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第八章 02

 

「お嬢様方、いつまで立ち話をなさっていらっしゃるのですか。お坊ちゃま方も心配なされているのではございませんか」


 デニス様の見送りから戻って来たモーリスが未だに扉の前にいる私たちに声をかけ中へと促した。

 そうだった、いきなり来客を押し出して扉を閉めてしまったから弟たちは何事かと心配しているはずだ。

 恐る恐る扉を開けるとやはり弟たちが心配そうにこちらを見ていた。


「ええと……急にごめんなさい、なんでもないのよ。アレンも一緒にお茶をしましょう」

「あ、ああ。お邪魔するね」


 アレンも席に着いたところで改めてお茶を入れてもらい堪能する。

 お茶菓子も新しいものが追加された。


「ところで姉さま、さっきアレン様と一緒にいた銀髪の人は?」


 デニス様をしっかりと見られていたらしい。

 カイトがお菓子を手に取りながら好奇心に目を輝かせて聞いてきた。


「あのお花、もしかしてお姉さまにアプローチしにきたの?」

「ベルったら、あなたいつの間にそんな言葉覚えたの。違うわよ」


 先ほどデニス様から渡された花束は侍女に花瓶を用意してもらい、今は扉付近のチェストの上に飾られている。

 何か仕込まれてたりしないか少々心配したもののそこは事前に確認していたのかアレンがただの花束だとこっそり教えてくれた。


「じゃぁさ姉さまの理想の人ってどんな感じ?」

「何よもう、おませさんね」

「僕も聞きたーい」

「私も気になります」

「ほらみんな知りたいって、アディも知りたいよな」

「たーい!」


 こらこら、悪ノリしてきたわね、それにアディリシアは真似しているだけでしょう。


「僕も聞きたいな」


 便乗してアレンまで弟たちの味方をする。

 もうこうなったら何か言わないと収まりそうもない。


「私の理想は…」

「「「理想は?」」」

「ベルみたいに優しくて、カイトみたいに溌剌はつらつとしていて、ライルみたいに真面目で、お父さまみたいに頼りになる人よ」

「えーなんだよそれー。そんな人いないよ」


 そんな事を言いつつも照れ臭そうに顔がニヤニヤとしているカイト。

 あらぬ方を見て誤魔化そうとしているけど耳が赤くなっているので照れているのがバレバレだ。


「あら、いないかどうかなんてわからないわよ。どこかにいるかも」

「僕もお姉さまみたいな方が良いです!」


 ベルグラントは天使のようなキラキラした笑みでそう言ってくれた。

 うんうん私も嬉しい。

 はてさてライルはどうかしらと視線を向けると。


「私は姉上とアディを足して半分に割ったような女性が良いですね」


 しれっとそう言って膝の上のアディリシアをギュウと抱き締めた。

 お父様似でクールに見えるライルが一番弟妹愛が強そうだ。


「僕もルディが理想だな」


 流れに乗っかって調子の良い事を言うアレンの言葉は聞こえなかった事にしよう。

 ニコニコしつつ絶対に面白がっている顔だあれは。


「カイトはどんな子が良いの?」

「そ、そんなの知らない」

「本当かしら、隠さないで教えてちょうだいな」

「知らないってば、もういいじゃん別に」


 さっきまで照れていたのに何故か急にカイトは拗ねたみたいになっている。

 人に話を振っておきながら自分は誤魔化すとは何事か。


「まさか、すでに好きな子がいるの?」

「い、いないよ!何言ってるのさ」

「ふぅん……まぁいいわ、今度教えてね」


 これ以上からかうと本格的に拗ねてしまうかもしれない。

 大雑把な性格に見えて意外と繊細なところもあるのがウチの次男だった。


 それから話題を変えてアレンも交えてのんびりとお茶を楽しむ。

 新緑の宴での魔獣の話になった時には焦ったけれど察したアレンが上手に話を合わせてくれた。

 少年たちの心を掴む話しぶりでいつの間にかアレンが中心となって話していた。

 時折、聞き役に徹している私を気にかけて微笑んでくれたり話を振ってくれる。

 まるで気の利くお兄さんのようだ。


 こんなゆっくりとした時間はなんだか久しぶりな気がした、最近はお茶をする時も魔術の練習や剣の修練に付き合ってばかりだったと気付く。

 弟たちにもたまにはこういった気分転換も必要かもしれない。

 ひとしきり話を終えてそろそろアレンが帰ろうかという時、彼はポケットからいくつかのアクセサリーの様な小物を取り出した。


「帰る前にみんなに渡したいものがあるんだ」


 そう言ってキラキラと煌めく宝石の様なものが付いているそれを私たち兄弟にアレンは順番に手渡していった。

 弟たちにはブローチ、私とアディリシアには髪留め。

 シンプルで上品なデザインなので普段使いからフォーマルでも身に付けられそうだ。


「この間、父上と山岳の領地に採取に出掛けたときにカーバンクルの集落を見つけたんだ。ちょうど生え変わりの時期だったらしく結晶がたくさん落ちていてね」

「「カーバンクル!?」」


 下の弟2人が色めき立つ。

 カーバンクルは山奥に住んでおり定期的に生え代わる額の結晶は魔力を持つ素材としても宝石としても価値が高い。

 守護の魔力がある事から旅のお守りや魔除けとしても用いられたりしており、粉にすれば薬効も有ることから薬としても重宝されている。

 そんな稀少なものをポケットから飴玉を出して渡すみたいに。


「貰えないわ、こんな貴重なもの」

「貰って欲しい、それにこれは市場に流せない規格や欠けたや結晶で出来ているから価値はそれほどないんだ」

「でも、こんな素敵な加工を施すなんて」

「うちのお抱え工房の見習いに練習で作ってもらったものだからそこも気にしないで。それにお守りみたいにたまに身に付けてもらえたらと思って持って来ただけだから」


 そうは言ってもと逡巡していると「姉上」とライルに声をかけられた。


「せっかくのアレン様のお気遣いですしいただいておきませんか。お守りという事ですし父上も何も言われないでしょう」

「そうね、ごめんなさいアレン。私たちの事を気にかけてくれてありがとう。これは大切に使わせて貰うわね」

「受け取ってもらえて良かった」


 安堵するアレンに弟たちも口々にお礼の言葉を述べた。

 いつもお世話になっている事もあるし今度みんなで何かお礼をしよう。

 弟たちもきっと喜んで手伝ってくれるはずだ。


 今日は帰るアレンをみんなで玄関まで見送る事にした。

 アディリシアはそのままライルが抱えてくれている。


「ルディまた近いうちに」

「ええ」

「みんなまたな」

「お気を付けて」

「「さようなら」」

「ならー」


 ポンポンとみんなの頭を撫でてからアレンは帰って行った。

 遠ざかる馬車が見えなくなってから部屋へと戻る時、つんと袖を引かれた。


「姉さま」

「なぁにカイト」


 私を引き留めたカイトはライルたちが先に部屋に入るのを見届けると内緒話をするように両手を口元に当てたので身を屈めて耳を寄せる。


「内緒だけど……母さまみたいな人、だよ」

「え?」

「特別に姉さまだけに教えてあげる」


 カイトはそれだけ言うと逃げるように部屋へ走って行った。

 それは先ほどの理想の相手の答えだろうか。

 お母さまみたいな人。

 なるほどと、思わず微笑んでしまった。

 

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