第七話 Sランク vs Fランク
「ちょ、ちょっと君!!学院内では魔法の使用は禁止ですよッ!」
ティアナが俺をなだめる。しかし
「許可します。」
レイナは俺に視線を合わせたまま淡々とそう答える。
その顔はまるで、目の前にお菓子を出された赤子のように興奮気味だ。
「で、でもレイナ…」
「ティアナさん、止めても無駄だぜ。
生徒会長様は今ッ!!
売られた喧嘩を買っちまったんだからなぁ!!」
ジュルリ
氷の女皇は思わず口端から垂れた涎を拭い、構えを取る。
ピキピキピキピキ
生徒会室全体に氷が伝い気温が一気に下がる。
「…もうぅ!!」
ティアナは生徒会室の隅にある本棚の裏にそそくさと避難した。
「『ジョウ・ブラッディ』…手加減はしませんよ」
「あぁ、こっちも本気の本気だぜッ」
パキキッ
レイナが自身の右手に氷を纏わせたかと思った瞬間
ダンッ
同時に突っ込んできやがった!!
─────瞬間
『時間停止』!!
時を止めた。
ザザッ
~~
気づくと私の前から、ジョウは消えていた。
「ッ!?」
私の『氷結拳』が空を切る。
何が起きた?
初見でこの技を見切れる相手はそうそう居ない…
身体強化の応用で動体視力を底上げさせたか?
しかし、妙に体が軽いな…
「キャアッーーーー!!」
ティアナが叫んでいる。
まさか…!?
私としたことが、たかが『余興』で、奴の命を奪ってしまったのか…!?
あのクソ野郎じゃあないんだから、私がそんなヘマをするわけが無い。
そんな事をしでかそうものなら、我が『クリスティア家の名』に泥を塗るだけでは済まないぞっ!!
「ヘェーイ」
軽い声。
ジョウだ。
生きていたのか。
(良かった…)
私の心に安堵の気持ちがふっと溢れる。
「やはり、貴様!!
我が攻撃を避けるとは…タダモノでは無いなッ!!」
「ちょっと!!
レイナ!!それどころじゃないってぇーーーー!!」
「?」
そういってティアナはカーテンを引き千切って、私に投げてきた。
何をしているのだ?生徒会の備品は高いんだぞッ!!
「身体見てぇ~!!」
身体?
負傷しているのか?
ーッ!!
「うわああああああああああああ!!」
私が丸裸になっていたァァァァァァァァァァァァ!!
~~
「フハハハハハッ!!」
うまくいったぜ!!
五秒間で奴の身ぐるみを剝がすのは至難の業だったが
俺は昔から、自分じゃあ絶対に勝てない相手とかち合った時は、大抵この『身ぐるみ剥ぎ』を繰り出すのさッ!!
強い奴は大抵、プライドが高いッ!!
裸の状態では戦意を捥がれ、羞恥心が闘志を上回る。
特に女、それも令嬢ともなればまともに動くことすらできないはずッ!!
(レイナが軽装なのと、俺の長年の脱がせテクに救われたぜ…)
「貴様ァァァァァァァァァ!!」
レイナは魔力を練って氷剣を生成し、殺意と羞恥が交じった表情で俺に迫る。
すかさず俺は射影魔法機に手をかけ、更に―
『時間停止』ッ!!
その隙に、
パシャリ!!
なんと、誰もが羨むご令嬢のスナップ写真を入手。
レイナの魔法氷剣が俺の喉元に達する前、
再び時が動き出す。
「おっとぉ~動くなよ?」
俺はそう言ってレイナの眼前に写真をヒラヒラとチラつかさせる。
「少しでも動いて見ろ?この写真が学園中にばら撒かれる事になるぜ。
安心しろ…何もしなければ、しかるべき処理(意味深)をした後に焼却処分して完全に消し去る。」
「――――――――――このゲスがッ」
「ハッハァー!!聞こえねぇなぁー!?
俺を抵抗できない状態にして自分が知りたい事をぜぇーんぶ吐き出させようとした『卑怯者』はどっちだよぉ!!???」
「ジョウくん、本気なの?」
影で隠れていたティアナさんが声をかける。そこには不安、恐怖、怒り、様々な感情が入り混じっていた。
「本気も本気、大マジだぜェェェェッ!?」
多分俺はあの『Sランク』
それも『生徒会』クラスを崩せたことがきっかけでハイになっているのだろう。
自分でもテンションがおかしいのが分かる。
「‥‥要求は?」
涙交じりにカーテンで体を隠し、悔しさと怒気、そして屈辱がこもった言葉をレイナは口から絞り出した。
「会長さすが、分かってるじゃあないですか。
俺の要求はこのまま俺を返し、これ以上、俺を詮索しない事です。」
「…っ!!」
しばらくこちらを睨みつけた後、感情をぐっと飲みこみレイナは答える。
「…分かりました。」
「このままアナタを返します。」
~~
男はティアナの横を悠々と通り過ぎ、
去り際に
「俺の能力ちゃあんとその身で感じてくれましたか?」
と私の耳元で囁いた。
残されたのは、半裸でうずくまる私と、唖然として突っ立っているティアナだけだった。
「ティアナ…」
「何?」
「見たでしょ…私の全部」
「見てない!!見てないから!!」
(もう少し、自分の態度を改めた方が良いのかも知れないわね…)
心の中でそう呟く。
それにしても、結局『ジョウ・ブラッディ』。
その能力は分からなかった…
あの底の知れなさ。
もしかして私はとんでもない人に手を出してしまったのかも知れない…
私の背中に何か気持ちの悪い悪寒が走った。
~~
Fランク学生寮にて
「お、無事生還できたか」
のんきに手を振るアレン
隣にいるのはエレナだ。
エレナは下から見上げるように挑発的な態度で煽りだす。
「なかなか帰ってこねぇから死んじまったのかと思ったぜぇ?」
「フッ、本校舎から逃げるように泣きじゃくって走り去っていったのは誰だったけぇーーーー???」
「―ッ!?」
瞬間―
エレナは耳と頬を真っ赤にして、弱弱しく腰あたりをパンチしてきた。
「ソ、ソレハイワナイデ…」
コイツ、照れると乙女みたいになるな…
それを見たアレンが吹きだす。
「プッ、アハハ!!
そういう事かよ!!コイツ、
こっちに戻ってきた瞬間目の下が腫れてたもんだから目に砂でも入ったのかと思ってたんだが」
「テメェ…、もう一度殺されてぇか?」
「ヒィッ!!」
エレナの顔が照れからバーサーカーの顔に変わったのでなだめておく。
「んまぁでも、今回ばかりはお前の『勇気』を借りたし感謝しなくちゃあなぁ」
「は??」
エレナは何言ってんだコイツ、的な表情でこちらを見つめていた。




