第十七話 犬を手懐けるには?
「おい、なんか落ちたぞ」
ヒラリと落ちた紙をエレナが拾い上げる。
(まずいッ…それを見られては!!)
「ぴんく…さんどいっち?なんだこの色使いがキモいチケット?」
―――そうか…!!
俺は今まで勘違いしていた
そう、そうだよ!
なーんでエレナがこの紙を見ただけで風俗店って分かると思ってんだ?
コイツは戦いの事しか頭がないに決まってんだろ…!
(これはチャーンス…!!)
「ん?あぁ、その紙なぁ…
俺達をこんな姿にしやがった詐欺商人の名刺だよ。
俺達が全快したらブチのめすつもりで取っておいたんだ。
なぁ、アレン?」
俺はアレンに問いかける。
アレンは俺に合わせるように方便を並べる。
「お、おぉそうだよ!!
あのクソヤロー、ゼッテータダじゃおかねぇ!!
金玉引き抜いて干物にして食ってやるよ!!」
「ふーん…」
エレナはジト目で俺達を見つめる。
なにその微妙な反応…
嫌な予感。
「なぁ?わたしもそこ連れてけよ!!魔人かと思ってぶっ飛ばしたのがお前らだったんで、いまいちスッキリしきれてないからさぁ!!そういう『悪』をブチのめせば今日はぐっすり寝れそーだ!!」
満面の笑みで拳を突きあげながらエレナが答える。
(マジか…そう来るかよ)
「あー…あのなぁ。
お前には関係ない奴を裁いても意味ないんじゃあねぇの?
しかもあの商人、怪しいだけで完全に悪とは決まったわけじゃあないし」
エレナの表情が一変して、狂犬モードに変わる。
「は?今の建前ってわかんなかったの?ぶっちゃけ正義とか悪とかどーでもいーの。
ただ私はもっと暴れたいのよ!!」
(コイツ…マジに狂ってやがるな)
…仕方ない。
こうなったら最終手段だ。
押しても引いてもダメなら『正面突破』
これに限る。
「はぁ…しょうがねぇ。本当の事を教えてやるよ」
「ジョウ…おい」
「分かってるよアレン。まぁ見てな?」
俺はエレナに真正面に向き合う。
「…いいかエレナ?この『ピンク・サンドイッチ』ってのはな?魔族専用の夜の店だ。今の俺達の姿だと入れるが、お前は人間だろ?無理だ。
俺達はとある事情でこの姿になったんだが、どうせならこの姿を利用してやろうって訳さ。
ちょうど今日、王都に魔族が経営する店があるもんだって聞いたからな。
俺たちが潜入捜査で内側から悪事の証拠を掴み取ろうって事にしたんだよ。
――――――そう『冒険者』としてな。
冒険者はどんな状況だろうと、ピンチをチャンスに変える。
このまま奴らを騎士団に突き出せば、特例で俺らのランクも上がるかもなぁ…?
ま、だから奴らを裁くのは俺らに任せて、お前はお留守番でもしてなって話さ。」
俺はあえて突き放すような物言いでエレナに言い放った。
「…はぁ?そんなんでわたしが納得すると思う?アンタらをつけて行って正面からその店ごと破壊してやろうかしら」
「まぁ、待て落ち着け。ここからが大事な話だ。」
「?」
エレナは頭に疑問符を浮かべる。
「そういうと思って俺は良い案を思い浮かんだんだがよぉ…両者お得な話がな」
「…ッ、なによ?何が言いたいのよ」
「俺達は今日、夜にこの学院を抜け出しその奴らのアジトに赴くんだが、エレナ…お前には俺達が学院に居ない事を気づかれないよう上手く細工しといて欲しいんだよ。
この提案に乗ってくれたら、魔族を騎士団に突き出した手柄を俺とアレン、そしてエレナ…
俺達三人の手柄にする!!」
「…!!」
エレナは頬を膨らませ不満げな顔だったのだが、しばらく考え込むと何やら納得した素振りを見せ
「…フッ、まぁいいわ。今日の所は見逃してあげる。でもこの貸しは、いつか返してもらうわっ!!」
(やった!!上手く狂犬を手懐ける事が出来た…!!)
「んじゃ、俺らが夜抜け出しているのがバレたときは、適当に理由つけといてくれよー」
エレナに手を振りその場を後にした。
・
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・
~夜~
Fランク寮の、草藁で身を潜めていた俺達は遂に動き出す。
アレンは興奮気味に、顔が紅潮している。
「お前、気分上がるの早ぇんじゃあねぇの?」
「お前だって、さっきから落ち着きがねぇじゃんよ!」
そんな事を言い合いながら、昼の排水溝のような抜け道を通って学院を抜け出す。
王都の夜は昼程人通りは多くないが、それでも夜の喧騒が鳴り響き、そこらで飲んだくれや娼婦、昼には騎士の仕事をしていたであろう甲冑を着たままのおっさんなんかが騒いでいる。
俺達はなるべく人目に付かないように、暗がりを通って、『ハッピーストリート』を目指した。
夜のハッピーストリートは、王都の中心とは違い、不気味な雰囲気を放っている。
街頭などの明かりも少なく、いつその辺の暗黒から野党が襲ってくるか分からない。
人通りも少なく、人影があったとしてもフードを深く被り怪しい輩が多い。
そんな場所を注意しながら、チケットに書かれている場所を目指すと…
暗い街角の一角、何やら妖しいピンク色の光が見えて来る。
「おい、ジョウ、、、まさか、、、!?」
「お、落ち着け!!」
アレンを抑える俺だが、内心俺も心臓の鼓動が高まるのを抑えられない。
『ピンク・サンドイッチ』
魔鉱石でネオン色に光るその看板。
遂に俺達は楽園へと到達したのだ。
「う、うほぉぉぉぉ」
「…」
二人とも何故か無言になる。
おそらくココからどうすれば良いのか分からないのだろう。
「おい、お前から行けよ」
「いや、テメェが先に行け」
ペチペチとお互いを触手で叩き合う。
すると
バンッ
店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ〜…あ!触手魔人さんっ!!」
「「うぉぉぉー!!」」
中から登場したのは、なんとルシアたんだった。
「お二人のこと待ってたんですよー❤︎ささ、早く中へ」
俺達はただただなされるがままに店へと案内される。
夢現状態だった。
「「「いらっしゃいませー!!」」」
店の中へと招待されると、両サイドに際どい衣装を着た淫魔達が並び立ち、歓迎の挨拶を送る。
「こりゃあ、俺達とんでもない所へ来てしまったのでは…!?」
「落ち着け、ジョウまだ俺達の一夜の夢は始まったばかりだ」
溢れる涎を腕(触手)で拭うアレンの目は開きっぱなしだった。
「お二人の案内は私がやりますね」
そういってルシアたんは俺の触手を掴んで胸に引き寄せる。
案内された所はラウンジのような場所で、そこには俺たち以外の客と淫魔が飲んだり喋っていた。
「嘘だろ…!?」
驚いたのは、その客の中には魔族だけで無く、人間もいたことだ。
「ここって魔族専用じゃあねぇの?」
「シー、あまり大きな声では言えませんが、この場所の人間のお客様は国のお偉い様方なのですよ❤︎」
まじかよ。
俺達平民の生活の裏でこんなことが行われていたとは…




