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屋台街は昼時が過ぎたとはいえ、まだ人が沢山いた。男性の数はあまり多くないが、女性と子供、学生らしき雰囲気の人々がいたるところで食事やお茶をしている。あちこちの屋台から美味しそうな匂いが漂って、初めて来た私はどれを買おうか目移りしてしまう。
たこ焼き、クレープ、焼きそばといったよく見知ったものから(名前が同じだけで別物である可能性は否定できない)、ケバブっぽい別の名前をした何か、フェクトが食べたいといっていたものだろうガレット、とにかくいろんな国のいろんな料理が一堂に会した、といった感じがする。中には、魔法で凍らせた果物を、その場で魔法で粉砕すると言う豪快なシャーベット(?)なんてものもあった。こういう食文化の豊かさは、多民族国家ならではと言えるんだろう。
今はそうではなくても、かつて多くの日本人がこの地へ来ていたと言うことには感謝だ。お陰で私は食事に限ってはホームシックにならずに済んでいるのだから。
というわけで、異世界にいながらたこ焼き、焼きそば、焼き鳥と言う、一体どこの祭りに来た的なかんじになってしまった。神殿では和食は食べられるがこういう日本的なジャンクフードは食事に出ないのだ。私が懐かしさに釣られて買ってしまうのも当然……だよね?野菜が少ないような気もするが気にしない、普段は野菜たっぷりの栄養バランスが取れた食事をしてるのだから、たまにはこういう食事だって良いだろう。
「タキ様」
マレビトと言うと人が一杯いる中では、ただでさえ目立っているのに更に目立ってしまうからと、頼み込んだ名を呼ばれて振り返る。セムが木陰のテーブルのところで手を振っていた。
「タキ様、こっちですよ。」
どうやらいつの間にか席を取っておいてくれたらしい。本当、よく気の利く良く子だ。この世界では十二歳で名目上は成人となり言動に責任が伴うようになるとはいえ、十六でここまで出来た子も珍しいのではないだろうか。だって、ギルドで良く行きかう彼と同年代と思われる少年達は、やっぱりもっと普通(?)の少年だったし。
私のほうが年上なのにはっきり言えば、負けている。
テーブルまで着けば今度は椅子まで引いてくれるしさ。至れり尽くせり? いや、神殿でも毎日上げ膳下げ膳の生活させてもらってるけども。……ここの人たちって、渡り人を大事にし過ぎるあまり自立心を挫こうとしてやいないだろうか?
私が椅子に座ると、セムが飲み物をくれた。木の器に入ったそれは、さっきも見かけた冷凍果物を砕いたものにジュースを注いだもののようだ。
「どうぞ、タキ様。これ、美味しいんですよ。」
「ありがとう、えっと、これいくらだった?」
飲み物はバッグに入れた水筒のを飲むつもりだったのだが、実を言えば冷たい飲み物が欲しかったのだ。さっきはシャーベットしか売っていないものだとばかり思ったから買わなかったんだけれど、飲み物もあったのか。
「いいえ、良いですよ。ゼナゥにそのガザトーガの人形を買ってくださったでしょう? そのお礼です。」
「え? ああ、良いのに。あれも、お礼みたいなものだったから。」
「お礼、ですか?」
情けないのであまり痛くない内容ではあるが、言わねばきっと気に病むだろう。そう思い、口を開く。出来る限り、思いを乗せず、軽い言葉で。
「そう、お礼。ちょっと気分が滅入ってクサクサしてて、なんだか悲観的思考のドツボにはまりそうになってたの。そしたら、ゼナゥが心配そうな顔で私のことを見上げてて。ハッとしてこんな小さな子に心配かけちゃだめだ、って思って。一人だったら、きっと完全に深みにはまっちゃってたと思うから。だから、気にしないで、飲み物の値段、教えてもらえる?」
この外見じゃ説得力に著しく欠けるのはわかっているけど、それでも年上の矜持として年下に奢ってもらうことだけは避けたいんだ! と内心念じながら言ってみたものの、どうやら私にテレパスの素質はないようだ。
「なら、これも礼です。人形を買っていただいたことにではなく、弟達の面倒を見る手伝いをしてもらったことへの、俺からの。それなら、受け取って、頂けますよね?」
きっと彼の事だから分かってて言っているんだろうけれど、ここまで言われては、固辞するのも気が引ける。これでは単なる意固地なだけだ。第一、そんな話を続けていたら、せっかくの料理が冷めてしまうし溶けてしまう。いつか必ず何か奢ってやる、と堅く決意を決めながら、ありがたく受け取ることにした。
「そういうことなら、喜んで。ありがとう、セム」
どういたしまして、と彼は笑った。
早速貰ったジュースを飲んでみたら、プラムのようなさっぱりした甘さのジュースだった。シャーベット状になっているのはまた別の果物のようで、そちらはもっと甘い。両方が混ざり合うことで、うまい具合に良い味を出している。
「おいしい……。」
「でしょう? これ、ちょっと前からギルドに来てる学生達の間で人気なんですよ。」
セムが意味ありげな笑みを浮かべ得意げに言う。
「ギルドの学生にだけ? こんなに美味しいのに?」
これだけ美味しいのなら、他の世代、特に女性たちにはもっと人気だと思うのだけれど。そう思って尋ねてみれば、ここだけの話し、とセムは教えてくれた。
「実はこれ、どこのお店にも売ってないんですよ。」
「これって、あそこのシャーベット屋さんのじゃないの?」
「半分は、そうです。」
「じゃあ、もう半分は?」
食事をしながら話をきく。うん、このたこ焼き、微妙に蛸が硬めだけど確かにたこ焼きだ。ソースも美味しい、マヨネーズがかかってればもっと良いのに。後、青海苔も欲しいな……。
「このジュース、ポーションなんです。」
「……はい?」
ポーション。言わずと知れたRPGの必需品である。大抵道具屋やギルドなんかで買えるアレだ。この世界においてはギルドと言う組織を作った始源の魔法使いが開発したものだと言う。一体、どれだけ色んな物を作れば気が済むのかこの人は、と話を聞くたびに思うのだが。
まあ、それはともかく。
「ポーション、ですか? あの、ギルドで売っている?」
「はい、あの、です。」
ギルドのそれは、かつてコンビニで売られた某RPGのそれ以上に不味かった。瓶目当てに買ったがあの味は売り物としてはダメダメだろう…? 少なくとも、普通の缶の第2段が出たときにはもう買おうとは思わなかった。
話が逸れたが、まあ、ゲーム内のものの商品化とは違い、味は二の次三の次、効果があればそれでよし、というものだからギルドで売るには問題ないのだろう。味は兎も角として、どのような効果があるのかといえば、アリ○ミンやらリポDやらと似たようなもので、滋養強壮疲労回復、といったものだ。
ただし、その効果ははっきりと目に見えるように現れる。一週間徹夜した人が即座に回復するというのだから、実は危ない薬でも入っているんじゃないかと疑いたくもなるが。良薬は口に苦しとは言うものの、その効果に比例するかのようなあの壮絶なまでの不味さはあまりにも有名となっている。
「あの激マズポーションが、これですか?」
「やっぱりマレ…タキ様もそう思います?」
「だって、別物でしょう!?」
「いえ、そっちではなく。まあ、別物なのは同意ですけど。」
「飲み方変えるだけで、こんなにも味が変わるものなんですか……。」
例えるなら青汁にアイスクリームを入れたらメロンソーダになりました、ってくらいには衝撃的な変化だ。
「尤も、その分効果は薄れますけどね。」
「効果が薄れても、これだけ美味しくのめるなら誰も文句は言わないんじゃないですか?」
「ええ。今のところ誰も文句は言っていませんね。俺達、皆でどうやったら味がマシになるのか、色々試したんですよ。そうして苦節半年。数多くの更に不味くなってしまったポーションを飲み干しながら完成したのがこれです。なので、未だに俺達の間でしか知られていないんですよ。」
彼の話を聞いて思い出すのは、高校のときの文化祭の準備の時や大学時代の飲み会の雰囲気だ。余った飲み物をごちゃ混ぜにして罰ゲームをするような。たまに美味しい組み合わせになったりすることもあるが、大抵が飲めたものではない。彼らも恐らく似たようなことを繰り返し、そうしてこの味にたどり着いたのだろう。
その苦労は、元のポーションの味を知っているだけに想像に難くない。よくも味覚異常を起こすことなくここまで至れたものだ。
「そんな部外秘のレシピ、教えてしまってよかったんですか?」
「大丈夫です、美味しく飲む為の黄金比と言うものがありますから。それからズレると逆に不味くなっちゃうんですよ。」
それなら確かに問題ないか。
「でも、美味しいでしょう?」
「ええ、美味しいです。」
「それじゃあ、マ…タキ様も俺達の活動に参加しませんか?」
「……活動?」
「ええ、学生ギルド員限定の活動があるんです。これの作成もその一環でした。もうすぐ学校に通われるのだと聞いて、それなら誘おうと思いまして。」
何処か腹に一物抱えてそうな笑顔を浮かべるセムは、最初の印象には程遠く。やっぱりこの兄弟の兄か。大変な弟を抱える苦労性の兄かと思いきや、なかなかに強かで面白そうな少年じゃないか、と私は早々に彼に対する認識を切り替えることにした。




