第五話 Sランク
初めて目にしたSランク。
生徒会長『レイナ・クリスティア』
それはまるで
氷像をそのまま切り出したような、儚く溶けてしまいそうな、凍傷になりそうな危険を孕む…
そんな印象だった。
「せ、生徒会長ッ!!」
オルグが目を見開いて問う。
奴だけはこの氷点下の中、ギリギリ動けるようだ。
さすが、現役冒険者なだけある。
Fランクの連中は俺を含め身体の一部が氷漬けにされ、身動きが取れないでいた。
「う、動けねぇ…」
隣ではアレンがガクガク震えている。
「おい、下手に動くんじゃあねぇぞ…!!今はおとなしくして、できるだけ呼吸を小さくしろっ!!」
この騒動の発端であるエレナは他の連中と違って、念入りに氷漬けにされている。
呼吸するのがやっとの体勢っぽい。
「ッチ、はやくこれを溶けよぉ」
「エレナ・イエローさん。何故このような危険な行いをしたのでしょうか?今回の演習は的当て、魔力操作は繊細に、一点で集中させるべきです。ただ豪快に力を振るうのはお子様のやる事ですよ?」
レイナは、凍り付いたかのような真顔でエレナにググッと顔を近づけ詰める。
「…っぐ、う、うるさいっ!!的だけじゃなく、この場所自体を破壊した方がつえぇだろ!!」
「はぁ」
アレンは恐怖で身体が震えながらも解説に走る。
「おい、やばいってアイツ!!真面目に死ぬぞっ!?」
確かにこの状況で盾突けるのはヤツぐらいだろ。
「そうですか?まぁいいです。話はあとで聞きます。ティアナ」
レイナは顔を上げたかと思うと、手をパンパンっと叩きながら誰かを呼ぶ。
「はーい」
(何だ!?)
周囲の圧力が強まると同時に
レイナと共にこちらを伺っていたもう一人の『Sランク』がそこに現れた。
「てぃ、『ティアナ・フォークランド』…!!第六位の女までぇ…」
「う、うげぇ」
遂にアレンは嗚咽した。
それに続き他のFランクの奴らも、泣き出す者や気を失う者まで現れ始める。
(しょ、正直俺も視界がぼんやりしてきたぜ…
何なんだこのSランクの圧倒的なオーラは…!!)
「連れて行ってください。」
レイナがそう呟いた瞬間―
バキィン!!
エレナの氷結が割れる。…と同時に第六位と言われる女のほんわかした雰囲気が一瞬殺気になった。
ドスッ
ティアナは目にも止まらぬ、『つい見逃してしまいそうな手刀』をエレナの首筋に放ったかと思うと
ヒュン
その手刀の衝撃が柔らかな風で俺の首を撫でた。
エレナは気絶させられ、そのままどこかに連れていかれた…
―ヒュー、ヒュー、ヒュー
アレンが言っていた意味が分かった…!!
Sランクを前に並みの凡人は呼吸するのがやっとだという事に…!!
バリィィン
─瞬間
集団を絡みついていた氷塊が一瞬で溶け、温度も若干上がった。
まだ寒いが…
そして
クルン
レイナは校舎の方に身を翻す。
(良かった!!解放された…)
――いや、なんかこっちに迫ってきてないかぁ~!!!?
ザッザッザッザッ
そのまま騎士のような美しい歩行で、凍結による疲労でクタクタの俺の前で止まった。
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン
心臓が鳴りやまず、俺は面を上げることができないでいた。
「君が『ジョウ・ブラッディ』ですか?」
レイナは俺の顎を掴み自分の眼前へと持ってきた。
(俺の名前を知っている…!?)
頭の中で声を上げる
続けて―
「あなたにも話があります。生徒会室まで来て頂けますか?」
終わった。
俺はいつの間にかエレナレベルの問題を起こしていたらしい…
―いや、違うッ!!
異能の力がばれたのか?
しかし俺は頭の中で思考を張り巡らせる気力はもはや残っていなかった。
(こんな時だけはエレナの反骨心がうらやましいぜ)
去り際、チラッと後ろを振り返るとアレンが敬礼をしていた。
あの野郎…
~~
「ここで待っていてください。」
そうして俺はFランク校舎とは打って変わって豪勢な、まるで王宮のような作りの本校舎に入る事になった。
本来ならこの歴史的な建造物を前に感傷に浸る所だが…
今はそんなこと言ってる場合じゃあなかった。
ちなみにここまでレイナとの会話は一切ない。
移動時のあの空気の重みを思い返しただけで胃がひっくり返りそうになるぜ。
レイナに指定されたのは見たこともないような高級品質の椅子だった。
座ってみると…
―ッ!?
(な、なんだぁ、この座り心地はぁ!?)
座っていることを感じさせない。空気椅子をしているかのような、しかし辛さは決してない。不思議な感覚だ!!
~数分後~
生徒会室に繋がる宝石が散りばめられて眩しい大きな扉が開いた。
ギチィィィィ
「!?」
そこに現れたのはエレナだった。
が、今までのような血の気は一切なく、小動物ように内股でガクつきながら、頼りない足取りでこちらに歩いてくる。
猛獣に睨まれたリスの様だ。
「どうしたっ!?」
さすがの俺も声をかけざるをえない
「お、、お、、」
「お、、?お化けでも出たのか?」
「おぼぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そういって泣き叫んで走り去った。
「…ッ!!」
―ゴクリ
固唾をがぶ飲みした。
一体この先に何が待っているというのだ!?




