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第三章 11

 

 髭の男が私たちの集めたお金の袋を手に親分へ中身を見せるとそれなりに満足いくものだったのかイニヤリと笑い「行くぞ」と声をかけて颯爽と外へと向かった。


 こんな男たちの為に集めたお金ではない、孤児院の子供たちが健やかに過ごすためのお金だ。

 それがこんな男たちの手に渡るなんて悔しさを隠し切れない。

 でも今は皆の身の安全の方が大事だ、それは分かっている。


 でも悔しかった。


「ほら行きなぁ」


 親分に続いて髭の男、その後ろを私は帽子の男に背中を押され歩き出した。


 扉の近くに倒れているカイト、強く殴られたようだけれど大丈夫だろうか……心配で思わず足を止めるとグイッと髭の男に腕を引かれ歩かされる。


 両手を前で縛られているので抵抗する事も出来なかった。


「さっさと歩け」

「嬢ちゃんよ街を出るまで余計なことはするんじゃねぇ、…わかってるな?」


 親分の言葉に帽子の男が抱えるアディリシアを見て小さく頷く。

 隙を見てアディリシアと共に逃げ出せるように、でもそれを悟られない様に私は悔しさも怒りも隠して無表情に徹した。




 扉を抜けて外に出ると眩しい陽射しが降り注いだ。


 少し離れた場所に並ぶバザーのテントたちに賑わう声がここまで届いてくる。

 誰もここでこんな事が起きているなんて思ってもみないだろう。


 ふと見慣れた教会の庭のはずなのに違和感覚えた、何かが違う気がする。

 そして気付いた、目の前に空高く伸びる木の様なものに。


 よく見るとそれは幾つもの蔦の様なものが絡み合って伸びていた。

 じっと見上げていると再び髭の男に腕を引かれて足がもつれ危うく転びそうになってしまった。


「おい、いちいち足を止めるな。時間稼ぎのつもりか」


「うぉ!」


 突然、後ろにいた帽子の男が悲鳴を上げた。

 振り返って見ればカイトが男の腕からアディリシアを引き離そうとしがみついていた。

 いつの間に目を覚ましたのだろうか。


「カイト!」


「アディを離せ」


「イテテテ! 何すんだこのカギ!」


 ガツンと反対の手で殴られてもカイトはアディリシアを離すまいと必死に守り奪い取ろうとする。

 そこへ髭の男も参戦しようとした瞬間にさせてはいけないと私は思い切って体当たりをした。


 共に地面に倒れこむが縛られた腕をなんとか使ってすぐに立ち上がりカイトの所へ行こうとして今度は地面に引き倒されてしまった。

 背中を強く押さえつけられて一瞬息が詰まる。


「っ!」


 強く体を打ち付けた為に鈍い痛みが全身を襲い、縛られた腕が変な風に体の下に入り込んでしまったせいで鈍く軋む。

 そして息が整う間もなくグイッと髪を引かれて顔を上げさせられ、思わず呻いた。


「うぅ……」

「おいガキ、姉ちゃんがどうなっても良いのか」


 頬にキラリと光る銀の刃。

 私にナイフを向けてカイトに手を離すよう言うのは恐らく親分だろう。

 カイトが泣きそうな目でこちらを見るのが分かった。


 情けない、私は大切な弟妹すら守れないのか。


 心が折れそうになった瞬間、掴まれていた圧力から突如解放される。


「っぐっ」


 そして鈍い音と共に親分が地面に倒れる姿が横目に入った。

 何事かと思ううちに抱き起され、気付いたら優しい温もりに包まれていた。


「ルディ、怪我は無い?」


 聞きなれた声に顔を上げれば息を切らせたアレンが私を抱きしめていた。


「ア……レン」


「ごめん、遅くなった」


「どうしてっ……カイトとアディリシアは?」


「そっちは今オズが」


 キンと金属音が響く、髭の男のナイフにオズワルドが短剣で応戦していた。

 身軽さを活かした体術も合わせてあっという間にオズワルドが優勢を取る。

 形勢が不利だと感じたのか帽子の男がカイトを振り払いアディリシアを連れて逃げるように走り出した。


「逃がすか!」


 アレンが帽子の男の足元の植物に魔力を集中させて急成長させると逃がさないとばかりに男の足に絡みついた。そして突然の事に驚いた男の前に現れたのは侍女の姿をしたエマ様だった。


「な、なんだお前ぇ」

「アディリシア様を返していただきましょう」


 冷静に話したと思った次の瞬間にはアディリシアはエマ様の腕の中に居て帽子の男は尻餅をついて倒れてた。

 侍女姿のエマ様は武器など持っていないかのようなのに帽子の男には一瞬で幾つもの切り傷が出来ていた。

 エマ様がアディリシアを保護して下さったならもう大丈夫だろう。

 そしてその背後から騎士団の人たちが現れてあっという間に男を捕らえる。


 私のすぐ側に倒れていた親分もいつの間にか現れた男装の麗人に押さえつけられていて、同じ様に騎士団に引き渡されていた。

 男装の麗人はエマ様と同種の方だろうか同じ空気をまとっていた。


 残った髭の男もオズワルドに短剣を突き付けられ、騎士団が現れたことにより持っていたナイフを降参とばかりに手放して両手を上げた。


 急展開に頭が追いつかず呆然としていたらいつの間にかアレンが縛られていた縄をほどいてくれていた。

 自由になった身で急いで弟の元へと駆けた。


「カイト!」

「姉さま!」


 抱き寄せて無事を確かめる。


「ひどい怪我だわ、痛いところは?動かせない所はある?」

「姉さまこそ……俺は大丈夫だよ」


 殴られた後は痛々しいがカイトは安心させるように笑みを浮かべた。

 思わずギュッと抱きしめ直す。

 無事でよかった。


「よく頑張ったなカイト」

「アレン様、姉さまをありがとうございます」


「来るのが遅くなってごめん」

「これでも精一杯急いで来たんだけどな」


 アレンとオズワルドが申し訳なさそうに小さく頭を下げた。

 こんなバザーの最中に誰も来るはずがない場所に来てくれただけでも奇跡のようなのにそんな顔をされては申し訳ないと私とカイトは慌てて首を振った。


「あなたたちが来てくれなかったらどうなっていた事か……本当にありがとう。まだ教会の中にナターシャ様たちがいるのよ」


 そちらも助けに行ってあげてと続けようとしたところで2人の女性が姿を現した。

 ナターシャ様とすでに帰ったと思っていたマリおば様だった。

 マリおば様の背後には先ほど男装の麗人と同じ様な方が控えていた。

 あの時エマ様が言っていた他の者たちとはこの人たちの事なのだろう。


 ナターシャ様は私たちの側にしゃがみ込むと両手を伸ばしてそっと私とカイトの頬に手を寄せてくれた。


「ナターシャ様、みんなは?」

「シスターナディアもノーラも大丈夫よ、マリーアンが来てくれたから。それより……2人共辛い目に合わせてしまったわね。ごめんなさい」

「ナターシャ様が謝る事ではありませんわ。悪いのはあの方たちです」


「ええでも、ごめんなさい」


 そんな悲しそうな顔をしないで欲しい。


 私はナターシャ様の手に自分の手を重ねて小さく首を振った。


 

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