31話 やはり天才か
「ぅ〜つかれた〜」
「そうだね〜パフィンちゃん。でもちょっと楽しかったかも」
その日の、昼食時。パフィンさんがテーブルに突っ伏してたれていた。ヒロも相槌を打つけど、パフィンさんよりは余裕そうだ。
ヒロが楽しかったという体力トレの内容だけど……簡単に言うと、「個人の体力に合わせて何組かに分けて、組毎に足並みをそろえてランニングしつつ、しりとりゲームをする」というものだった。体を動かしながら同時に頭も働かせる事で、戦闘中に臨機応変な状況判断を下す事が出来るようにする為の訓練らしい。
僕らが村でした時はしりとり以外にも、「あ行」の食べ物を挙げ続ける、じゃんけんをしながらと言った遊び要素のあるものから、暗算をしながら、素数を数えながら等、数学を取り入れたヤツとか色々あった。まあ多分、その内やると思うけど。
「お腹すいたぁ〜。料理マダ〜?」
「そうだね〜私もお腹ペコペコ〜。マダですか〜?」
「ヒロって食が関わるとちょっと性格変わるよね。学食じゃないんだから、すぐには無理だからね」
今いるのは、学園の調理室。部活見学の時の約束通り、桜部長に入部届けを渡し、今は姉さんが食材の確認をしているところだ。
「んで、瑞希は何作るのん?」
「オムライスだ」
今日は、見学時に言われた、入部条件である「料理音痴でない事」を証明するため、姉さんが人生初の料理をする事になっていた。
つまり、今日のお昼は姉さんの手料理だ……初めて姉さんの料理を食べる訳だから、楽しみだった。
まあ敢えて言うなら。間違いなく「僕の料理」が出てくるから、新鮮味があまりないとこは残念かな。
それでも、「姉さんが作ってくれた」というスパイスがあるから、自分で作ったより美味しく感じるんだろうなあ……ふふふっ。
「えっと……瑞希、ガチで生まれて初めて料理するんだよね? オムライスってちょい難易度高めだよ?」
「大丈夫だ、問題ない。やり方は見ていた、後はトレースするだけだ」
「……料理しようとしてるんだよね?」
で。はじめてのおりょうりな訳だから、助手を付ける事になった。最初は僕が助手になろうとしたのだけど、姉さんが「一卵性双生児の優輝が助手だと、私の実力だと判断されないだろう」とか言い、アキを指名した。寂しい。
それにしても、「トレース」か。予想通りの単語も出たし、これでほんの1ミクロン程あった不安もなくなった。
「みんな、出来たよ〜ん」
「待たせたな」
待つ事約20分。8人分のオムライスが2人によって運ばれてきた。僕と姉さん、アキヒロ、部長副部長、そしてパフィンさんと月影ちゃんだ。
今いない友達のうち、雅とサチさんは剣術部に入部届けを出した後、学食に行くらしい。
蒼月さんは、入部した服飾部に用事があるので今日のお昼は別行動、と月影ちゃんに聞いた。月影ちゃんは部活には入るつもりはないらしく、食事と読書以外には予定はないらしく、誘ったら来てくれた。
そんな月影ちゃんだけど、蒼月さん、というか服飾部の人に、「入部しなくても良いから時々衣装モデルになって下さい!」と頼まれたらしく、本を貸してくれるのを条件で了承したらしい。やっぱり月影ちゃんは本の虫だ。
「いただきます」
『いただきまーす!』「……いただきます」
僕の音頭の後に続いて、みんなが食事の挨拶して、食事が始まる。何故か、僕がみんなのまとめ役で定着してしまった……まあ良いけど。
「……美味しい……」
「はふはふっはむっムグムグモグモグ……ん〜♪」
「うんまっ。チョーんまいよ〜ミズ姉さ〜ん」
「ふ、当然だ」
「うーむ、美味ですぞ。これに合う漬物は……」
うん、美味しい。さすが姉さん。みんなにも好評なようで、なんだか嬉しい。
「んにゅ、美味い。普通に、じゃなくてかなり美味い……解せない」
「ああ……そうだね。誰が食べても、初めて料理した人のものとは思わないだろうね」
アキと部長さんも美味しいと言っているけど、その表情は複雑そうだ。まあ、初料理でこんな、料理を作り慣れた人レベルのを目の前で作られたら当然か。
「まあ、僕が作ったからね」
「……どう言う意味だい? 今日君は、手伝うどころか助言の1つもしなかったはずだけど」
「このあいだ言った通りです。姉さんは天才なので、数回作る工程を見たら、その動作をトレースして同じものが作れちゃうんです。だからこのオムライスは、僕が今から作ったとしても、まったく同じ味のものが出来上がりますよ」
「まあ、料理は初めてだったが、愛する優輝が普段やっている作業なのだ。何度も見てきた姿だ、寸分の狂いなくトレースするのは容易い」
『…………』
絶句する2人。僕を含め、凡人に姉さんの事を分かりやすく伝えるならやっぱり。
「姉さんは天才なので。あまり深く考えない方が良いですよ?」
「う、うん、そだね」
「まあ、なんだ。この腕なら、瑞希君の入部に異議を唱える者はいないだろう。瑞希君、美味しい料理をありがとう」
「ありがとう!」
「そこはありがとうじゃ……あー、まいっか」
2人は完全に納得はいっていないようだけど、それ以上考えるのはやめたようだ。
食事後、と言ってもヒロはまだおかわり食べているけど……ちなみにおかわりは僕が作った。それを一口味見したアキと部長さんがまた複雑な表情になったのは、まあ仕方ないね。料理人として当然の反応だろう。
それはそれとして。今は、午後の訓練、というか、午後に着る人は着るであろう「戦闘着」についての話題になった。
「おおっ優輝と瑞希は戦闘着決まってるのねん」
「2人のはどんな感じなんかな〜? やっぱそれもおそろ?」
「それは――」
「午後の訓練まで秘密だ」
「え〜もったいぶらなくてもい〜じゃ〜ん。ま、運動着もグッドセンスだったし、戦闘着もかぁいいんだろな〜」
「そんな期待する程のものじゃないと思うよ。僕は別に、今話しても良いし」
「あまり謙遜するな優輝。とても似合っていてカッコ可愛いぞ」
「ほー、それは期待しちゃうよー?」
「もう姉さんたら、あんまりハードル高くしないでよ〜」
僕の戦闘着は、ただ必要は装備を選んだだけだ。センスは人並み程度だと思っているし、本当に謙遜はしていない。
あまり僕の話題ばかりなのも気恥ずかしいので、少し話題をずらすことにする。
「それよりもっ」
「どれよりも?」
「僕としては、月影ちゃんの戦闘着が気になるかな」
「……?」
本を読んでいた月影ちゃんが、名前を呼ばれて顔を上げ、少し首を傾ける。可愛い。
「んにゅ? 月影ちゃん、戦闘着決まってるのん?」
「…………。恐らくは……」
「恐らく?」
「……蒼月が作った、らしいので……」
「作ったー⁉︎」
「アキ、そこ大袈裟に言うとこ?」
「なんとなくっ!」
まあアキらしい。元気可愛い。
「ま、自作衣装を月影ちゃんに着せた写真を見せびらかしてるし、意外ではないよね。それで、蒼月さん本人の戦闘着は?」
「……まだ、らしいです……確か、今月中には仕上げる、と……」
「ふむ。月影のを優先し過ぎて自分のは遅れた、とかだな」
「ふみゅふみゅ……水城ズと天王寺ズ、やっぱ似た者同士だよねー」
「そうか? 私は一応、自分の戦闘着は決定済みなんだが」
「一応って言ってる時点で似た者同士だと思うよ?」
「ふーむ」
アキにそう言われても、まだ姉さんはピンと来ないらしい。
確かに、姉さんは自分の戦闘着をすでに決めている。けどあれは、何というか……うん。
「確かに、姉さんと蒼月さん、似てる部分多いね。戦闘着に関しても」
「そうか。優輝がそう言うならそうなのだろうな」
「ミズ姉さん、なんか納得の仕方おかしくない? これがシスコンっヤツなん?」
「そうだよーパフィン」
「なんでアキが言い切るのかな……」
「私はシスコンではない。優輝コンだ」
「姉さんそれ言い方変えただけだからね?」
「いや、似て非なるものだ」
「いやいや、同じだから」
「いやいや」
「いやいやいや……まあいいや」
「仲良いね〜」
そんな感じで和やかに雑談して、楽しく昼休みを過ごした。
「ガールズトークで肩身が狭い」
「ですな」
途中、そんな呟きが聞こえた気がする……なんかごめんなさい。