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一日中本を読み耽ったお陰で、何とか魔法史の概略はつかめた。
だが、その結果として、私は再び意欲を失った。まあ、歴史を学んだからといって魔法が使えるようになるわけではないのは当然だが、それならば魔法のための勉強を始めればいい。しかし、そもそも魔法が使えないのであればどうしようもない。
魔法の始まりは、この世界の住人なら誰だって知っている。災厄の魔物を倒した異界から訪れし勇者の話。まさに異世界トリップのテンプレのようなその話の主人公は日本という国からやってきた渡り人。
数々の偉業を成し遂げた彼は、人々に嘱望され竜退治へと赴く。そして遂には魔法の力を得、災厄たる竜を滅ぼすに至る。凱旋した彼は望まれてアウトラーシェンの王に就く。善王と名高かった王はしかし、後に天より降った神王の一人に膝を付き禅譲したと伝えられている。その後の彼の消息は、ギルドの冒険者となったとか、隠棲したとか様々に伝えられているが定かでない。
今も子供たちが憧れる英雄譚の一つだ。私がこの話を知ったのも、子守りの依頼を受けたときに子供たちから教えられたからだ。
だが、有名すぎるほどに有名な彼の名は今の世に伝えられてはいない。一説には真名信仰が盛んだった折りに彼の名も失われてしまったのだと言われている。ただ一つ伝えられているのは、彼が日本の出身であったということだ。そのせいかどうかは分からないが、後に彼について研究をしたのも日本人であった。
名を佐伯仁。今、竜殺しの英雄について伝わっている資料のほとんどが、その彼が編纂したものである。
彼はその著書の中で断言している。
英雄は、オタクであったと。
英雄は、英雄となる前から偉業を成し遂げていた。
今に伝わるものは、特に知られたものだけでもギルドの設立、製紙技術や輪栽式農法、コークスを用いた高炉による製鉄の普及、教育制度の確立、火薬の発明など多岐にわたる。まるで狙ったかのように未開化であったこの世界をたった一代で急発展させることになる知識の数々――。
私もある意味で同類だから分る。恐らくは自著でカミングアウトしている佐伯氏もまたそうだったのであろう。類は友を呼ぶというが、オタクはオタクの臭いを嗅ぎ分けるのだ。一つだけというならばまだしも、こんな普通の生活で必要性など全くない知識を保有しているのは、中世から近現代を専門とした研究者でもなければ特殊な人間だけであろう。
これらの知識が必要とされる状況下は極めて特殊だ。そんな極めて特殊な状況下として一番に考えられやすい、もしかしたら異世界に行ってしまうことがあるかもしれない、なんてことを本気で脳内シミュレート(またの名を妄想という)してしまうのはオタクと呼ばれる人種だけである。
世界にとって必要な人間を呼び寄せる。確かに、異世界トリップ、憑依、転生を好むオタクほど好条件な物件はあるまい。
大分話は脱線したが、私が呼んでいた魔法史概論は佐伯氏の著書である。その中には魔法に関する歴史と合わせて、簡単な、本当に簡単な魔法の概論が載せられていた。私は見つけてしまったのだ、魔法を使うための唯一ともいえる絶対の条件を。
・魔法は、大人にしか行使できない。
一体どういう制約なのか、子供は魔法を使うことが出来ないのだという。これは、新手の嫌がらせなのだろうか?
この日、私は不貞腐れた気分で床についた。




