄張りなのだから、これを大きく変更しようとすればそれなりの動きがあるはずだ。そこを追及していけば良い」


「なるほど」


 2人ならば水面下でこんな話ができるのに敢えて僕たちの前で行っているという事は、”見せつけている”と言う要素が強いのだろう。


「それにしてもよくぞやってくれました。残る半分の条件も頼みますぞ」


 とんでもない無理難題だが、玲姉たちであれば何とかしてくれることだろう……。


「輝君は随分呑気そうで他人事の雰囲気だけど、これからは輝君の番よ? 私は役割を果たしたんだから、輝君は輝君の役割を果たしてくれないと」


「え? これまで発見されていない新生物なんて僕に見つけられるのかなぁ……」


「私だって時間が無いんだから。 大学生で暇を持て余している


「そうですな。デジタルに関することでしたら虻輝様に期待をかけたいですな。

 為継や特攻局を全面的に活用されて一向に構いませんのでより良い結果を出してください。

 それがこの世界で生き残るための唯一の方法ですからな」


「僕も年末の総決算の大会に向けて忙しい身の上なんだけどなぁ……」


「ハハハハ!!!! それでしたらこう考えられてはいかがでしょうか? 命を懸けたゲームです。

 見つけられなければ虻輝様のお命を私に全面的に預けてください。

 どうです? それならばやる気も出るでしょう?」


 僕の身体から血が引いていくのが分かった……。


 大王の表情からは本気かどうか窺い知ることは出来ない……。


「ぼ、僕も少しは力を発揮しないとな~」


 そう声を震わせることしかできなかった……。

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