新たな生活
ここはある国の鉱石採掘所である。ここでは多くの奴隷が足枷をはめて仕事に従事している。
「今日はここまでだ!」
鞭を持った男が奴隷たちに向けて叫ぶ。
それを聞いた奴隷たちは全員が一つの大部屋にいき、夕食をもらって自分の定位置につき食事を始める。ちなみに夕食はパン一個に薄味の野菜スープだ。
「おいベル。お前今日もやらかしたらしいな。」
いきなりひげを蓄えた汚らしいおっさん、名前をバジルという、が俺に話しかけてくる。
ベルというのは俺の名前だ。俺はこの採掘場で10年働いている。なぜこんなところで働かせられているのかはわからない。なぜならそれ以前の記憶を覚えていないからだ。
唯一俺の記憶の手掛かりになりそうなものは首にかけている銀のネックレスだ。後ろに何やら文字のようなものが書いてあるが読むことができず、とくに値打ちのあるものではない。しかしなぜかこのネックレスを外そうとすると頭が急に痛み始める。そのため常にこのネックレスをつけている。
「うっさい。テメェには関係ないだろ。」
「今日も牢屋に連れていかれたんだろ?よくもまぁ、飽きずに毎日おなじことができるよな。お前みたいなやつを何と言うか知ってるか?バカっていうんだぜ。ぎゃはははは。」
バジルが大声を上げながら俺を馬鹿にしている。俺はここでかなり問題児扱いされている。その原因はいつも看守の男に言い返すからだ。ほぼ毎日のように看守にケンカを売り、奴隷の紋章が発動し、牢屋に連れていかれて仕事が終わるまでその中で過ごすというのが俺の習慣だ。
「ベルは馬鹿じゃないぞ、バジル。君よりも十分頭がいいし、機転も効く。」
いきなり会話に入ってきた男は赤いロングヘアーで顔の整った美男子と呼べる姿をしていてアレンという。こいつは俺がここに連れてこられるよりもずっと前からここで働いており、年が同じだったためこいつとはすぐに仲良くなった。
「贔屓したらそいつのためにならねぇぞ、アレン。そいつのためにも教えてやる方がいいのさ。」
そういいながら飯を食べ終えたバジルはこの場から離れていった。
「そんなことよりベル。どうだい、計画は順調かい?」
「ああ。もう少しでできそうなんだけどな。」
「そうか。早くできるといいな。今日もいつものやって寝るのか?」
「そのつもりだよ。」
「わかった。じゃあ僕はもう休むとするかな。おやすみ、ベル。」
アレンもそういうと寝るためにほかの部屋へ行った。
俺は飯を食べ終わると採掘場にいき、鉄の棒を拾うとそれで素振りを始める。
これは10年前から毎日やっている日課でどうしてもこれをやらないと寝付くことができないのだ。素振りが終わると今度は走り込みをはじめ、それが終わると筋トレを始める。
それが終わってやっと眠りにつくのだ。もちろん汗のにおいはするが他にも寝ているおっさんからの体臭の方がかなりきついのでそこまで気にならない。今日も体がくたくたになるまで訓練したから熟睡できた。
翌朝、日が昇ると俺たちはすぐに起きる。看守が来たときに起きていなかったら朝飯抜きになるからだ。俺は朝飯だけは毎日食べている。うまくはないけどな。
飯を食べたらすぐに仕事に取り掛かる。今日もさっさと看守にたてついて牢屋に入れてもらうかな。
すると遠くの方から怒鳴り声が聞こえた。どうやらほかの奴隷が起こられているようだ。
そこに行くと、犬耳をつけ茶色の髪をした女の子が鞭でたたかれていた。このままだとこいつが牢屋に連れていかれるな。それだけはどうしても避けたい。
「もうその辺にしておけよ。」
看守と女の子の間に入り止めようとする。しかし看守の機嫌は収まらないようで鞭の矛先が俺に向かってきた。やり返すと紋章が浮き出てきて体を焼き尽くすような痛みが全身を襲うため、ただじっと鞭をくらい続けた。すると俺の反応が悪かったせいか看守の怒りはだんだん薄れていった。
その後、その女の子と一緒に牢屋へ入れられた。
女の子は鞭で打たれすぎてどうやら気絶しているようだ。することもないのでその女の子に近づいて観察する。
へ~、獣人って初めて見たけどこんな感じなんだな。ってこの子めちゃくちゃかわいいな。こんな子が奴隷になるなんてな~。
すると急に女の子が目を覚ました。目の前に知らない男がいたため飛び跳ね、短く悲鳴をあげた。
「キャッ。……あ、あの…あなたは?それにここは…?」
「俺はベル。あんたはさっき鞭で打たれていたんだ。で、ここは牢屋の中。覚えてる?」
「あっ。思い出しました。さっきは助けていただいてありがとうございました。私はクルルと言います。」
ぺこりと小さくお辞儀をして、名前をいった。
10年ここで働いてきたけどこんな子見たことないな。
「君、いつからここに連れてこられたの?」
「今日からです。」
昨日からか。なら知らないはずだな。
「そうか。まぁ今日みたいなことはよくあるから早くなれないとつらいぞ。」
「はい。頑張ります。」
その後、クルルとはたわいもない話を牢屋から出されるまでずっと続けた。
その日の夕食のとき、アレンが俺に話しかけてきた。
「聞いたよ、ベル。君、女の子を助けたらしいね。まぁ、かっこいい王子様だこと。」
「からかうなって。俺はあれのことがばれないようにかばっただけだ。」
「確かにここでばれるわけにはいかないもんね。ああ、そうだ。これ頼まれていたやつ。苦労して手に入れたんだから感謝してよ。」
そういってアレンは袋に包まれたものを渡してくる。中には新品のスプーンが数本入っている。
「これで何とかもつでしょう。はやく脱走できるといいね。」
「助かるよ。俺が魔法を使えたらこんなことしなくていいのになぁ。」
「仕方ないよ。ベルは魔法使えないんだから。まぁ、いつかこの恩を返してくれればいいよ。じゃあ、僕はもう休むよ。最近疲れがたまっていて。」
そういうとアレンは去って行った。
あいつには恩しかないからいつか返さないとな。
俺はいつものように稽古をした後、眠りについた。
次の日の朝食の時、俺の前に昨日話したクルルがやってきた。
「私来たばかりで知っている人がいなくて…。その…ベルさん…よかったら私と友達になってください。」
いきなりそう言われた。
奴隷たちの視線が俺に注目する。アレンはからかいネタができたというようににやにやしながらこっちを見ているし、バジルは舌打ちしながらにらんでくる。
めんどくさいことになったな。どうしようこれ。
そう悩んでいたらクルルは急に泣きそうな顔になった。
あー、俺が黙っちゃったから無視されたと思ったのかな。
「俺でよかったらいいよ。よろしくねクルル。」
そういうとクルルは泣きそうな顔から急に喜びの顔に変った。
「よろしくお願いします!ベルさん。」
クルルはそういうと俺の隣に座ってきて幸せそうにご飯を食べ始めた。
他の奴隷どもは口笛を吹いたりしながらこっちを見て楽しんでいる。
結局時間になるまで俺はいじられ続けた。
その日は昼から看守に文句を言って牢屋に連れていかれた。
昨日はクルルがいたからできなかった脱出口作りを始める。
一か所、壁の緩くなっているレンガを外しスプーンで壁の土の部分を削り始める。
看守が見張りに来る時間も頭に入っているため躊躇なく取り掛かる。
1時間くらいたった時、ついに壁に小さな穴が開いた。
直径1センチくらいの小さな穴から光が差し込んでいる。
やった。ついに穴が開いた。うれしさのあまり飛び跳ねてしまった。
その時足音がこっちに近づいてきているのが聞こえた。
なんでこの時間に?まだ見張りには早いだろ。やばい。見つかったら今までの苦労が。
すぐにレンガを戻し、削り落とした土を部屋の隅に集める。
ガチャ。扉が開かれ看守ともう一人入ってくる。
「さっさと入れ。」
看守にそういわれ中に入って来たのはクルルだった。
「心配できちゃいました。えへっ。」
クルルが恥ずかしそうに笑顔で言う。
一瞬ドキッとしてしまった。かわいいけどなんでこのタイミングで来るかな。
その後クルルがいたので俺は作業を続けることができなかった。
夜、俺は珍しく自分の方からアレンに話しかけていた。
「アレン。ついに外につながったぞ。」
「本当に?よくやったよ、ベル。」
ついでに今日起きたことをアレンに報告する。
「なるほど。つまりクルルちゃんがいたせいで少ししか穴は開いてないということだね。」
「ああ。どうしたものかな。今日の感じだとあの子明日もついてきそうだしな。」
「確かに。今もあっちの方で僕がいなくなるのを待ってるよ。」
そういいながらアレンは俺の後ろ側を指さした。その方向を見てみると壁に隠れながらこっちを見ているクルルの姿があった。目が合ったので手招きすると尻尾を振りながらやってきた。
「クルル。こいつはアレンっていうんだ。俺の友達だ。仲良くしてやってくれ。」
「よろしくね。クルルちゃん。」
「よ、よろしくお願いします。」
その後三人で食事を食べた後、クルルをどうするか朝話し合うことになった。




