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魔法は大人にしか使えない。
これは私に大きな衝撃を齎した。
何故ならば、実感としての実年齢こそ二十二だが、私の今の体はどう見ても子供である。アカシェも私を成体ではない、と言ったことから私が使えない可能性は非常に高い。かつて姿の変わったマレビトたちが魔法を使えたかどうかそれを調べた本を当たりたいところだが、期待が大きかっただけに本を読む気が失せてしまった。
はぁ……。
「何かありましたか、朝からため息などついて。昨日のやる気はどうしたんです?」
最近では一緒に朝食をとるようになったナイルが尋ねてきた。
うん、彼に不調とかと思われると途端に過保護になるのでこれはまずい。隠すと余計に心配して大事になるだけなので、正直に言う。
「ナイル、魔法って大人しか使えないんですか?」
ああ、それでか、とでもいったような納得した表情で彼が言う。
「基本的にはそう言われていますね。昨日読んでいたのは魔法史だったと思いますが、魔法の概論も読み始めたのですか?」
「やっぱりかぁ……。」
高位神官なら例外を知ってたりしないかな、と否定の言葉を内心期待してたりしたのだけれど、残念ながらそれが通説のようである。
「魔法の概論は読んでないけど、魔法史にもそう書いてあったんですよね……。」
パンをちぎって一口食べる。相変わらずここの食事は美味しくて、沈んだ気分も少しは浮上する。
今日は洋食風だが、勿論和食風のときもある。味噌と醤油と米を広めた竜殺しの英雄はとても素晴しいと思う。その偏った博識っぷりが彼がオタクであったであろうことを尚更に裏付けるわけではあるが。
何はともあれ、美味しいご飯は人を幸せにする。食事中に会話をしてはいけない、なんてマナーはこの国にはないので遠慮せず色々話しながら食事をする。というのも、ナイルと一番会話が出来るのがこの朝食の時間だからだ。
今でも毎朝ギルドまで送ってはくれるけれど、あの時間はゆっくりと話しをすることも出来ない。では私がギルドから帰ってきてからといえば、高位神官という謂わば官僚、国家或いは地方公務員であるナイルはいくら私の守護者であるとは言っても他に仕事がないわけではなく、残業とはいかないまでも結構遅くまで仕事をしているので話をする時間はあまり無い。私が望めば可能なのだろうけれど、出来ればそういうことはしたくなかった。
そんな訳で、朝は一緒に行動する時間が長いのもあってギルドに行く前に一緒に食事をするようになったというわけだ。いくら仲良くなろうと思ったって、話しもしない人とは関係の進展のしようがないからね。尤も、今日まではそれほど会話らしい会話をしていたとは言い難かったけれど。急に話をしようたって、何を話して言いか分らないし、お互い、話の糸口をつかめずにいたというのが実情だと思う。
「この世界の人間が大人にならなければ魔法を使えない原因は主に保持魔力量にあります。」
一足先に食事を終えたナイルが教師モードで解説を始める。今までが今までだから、微妙に他人行儀な距離感なのも仕方がない。時折、教師の一人として勉強を教えてくれているから、こういう話し方の方が彼にとっても楽なのだろう。
「通常魔法は自身が保持する魔力を使用して行使します。
しかし、渡り人と比べこの世界で生まれ育った生物はその保持量が低く、まず魔力の存在を感知するために必要な閾値に達するのに時間がかかるというのが理由の一つです。一度認識さえしてしまえばその後はどんなに魔力が減っていても感知することが可能です。
しかし、少なすぎれば今度は魔法を行使するために必要な閾値に達せず、魔法を行使できなくなります。つまり、ある程度以上の魔力を常に保持できるようになる大人でなければ魔法を行使することが出来ない、というのが"子供は魔法を行使できない"とされている真相です。
この辺りのことは魔法学の入門や概論に載っていますからそちらを読むと分りやすいでしょう。」
時折頷きつつ、パンを食べ、スープを飲みながらナイルの解説を聞く。人の話を聞くときは物を食べてはいけません、とか小学校で習ったような気がしないでもないけど、まあそもそも食事中の会話から始まったのだし、問題はないはずだ。彼も気にしてはいないようだし。第一、今手を止めたらギルドにつく頃は混雑が酷くなっていることだろう。
「渡り人の場合は、世界を渡る際に非常に大きな魔力を得るのが通常です。貴方も潜在的な魔力保持量は非常に多いので、もしかしたら使用は可能かもしれません。」
……え?
喉に詰まりそうになったパンを慌てて牛乳に似た何かで流し込む。
「っつ、私でもっ出来る!?」
「可能性はあります。試してみますか?」
「試す!試す、今すぐにでも!!」
思わず前のめり気味に叫んだ私にナイルは苦笑しながら言う。
「今すぐは無理ですね。」
その無常な一言に固まった私に対し、彼は言った。
「さあ、早く食事を終えないと遅刻しますよ。」




