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『秘密の花園』の真相解明――。
通称『秘密の花園』と呼ばれるそこは、エグザーダナの街の北東にある。離宮と同じ並びにあり、離宮や神殿と同程度に古い、つまりこの町が出来た当初に建てられた由緒だけはある屋敷跡らしい。主が絶え、今はもう朽ちるままとなったその庭に、いつしか精霊達が集うという噂が立ち始めた。その噂が囁かれ始めたのがいつ頃かも分からなくなって久しい。
その真相を確かめようと凸した勇者は数知れず、やがて噂が真実であることが突き止められた。唯そこに在るだけで、何の害もなく、同様に益もない、人に力を貸すことも加護を与えることもない、その精霊の群れは、無害且つ安全な存在として放置され、今に至る。
現在では名目上立ち入り禁止とされる――実際にはカップルのデートスポットや、好奇心旺盛な子供、世界が変われども存在するらしいDQNたちの格好の凸スポットと化している――その場所に、唯一正式に立ち入りを許可されているのが、この依頼を受けることである。約百年前、この場所の現状維持を決めた神族によって、同時に発行された国からの正式の依頼であり、百年経つ今もその効力を発揮している。報酬は、原因を解明すれば金一枚、新たな情報を得れば銀一枚。依頼を受けた個人、或いは団体に支払われる。街中にしては高額依頼ではあるが、郊外へと出られる実力をあるものにとっては労力に反して得るものが少ない依頼であり、散々多くの研究者が調べつくしても分らなかった問題に新たに挑む変わり者は滅多に居なかった。
危険がないことが明らかになっているため、危険度は低く、依頼受注における制限はないため、私でも受注することは可能だった。だが、今回はいつもと違い、一人での受注ではない。今、セムの手助けを借りながら、合同受注に関する手続きのための書類に記入している。
今回、共にこの依頼を受けるのは、セムを始めとした学生ギルド員の数名だ。本来、複数名で依頼を受けるときはその全員が手続きを行う必要があるけれど、セムたちは隊を組んでいるから代表者が一人いれば良いのだそうだ。隊とは、いわゆるパーティやクランのようなもので、一時的、或いは恒常的に同じメンバーで依頼を受ける共同体である。今回、私は一時的なメンバーとして彼らの仲間に入れてもらうことになる。私の都合に巻き込んでしまって悪いと思ったのだが、彼らも気になっていていずれは受けてみたかった依頼ということなので、甘えることにしたのだ。
十分以上かけて、それなりに枚数のあった必要書類を書き上げ、提出。いつもどおり依頼内容の詳細説明を聞いて、最終受諾をし、依頼の受注手続きは完了した。
「それで、概略は分かったけど、具体的にはどうすればいいの?」
「特に難しいことはありません。とりあえずは、移動しましょうか。」
セムと二人で手続きを終えた後も立ち話だったのを、彼に促され移動する。セムに案内されたのはギルドの三階の個室だった。今まで初日に二階に行ったきりで、上の階に来るのは初めてのことだ。
「こんなところ、有ったんですね。」
「予約制ではありますが、ここはギルド員なら誰でも無料で使えるんですよ。隊や、ギルド員同士での話し合いによく使われることが多いようですね。俺たちも隊や例の活動のときにここをよく利用しています。」
防音魔術があるんで色々と便利なんですよ、とセムは笑った。"色々"とは何か、とは多分聞かない方がいいことなのだろう……。
「さ、どうぞ。」
進められて入った室内は……なんというか、混沌としていた。セムの話だと、時間貸しとのことだったように思うが……一体どうやったら短時間でこんな有様に? いやいやいやいやいや、短時間でこれは絶対ありえないだろう!?
「あの、セム? ここって、長時間借りることも可能なんですか?」
「え? ああ、はい。特に他の予約がなければ、最長半年駆り続けることが出来ます。延長も出来るので、俺たちの代になってからはまだ一年しか経っていませんが、先輩達の代から数えると数年借りてるんじゃないですかね。」
なるほど、他に希望者がいなければ借り続けることも可能、と。確かに、これは昨日今日形成された混沌具合ではない。ちょっと居心地よさそうかも、なんて思ってしまう自分の性格も困りものだけど。
「あの、ギルドの一角をこんな風に占有してしまっていいんですか?」
「問題があれば借りられませんよ。さ、中へどうぞ。」
「じゃあ、お邪魔します。」
促されて入った室内で待っていたのは、ギルド内では年若い方である、ギルド員兼学生の面々だった。見知った顔も多い。ギルドだけでなく、学校で、ブラーシェ先生の授業で一緒の人もいた。あまり広くはないが狭くもない室内に6人ほどが思い思いの格好でくつろいでいる。部屋の隅、一部腐海を形成している一角に蹲っている影は人に含めていいのだろうか……。じっと見つめてくる目や呆れ返っている目、訝しむ目、私を見る目は様々だけれど誰も言葉を発しない。もしかして、私がここに来てはいけなかったのだろうか、とそんな風に思いながらも、後ろのセムに促されるままに部屋の真ん中にあるテーブルへと辿りついた。
すると、腐海の影を除く6人とセムの合わせて7人が、ぞろぞろとテーブルに並んだ。窓を背にしたそれぞれの顔は逆光になって見えにくい。一瞬の静寂が流れ、上座のセムがそれを破った。
「ようこそ、我らが『若き賢人の間』へ。我々はあなたを歓迎します、アトルディア様。」
まるで何かの儀式のように芝居めいた言い回しをしたセムに困惑を感じる前に、一同の爆笑が響き渡った。
「因みに、別名は『変人どもの巣窟』だ。ようこそ、マレビト様。君が本当に来るとは思わなかった。」
目尻に涙を浮かべながら言ったのは、如何にもな魔法士姿の青年だ。
「この部屋に入れる女がいたなんて。本当に女か? それとも異世界の女は特別なのか?」
と、ちょっとばかりでなく失礼な科白を言ってのけたのは、訝しむ目で私を見ていた人だ。
「前から君は変わってる、って思ってたけど、やっぱり君も変人の仲間だったようだね。」
呆れた目をしてそう言ったのは、高等学校でブラーシェ先生の講義を受けてる一人だ。
「……あの、これは一体?」
「以前、言ったでしょう? ギルド員で且つ学生であるものたちで集まって自主的な活動を行っている、と。ここがその本拠地です。そして、俺が今所属している隊のメンバー達でもあります。」
再び私の傍に戻ってきたセムに聞けば、そんな答えが返ってきた。
「私、まだ入るって言ってなかったと思うんですけど。」
「実はこの部屋に入れるかどうかが入部試験を兼ねてまして。入れた人物は問答無用で辺人たちの仲間入り、と言うわけです。」
それに、この空気嫌いじゃないでしょう? とまで言われては何とも言い返しようもない。
「あの腐海を除けば、確かに面白そうなところですね。」
そういうのが精一杯だった。なにやら飲み物や食べ物を持ち出し始めた少年達の様子を見るに、なかなか、依頼のへの本題に入るのは難しそうである。
だが、確かにこういう雰囲気は嫌いではなかった。




