魔物語編2:始祖竜族(竜種)
竜種。
ファンタジーといえばドラゴン、ドラゴンといえばファンタジー、と地球の出身者からしてみればまさしく切っても切れない関係上にある存在。
硬い鱗に覆われた巨躯と翼を持ち、二本の角を生やした姿はお馴染みだろう。
基本的には四足歩行だが、二本足で立ち上がる姿で描かれることも多く、その中にはワイバーンと呼ばれるものもいるが、彼らの前足は翼と一体化しており、かの翼竜プテラノドンのような姿をしている。
竜種の中には高い知性を備えている場合があり、土地によっては神と同様の存在と崇めることもある。
そのような考えに対して、竜種もまた神の創造物だと笑う者も多いが、これについては非常に不可解な点がある。
というのも、神々の言語の中には『竜種』を表していると思われる言葉がないのだ。
そうなると、近代において誕生した存在だからこそ神々は認知していないということになるが、その一方で古代の遺跡の壁画には堂々と記されており、更には人族などが明確に文明を築く前からの伝承も存在している。
だからこそ、当時の人々は竜種を神と怖れ、宗教が生まれた現在でも同様の思想を引き継いでいる者達がいるのかもしれない。
そこで私は最も人々と交流があり、信仰の対象となっている竜種にそのことについて尋ねることにした。
場所はインヨーロ大陸のリギア王国に属する孤島『リュリュア』
『リュリュア』という名称は共用語でも、その他の言語でもなく、起源は竜種の鳴き声とのことだ。
この島を始めて訪れた冒険者がその鳴き声を聞いた末、とある酒場でこんな会話があったという。
『せっかく船を貰ったし、適当に進んでいたら島を見つけてよ。そこに近付いたら……リュ、リュア? みたいな変な鳴き声が響いてきて逃げてきちまったよ』
『何だ、リュリューアって。ケニー、お前も冒険者なら正体を確かめろよ』
『そうだよ。というか、そんな鳴き声の魔物、この辺じゃ聞かないね。新種かもしれないよ。そうなったら一躍有名人だ。ねぇ、エリス?』
『リュア? リュリュア!! リューア!!』
『あっはは!!』
『わはは!! やめろ、エリス!! せっかくの酒をこぼしちまったじゃねぇか!!』
『……お前ら、絶対許さねぇからな』
というような会話から孤島の話が広まり、後にリュリュアと呼ばれるようになった。
これは紛れもなく事実であり、当時の書物にも記述がある。
地球出身者の多くは分かるだろうが、どうにも人という生き物は過去の歴史や偉人などを美化したがる傾向にあるが、現実はこんなものだ。
かの有名な明智さんだって『普段からムカついていたし、今の俺なら出来る気がする』というノリで本能寺の変を起こしたかもしれない。そんなものだ。
閑話休題。
とにもかくにも、この地こそ竜種を神と崇める民の住まう人々が暮らす島であり、島はそれほどの大きさではないにも関わらず、総人口は約四千人と思いの外多い。
日本の江ノ島ほどの面積に十倍以上の島民が暮らしているといったところか。
当初は数十名の島民しか暮らしていなかったが、ここ数百年の間にリギア王国の住民のみならず、『竜種』という存在を信仰する者達が移民として訪れたため人口が膨れ上がり、今現在は移住を受け付けていない。
ちなみに当初の数十名と聞くと少なく思えるだろうが、神聖な地ということで、島を清掃したり、竜種の世話役のような立場を担った者達だけが住居を構えていたということだ。
というと、動物園の飼育員のように思えてしまうが、どちらかといえば神主などの役割に近いのだろう。
現に竜種を信仰する者達は、年に一度、もしくは人生の節目にこの島に渡り、祈りを捧げる者も多い。
そのリュリュアの中心部には岩を用いて神殿の様な外装を模した建物が存在し、そこに『エゼラ』という竜種が鎮座している。
エゼラは体面を硬い鱗で覆われた一般的な竜種とは異なり、羽毛の様な白い毛を有しており、そして、注目すべきはその瞳。
よほど鈍い者でない限りは理解できる知性を感じさせるものだった。
「あら、これはまた奇妙で可愛らしいお客さんだこと」
雌というよりも、女性と表したい静けさと優しさを備えた声音が鼓膜を揺らす。
スキルで気配を絶っているにも関わらず、エゼラの視線がこちらに向けられていることに驚きながら、筆者はその内心を誤魔化すように頭を下げた。
「初めまして。僕はキュリオと申します」
「これはご丁寧に。私はエゼラ……なるほど、坊やは転生者の類だね」
「お分かりになりますか?」
「ふふ、もちろん。かれこれ数千年は生きているからね。まぁ、どちらでも良いけれど、それだけ生きていれば時折素敵な出会いはあるものよ」
エゼラはふと過去を思い起こすかのように瞳を細めた。
「エゼラ様。今日、ここを訪れたのはあなたにお尋ねしたいことがあるからです」
私は自身の目的を語った。
もちろん、転生者であることを理解されている以上、その辺りについても隠す必要はないと判断した。
「そう、それはまた数奇な生を送っているわね」
エゼラの表情は変わらずとも、その声はどこか弾んでいるのが伝わってくる。
「さてと……それじゃあ、竜種について教えてあげるわね。まず、私達の起源は竜の姿の神から生まれた六体の竜。ちなみに私の祖母にあたるのが六体の竜の一体よ。祖母は生を謳歌し既に亡くなってはいるけれど、母にはしっかりと神についての話を引き継いでいたのよ」
六体の竜(以降は六竜とする)は光竜、闇竜、火竜、水竜、地竜、風竜であり、エゼラは外見通りの光竜とのことである。
それからエゼラは始祖たる神について語ってくれた。
彼女は『私達の神』と言っているが、この文章では分かりやすくするために『竜神』と称することにする。
「竜神は天界の仕事に疲れ果てていた。彼が管理していたのは世界を繋ぐ境界であり、非常に重要な役割。しかし、他の神々は大雑把に仕事をすることが多く、誤って転移や転生させることも珍しくないため、その後始末や個々の世界の調整を奔放する毎日を送っていたわ」
ここで私は『個々の世界には、それぞれ神がいるのでは?』という当然の質問をしたところ、『全員とは言わないけれど、神々は自己中心的で適当な性格の者も多いから自身が罪に問われることにでもならない限り、本腰を入れないらしいわ』とのことである。
その辺りは女神エーデルワイスが言っていたことと同じだ。
「そんな時、竜神の不満は爆発。当時リヴァンを担当していた神が宥めたところ、『じゃあ、もうお前ん所に住む! 無限なる仕事より有限なる生を謳歌してやる! うおおおぉぉぉ!!』と発狂したかと思えば竜神の身体が分散し、六竜が生まれたということよ」
「本当にブラック企業なんですね……」
しかし、そうなるとエゼラの祖母は竜神なのか? いや、六竜の意識はどういうものなのだろう。
一つの精神で六つの身体を操っていたということなのだろうか。
そんな私の疑問に気付いたのだろう、彼女はこう話を続けた。
「六竜は竜神の精神と、もう一つ自律した精神もあった。それぞれ、異なる性格の竜になったのよ。基本的に自律した精神が行動し、竜神の精神はその奥で見守っていたり、時に手を貸すような形だったようね」
分かりやすく言えば、複数の人生を追体験しているような感覚だったのかもしれない。
それからエゼラから話を聞いていたところ、もう一つの真相を知ることとなった。
「竜種の中でも知能が発達してない魔物も多いですよね?」
「えぇ、もちろんよ。坊や達は『竜種』と一括りにしているけれど、先祖が異なっているわ。基本的に六竜の子孫だけが知能や言語を操り、それ以外はどこからか生まれ落ちた似て非なる魔物よ。まぁ、人族からすれば見分けなんてつかないだろうけどね」
この会話を以て、筆者はエゼラのように六竜を先祖とする竜種を『始祖竜族』と名付けることにした。
起源を遡ると、どうにも魔物というよりは、人族などに近い印象を受けたからだ。
「始祖竜族。なるほど、それは分かりやすいわね。ふふ、別に竜種と一括りにされて怒るほど狭量ではないけれど、今後は私もそう名乗ることにするわ」
という許可も頂いた。
以上を以て『始祖竜族』の項とする。
非常に悩ましいところだが、竜種の魔物と混同するのはややこしくなり、人族などの種族と並べるのもまたややこしいため、あくまでも魔物の始祖竜族とさせてもらい、一般的な竜種については、別の項で紹介をさせて貰おう。




