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第六話「鮮明」

 


 波に乗ってしまえば、あとは結果に向かって突き進むのみである。それから度々、彼女と図書室で二人きりになる機会が訪れた。


 彼女は本を読んでいる。法医学や解剖学について、特に熱心なようだった。高校生の女子が、そのように専門的な分野に興味を抱くのは、珍しいから、多分、石峰さんは変わった人なのだろう。


 僕の見解は、特に大きく的を外れたものではないな、とそう思う。少なくとも、彼女が「普通の女子」などであるとは到底思えなかった。


 それは、彼女がジッと読み耽っている解剖学の本に向けられた彼女自身の視線から、艶やかな妖しさを感じる事もあるし、法医学の本を読むときの、熱心さから、妖しさを垣間見る事もあった。


 彼女は、人間の体内に興味を抱いているのかもしれなかった。



「好きなの?人間の、体内」

 ある日、僕は彼女に聞いてみた。


「うん。すごく、神秘的に思う。私の体の中に、ハラワタと、血と脳ミソと、人間を構成する全ての臓器が詰まっている事が、面白いなあって、思うの」


 やはり彼女の声は、どこか微かに震えていた。その、微妙に震える声色が、可愛いといえば可愛いのかもしれない。


「まだ、科学で解明できない人体の不思議っていうのが、あるみたいだね。」

 と僕は言う。


「アナタは理解してくれるんだ。私の、趣味…………」

 と彼女は言う。


「えっ」

 僕は一瞬、何の事か分からずに、そう声を漏らした。


「私が、人間の体内に興味がある事について、キモチワルイ、とか、グロテスク、とか言わないんだね」


 固唾を飲んだ。

 今まで石峰さんは、他のクラスメイトにそのような事を言われていたのだろうか、気になって聞いてみた。



「石峰さん、そんな事を言われたの?」

「まあね。悪気は無いみたいだし、実際そうなんでしょうね」



 僕は、よくもまあクラスメイト達は、彼女に向かってそんな事を言う勇気があるなあ、と思った。


 そういう面では、やはり石峰さんの特異さに気が付いているのは僕だけのようだった。



「そうなんだ」

 と、僕は相づちを打つ。



 難なく、会話ができるようになっても、彼女の異質さの原因を突き止められるような気がしなかったので、僕は少し残念に思った。果たして、僕の思い過ごしなのだろうか。



 と、そう思った時だった。


「…………去年のオリエンテーション、倫くん、面白い事、言っていたよね」

 彼女は唐突に話を切り出した。


「私が、すごく異質な存在に思える、って」


 僕は固まってしまった。


「…………知りたい?」

 彼女はそう言って、僕の瞳をジッと見つめた。



「…………教えて、くれるの?」




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