第八話「隣」
僕は、かなり緊張していた。石峰さんと一緒に廊下を歩き、石峰さんと一緒に階段を下り、石峰さんと一緒に、二人で仲良く同じ道を帰るのだ。
付き合っている訳でもなく、手をつないでいる訳でもない。しかし漠然とした胸の高揚感と、緊張感があった。
まるで雪女に、その冷たい指で喉元を撫でられているかのような、得体のしれない感覚。
そんな感覚のまま、僕はおおよよそ15分くらい歩いた。
彼女がふと立ち止まる。表札をみると「石峰」とあったから、ここが彼女の家なのだろう。
「着きました」
と、彼女が言った。
町並みに溶け込んでいる赤レンガ造りの建物は、豪華だと感じさせるが、同時に存在感が薄いようにも思われた。
中世の一般的な家が、漠然とコンクリートの上に建っているような、それで、たぶん、中は迷宮なんだろうな。と思った。
今、僕と石峰さんが立っている一本前には、禍禍しい柵があった。そういうところから見ても、彼女の家はかなりの金持ちなんだと推測した。
彼女は、柵を開き、僕を中へ招待した。入ってすぐ、お香の匂いがした。その匂いは心地よくかつ、不気味でもあった。
「…………匂い、平気?」
と、彼女が言った。
「いや、むしろ落ち着くな」
と、僕は答えた。
真っ白い壁に、たくさんの絵画が飾ってある。その多くが抽象画だった。僕たちは廊下を進み、突き当たりの階段を上った。
薄暗いが、すごく落ち着いた感じがする。石峰さんは階段を上りきった所の電球を付けた。
発色のいい橙色のライトが、フローリングの濃い茶色の目を鮮やかに映し出している。その奥に、部屋があった。
「…………驚かないでね」
再度、石峰さんは僕に確認した。
そうして、彼女は扉を開け放った。




