第十話 演説(スピーチ)
こうして各Sランクの面々が
生徒ら大観衆の真ん中程に位置する壇上へと出揃った。
Sランク達は壇上にある、金の装飾が施された背もたれが身長の倍はあるであろう椅子にそれぞれ鎮座している。
この学園の強者達が佇むそのステージ上はそれだけで何か底知れないオーラがあり、心臓が震えた。
「ところでアレン、
第一位と、第七位の姿が見当たらねぇが…
便所でも行ってんのか?」
それを聞いた瞬間、アレンが俺の口を手で抑える。
「馬鹿野郎!もし第一位の耳に今の言葉が入ったらタダじゃすまねぇぞ!!」
半ば冗談にも思えないような表情でアレンは凄む
「第一位、アルカード・ブラウン…奴については俺もよく知らねぇ。
何故なら校内で姿を見たことが無いからな。だが奴を知ってる者は皆、口を揃えてこう言うんだ。
『アイツには関わらない方が良い』と。」
ゴクリ…。
俺は思わず固唾をがぶ飲みした。
『第一位』…存在だけでもヤバそうなのに、その上そんな噂まであるとは、こりゃあマジにヤバそうだな。
俺が身震いしていると続け様にアレンは語り出す。
「んで第七位についてだが、第七位について俺から言える事は唯一つ。情報が無いってことだ。これは誇張なしでマジに情報が無いんだ。その素性は謎に包まれている。」
「情報が無いだって?この学園のSランクの位置付けに置いてそんな事あるのか?」
「あぁ、第七位に至っては誰もその存在を知らないんだ。名前すらも、な。
だが生徒達の噂ではこんな説が有力だ。『留年してる引きこもりのおっさんだ。』とな。
超笑えねぇか?」
アレンはそういって嘲笑の顔で面白おかしく話す。
「どうりで人前に出づらい訳だ。
…ってかお前、留年笑えないだろ」
アレンはペロッと舌を出し、口笛を吹いて誤魔化した。
そんなこんなで談笑していると、レイナが立ち上がり壇上の中心へと歩き出す。
中心には、何か見た事がない物が置いてあった。
まぁ、アレも貴族しか所有を認められないと言われている魔道具の内の一つだろう。
レイナは背筋を伸ばし凛然と立ち、会場の落ち着きを待つ。
俺は前回の一件で生徒会長様と気まずいんだよなぁ…ってな事を考えてレイナを眺めていると、
一瞬レイナと目が合った気がした…
数分後やっとのことで会場の熱気が収まり、レイナが口を開く。
「皆様、只今より調査報告会及び、我々Sランクによる新入生への激励を行いたいと思います。
そして生徒一同がこの場に集えた事に改めて感謝を。」
レイナの声が、その姿を小さくしか見据えることができない俺の方までよく聞こえてくる。
どうやらあの魔道具は拡声器のような魔法が埋め込まれているらしい。
遠くからでも分かるようにレイナは身振り手振りを大げさに演説する。
それはまるで氷精がダンスを踊っているようでついつい目を奪われてしまう。
「我々、Sランクは学園を代表し郊外へと魔王復活祭の痕跡を辿りました。
今回の遠征では惜しくも芳しい成果は得られませんでしたが、必ずその真相を突き止め、その復活を阻止します!!」
レイナは胸に手を当て力強く言い放つ。
「そして、新入生の皆さん。
この神聖アルストテリア王立学院の生徒が次の冒険者、更には勇者となり、新世界を切り開いていくのです!!
その責務を胸に刻み、我々Sランクに続いて世界を照らす光となりましょう!!
最後に我々Sランクによる新入生への祝福を授けましてこの場を閉めさせていただきます。」
「ではロキ、お願いします。」
レイナは優雅に一礼をし、ニヤニヤと演説を聞いていたロキへと向き直る。
レイナから魔道具を受け取ったロキは、待ってました。と言わんばかりに胡散臭い笑顔で語りだした。
「みんな!
今日は皆の顔が見れて嬉しいよ!遠征からの疲れが吹き飛んだぜ!
会長サマから説明があったと思うが、惜しくも俺達遠征組は魔王復活祭の痕跡を辿ることは出来なかった!!
しかし、我々は諦めない!!
俺たちSランクにもまだまだ至らない点はある。だから『ランク』とか関係なくこの学園一丸となって頑張っていこうぜ!」
ロキが語る言葉はやはり何というか、薄っぺらくそこに本人の感情は無いように思える。
ロキはウィンクを壇上から飛ばし締めくくった。
ロキは何ともつまらなそうな顔で一連の流れを眺めるハインツへと魔道具を渡す。
ハインツはゆっくりとしかし、そこには徹底的に叩き込まれた貴族としての振る舞いが見え隠れする動作で立ち上がり一言
「えー、僕から言うことは特に無いです。時間の無駄なので」
そういってメガネを手で拭く仕草を見せる。
会場がざわついた。
奴はどうやら俺たち庶民に語る口は持ち合わせていないらしい。
するといつの間にか横に立っていたミレアが
ハインツの横腹をちょんちょん小突きながら魔道具を奪取する。
「もー、ハインツってばカタブツなんだからー♥
そんなんだから人気ないんじゃないのぉー?」
ミレアは煽り顔でハインツを下から見上げる。
ハインツはそんな煽りを気にも留めず、ミレアを冷徹に一瞥した後、
「僕は君みたいに嘘をつくのが嫌いなのでね」
と吐き捨て自身の席へと戻った。
おそらくミレアはハインツに小さく舌打ちをした後、
ぐるりと振り返る。
その顔は弾けるような笑顔だった。
「私はみんなの事が大好きだよーっ!!今後も応援よろしくねー!!」
ミレアはツインテールを揺らしながら壇上をピョンピョン飛び跳ねる。
ミレアがウインクで叫ぶと、会場に潜んでいる『ミレアファンクラブ』のメンバーと思われる男達からの野太い声が湧き上がった。
その様子を苦い顔で眺めていた俺にアレンがそっと近づき耳打ちしてきた。
「ジョウ、気をつけろ。奴の本心は放つ言葉とは全て真逆だと思え」
「あ、あぁ」
俺も薄々あのピンク髪からはドス黒い匂いを感じ取っていた。
ミレアは十分にファンサをした後、次の順位、第六位のティアナに魔道具を渡す仕草を見せたが…
キーン
「あ、ごめーん」
ミレアは魔道具をティアナが受け取る直前で落としてしまった。
落とした魔道具から耳をつんざく音が響く。
「お茶目なミレアたそも可愛いなぁ…!!」
横にいた小太りの男…
ミレアが描かれているスカーフを巻いた
おそらくミレアファンクラブのメンバーの一員が呟いた。
―だが
(違うっ!!今の完全にわざと落としただろっ!!)
俺にはミレアが魔道具をわざと落としたようにしか見えなかった。
―「…いや大丈夫だよ」
ティアナは落とされた魔道具を跪いて拾う。
それを、まるで乞食が這いつくばって投げられた銭を拾うさまを見るような
そんな死んだ目でミレアはティアナを見下げていた。
(感じる…!!女同士の火花を!)
どうやら五位と六位には大きな確執があるようだ…
女の複雑な内情には関わりたくねぇな、と俺は顔を歪ませた。
まぁ、そもそもSランクと関わる気は無いし、一般生徒が関われるような相手ではないが
壇上に目線を戻す。
ティアナは魔道具を拾った真顔からこちらを向いた時には、にぱっと和ませた顔になっていた。
「はい。私が生徒会書記のティアナ・フォークランドです。Sランクにはミレアちゃんみたいなおっちょこちょいも多くて困っちゃいますよね、なので皆さんに代わって私が生徒会長を書記としてサポートしていますよ。」
ティアナはチラッとミレアを見る。
明らかにミレアを意識したような物言いだ。
ミレアの顔は遠くからでも分かるほど苛立っていた。
「新入生の皆は分からない事があったら、遠慮しないで私に尋ねてきてね?」
(あの営業スマイル…
前々から思っていたが『ティアナ・フォークランド』やはり底が知れないぜ…!!)
俺はゾクッと体を震わせた。
次に待機している男。
腕を組みどっしりと腰を据えて座り、今までの流れをなにやら鋭く眺めている大男。
第八位のガロンに、ティアナは両手で優しく魔道具を渡す。
ガロンはガサツにそれをぶんどると、ガハハと笑いながら立ち上がる。
壇上の真ん中に立つ彼は大きく息を吸い込み叫んだ。
「野郎ども!!
この学園は実力至上主義だ!!
新入生!
優しい言葉なんてモンはクソ喰らえだっ!!
俺から言えるのは唯一つ、お前ら!
必ずドブから這い上がり、俺の目の前に壁として立ちはだかりやがれっ!!
以上だっ!!」
不思議とうるさいと感じることは無く逆に爽快ですらあった。
これが彼が粗暴な男としてだけで無くSランクとしても慕われいるカリスマというヤツなのだろうか…
今までの、どの演説よりも聴衆が盛り上がってやがる。
ガロンの兄貴は満足そうにその生徒達が熱に浮かれている様子を眺めていた。
しかし、一人の男がガロンの背後にヌッと現れる。
「随分調子良い事言うじゃあねぇか…
ガロン先輩よぉ~」
「…ゲイル」
「コイツら雑魚には俺達Sランクとの圧倒的格の違いを見せてやらないとあきませんぜ?」
ニヤリと不気味に笑うその『岩の男』は、強引に魔道具を奪うと、腹に響く低い声で語りだした。
「お前ら。
今までの演説で勘違いしてるかも知れねぇがな、俺ら『Sランク』はわざわざ貴重な時間を割いてこんな所に立ってるんだぜ?
俺達は遠征帰りで疲れてんだよ、早く風呂にでも入って休みたいぜ。
あぁ、ワリィ
個人用の風呂なんてもんはSランクの寮にしかなかったんだっけか?まぁいいや。
だからなぁ…精々、感謝して敬うんだな。
俺とお前らじゃあ住む世界が違うんだよぉ!!
二度と自分はSランクになれるかも、なんて思うんじゃあねぇぞ」
ゲイルは睨みながらそう言い放った。
ゲイルの言葉は、ガロンが沸かした観衆の熱を一瞬にして奪った。
冷める会場の中、ゲイルだけはゲラゲラと笑っていた。
だが、ゲイルは高笑いに夢中で、レイナから魔道具を取られたことに気づいていなかった。
レイナは申し訳なさそうな顔でもう一度中央に立ち、
「コホン。
以上、私たちSランクからでした。では皆さん、引き続き健全な学園生活を」
騎士然とした優雅な一礼で頭を下げる。
最後まで感情を一定にし、レイナは演説を締め括った。
この、とんでも集団をまとめ上げるレイナ…
思ったよりも凄いのかもしれない。




