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マレビト来たりて 前編  作者: 安積
第6章 秘密の花園と変人の巣窟
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「『秘密の花園』の真相解明?」


「はい。この依頼、一緒に受けてはみませんか?」


 いつもながら色気ダダ漏れの美少年というか美青年というかどちらで呼ぶべきか迷う風情の――まあ、便宜上少年としておこう――セム少年が、某世界名作劇場を思い起こさせる或る一枚の依頼書を持ってきたのは、私がある事に頭を悩ませているときだった。




 時の流れは早いもので、気付けば学校に通い始めて三ヶ月目に突入しており、中間考査の時期が迫っていた――因みに一年は二十四ヶ月、一期は六ヶ月だ――。まさかこの世界にもあるとは思わなかった中間試験。最終試験だけじゃなかったのか……。

 だが、それも学校教育制度を最初に始めたのが"始源の魔法使い"と聞けば納得のいく話ではある。しかも、通い始めてから知った話だが、ここ、ベルガディナルの諸々の学校の創立時の貢献者もまた日本産のマレビトだったというのだから、さもありなん、といった感じではある。

 まあ、それは今の私にはどうでも良いことだ。先人たちが何を考えていたかなど私には関係ない、そう、今この時(・・・・)に単位を落としかけている私にとってはそんなのは些事に過ぎない。大学も無事に一度もダブることなく卒業した今更になって、まさかこんな悩みを抱くことになるとは思いもしなかった。

 問題なのはある一科目。

 他は基礎科目だったり、筆記中心だから問題はなかった。だが、ある一科目だけは考査が実技課題で行われるのだ。にも拘らず、授業中の練習で、ただ私一人だけが一度も成功していなかった。


 その講義の講師の名は、ナゥブドゥカ先生。

 講義名、「今すぐできる精霊交流術」。


 課されたものは――精霊召喚。




 “今すぐできる”というだけあって、この授業は精霊交流――あるいは交渉とも呼ばれる精霊族とのコミュニケーション法――の初歩も初歩、入門編、基礎編といった内容のはずである。

今までナゥブドゥカ先生が受け持った生徒の中で、ごく初歩の精霊召喚を出来なかった生徒というものはほとんどおらず、その僅かな例外でさえ、魔力適性がないか、或いは精霊との相性が悪いというものだったという。まさか「魔力適性も高く、精霊との相性も抜群」の生徒が一番最後までその課題を成し遂げられないという事態に陥ろうとは、ナゥブドゥカ先生も予想だにしていなかった展開のようであった。

 因みに、「魔力適性も高く、精霊との相性も抜群」というのは先生の言葉であり、私の認識ではないことを明記しておく。私としてはその真逆なのではなかろうかとの認識がますます強まる一方である。

 何事にも例外はつきものだが、精霊族は基本的に魔力――言い方を替えれば神の創世の力の残滓だ――が強いものを好む。魔力適性とは文字通りある魔法を使うに当たって適性のある魔力であるか、ということである。魔法を使う上で最も重要なのは想像力であることは確かだが、それ以外にも魔法の属性に適した魔力があると考えられている。その魔法の属性というのは、精霊の属性にも相通ずるものがあるといい、それが魔力適性が高い、延いては精霊との相性がいい、ということにつながるらしい。


 私の場合に当て嵌めるならば、水霊の加護があるので魔力適性としては水の属性が高く、故に水属性だけでなく枝属性である氷や複合属性とされる雷、他にも親和性の高い植物系の精霊との相性がいいらしい。最も、この属性とやらを決めているのは人なので、どこまでが確かなのかは不明である。実際、初めて使った魔法こそ水を出現させるものだったが、それ以後神殿で実験的に行っていた魔法訓練では、水を出すのも火を出すのも私にとっては何の違いもなかった。そしてそれは精霊にも言えることで、私自身には見えないのだが、見える人(こういう言い方をするとまるで霊感のようだ)たちに言わせれば、私の周囲に群がっている精霊たちは水に限らず、属性を持たない無属性精霊から、各属性の精霊たちとバラエティに富んでいるのだという。まあ、これは私がマレビトだからなのかもしれないので、検証のし様がないわけだが。もしも精霊たちと会話ができるのであれば、いずれそのあたりのことを聞いてみたいものではある。


 しかし! そう、何より大事なことは、会話どころか精霊の姿を見ることさえ出来ていないということだ。見えないということは、目の前にいても分からないということで、声が聞こえないというのは意思の疎通が取れない、ということである。これは、精霊に呼びかけて自分のところに来てもらうという召喚のもとの基本の部分ができていないということになる。

 趣味の範囲内であれば出来ないことを諦めもするが、単位がかかっているならば話は別である。何としても見る・聞く・話すが出来るようにならねばならない。しかし、先生が勧めるどのような方法でも上手くいくことはなかった。


 そんな悩みを口にしたところ、セムが持ってきたのが例の依頼書だった。

 『秘密の花園』とは、エグザーダナの街の一角にある、精霊が大量発生していると噂の場所なのだそうだ。常に大量発生しているというわけでもなく、時折場所を移動することもあるというのだが、兎に角その発生量が半端じゃないらしい。つまり、一匹二匹――私に群がってるのはその域を疾うに超えてはいるようだが――で見えないなら、更に大量にいれば見れるのではないか、ということらしい。実際、かつてその方法で精霊との交流が出来るようになったという人物がいるらしい。例えるなら、零感の人が心霊スポット巡りをした結果、霊感に目覚めたというのと同じようなことだろうか。

 今まで受けたことのないタイプの依頼だが、セムやその友人たちと共同でということなので、彼らに話を聞いた私は藁にも縋る思いで、その依頼を受けることを決めたのだった。

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