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「そんなに不貞腐れないでください。」
「不貞腐れてなんかいません。」
必要はないと思うのだけれど今日もナイルと共にギルドへ向かう。以前はこの間全く会話もなかったのだけれど最近では少しずつ会話もするようになった。街の人たちがそんな私たちの様子を微笑ましく見ているような気がするのはきっと気のせいだ、多分。
長くても3日で終わる仕事しかしなくなってからは、継続の仕事がない週の頭には朝市のはけ始める頃に神殿を出るようにしているので、大路の混雑もある程度緩和されている。朝市の時間に来てしまうと話をするどころではなく、そもそも並んで歩く事すら難しい。とくに急ぐでもなく歩いていると、市から帰る人々が私と神官に気付き皆声を掛けてくれる。
「おはよう、マレビトさん、神官様」
「これを持っておいきよ。」
「たまには市にも来てくれよな。」
残り物をくれたり、声を掛けてくれる街の人たちに挨拶を返しながらギルドへの道を歩く。
「マレビト様、神官様、1週間ぶりだなぁ。また風邪なんか引かなかったかい?」
以前、プラムのような果物をくれた八百屋のおじさんとは今では顔馴染みだ。週の初めの日にはこうしていつもの場所で私たちが来るのを待っていてくれる。特に、風邪をひいて以降は体に良いといわれる食材を色々持ってきてくれたりするのだ。
「ほら、これ持ってきな。これは喉に良いんだ、風邪なんてひかなくなるぞ。」
「いつもありがとうございます。お代はおいくらですか?」
「持ってけってのに、相変わらずだな、マレビト様は。たまには素直に受け取れっての。」
「最初に十分すぎるほど頂きましたよ。今はちゃんと、お小遣い分くらいは稼いでるんですから!」
小遣い分くらい、というのが何とも泣けてくる話だが、それでも神威を借りて集るような真似はしたくない。決して、相手にそんな気持ちはなかったとしても。
「神官様も言ってやってくれよ。こっちは好きでやってんのに。」
「本人の意思を尊重するのが神殿のあり方だ。」
ナイルが言外に反対する気はないと告げると、八百屋のおじさんは大げさな身振りでわざとらしい溜息を吐く。
「全く、二人揃って融通が効かねーんだから。」
と、苦笑いをしつつも代金を受け取ってくれた。おじさんと別れるとギルドはもう間もなくだ。
「それでは今日も頑張ってください。但し――」
「決して無理だけはしないように。
でしょう? もう、流石に分ってますよ。あんなに寝込む羽目になるのは懲り懲りです。」
もはや耳タコになったその言葉を諳んじる。
いい加減毎日繰り返されれば腹の立つ言葉ではあるが、言い返すことが出来ないだけのことをしてしまった自覚は有るので暫くは受け入れるしかない。価値観やその他様々なことが違うからといって、差し伸べられた手を跳ね除けるような真似はすべきで無い。
「大丈夫です。無茶だけは絶対にしませんから。」
「分りました、それではお気をつけて。」
そう言うとナイルはギルドの重い扉を開けてくれた。
ある意味、彼にはこのためだけについて来て貰っていると言えるのかもしれない。
「じゃあ、行って来ます。」
この時間帯は、ほとんどギルドに来る人がいないから、扉の前で話をしていても邪魔にはならない。とは言え、限度はある。だから、いつもはこれでナイルが帰るのだけれど、この日は違った。
私がギルド内に完全に入ってしまうと、ああ、そうだ、と声が聞こえた。閉まりかけた扉に慌てて振り返ると、
「今日、帰りが早ければ魔法の実践をしてみましょう。用意をしておきますので、楽しみにしていてください。」
え、と聞き返そうとした時には扉は閉まり、ナイルの姿はもう見えなかった。
魔法の実践……? 間違いなく、そう言ったよね?
――どうしよう、仕事中、気もそぞろになってしまう気がしてならないんだけど。




