32話 精霊防具とコネクション
午後の訓練前の、長めの休み時間。今回も早めに出て、1人用更衣室で手早く着替える……運動着同様着慣れているけど、さすがに運動着よりは着替え終えるのに時間がかかるな……
『おお〜……』
ジッパーを開けて出ると、みんなから感嘆の声のようなものが漏れる。
「じゃ、また後でね」
みんなが感想を言いたそうな顔をしていたけど、何か言われる前に素早く外に出た。
「んにゅっ! 優輝っ最高にカッコ可愛いよー!」
「優輝さん、素敵です!」
「ん、ありがと」
「当然だ」
「チョーカコカワだね〜。清楚なドレス風の服にゴツい鎧のミスマッチ感が、強そうでイイカンジかも〜」
「肩までのガントレット、格好良いなぁ。俺もガントレット装備するかな……」
僕の戦闘着は、友達に概ね好評だった。ちょっと恥ずいけど、嬉しい。
「見た目は良いけど……脛丈スカートって、戦闘での動きが少し制限されそうなのだけれど。優輝さん的にはどうなのかしら?」
「んー、まあ確かに最初は多少気になったかな。慣れれば普通に動けるよ」
真面目なサチさんだけは、見た目の評価以外もしてくれた。
さて。現在側にいる友達の評価も終わったので、僕の戦闘着について詳細を書こう。
深緑のドレス風の服、スカートは脛丈のミディサイズで、邪魔にならない程度にフリルが付いている。
両腕には鈍い銀色の、肩までのガントレット。僕は大剣使いなので、衝撃を和らげるために肩までのを装備している。
インナーとして、伸縮性の良い長袖の黒シャツに、下は同じ素材の黒タイツ。黒はシルエットを誤魔化せるから、僕のインナーは大体黒だ。
「にしても……瑞希は本当にそれが戦闘着なのん?」
「うむ、そうだが。何か問題があるか?」
「本人が1番動きやすい服装で良いのだから、瑞希が良いのなら私は多くは言わないけれど……」
みんなに心配される姉さんの戦闘着。別に昔の漫画やゲームの女戦士みたいな痴女スタイルとかではない。とはいえ、見た目だけなら心配されても仕方なくはあるかな。
というのも、姉さんの戦闘着の見た目は、この学園の制服の上に白衣を羽織っているだけなのだ。強気な口調も合わさって、よく知らない人が見たら思春期の子供が患うアレ的な患者と見られてもおかしくない。
「案ずるな、アキにサチ。こう見えて、彩光精霊石を使用した精霊防具だ」
「へ〜、そんなら安心……え、マジで?」
「うむ」
姉さんの一言に、みんなが固まる。まあねえ……精霊防具に使用するのは、大体が並の精霊石だ。彩光精霊石なんて、普通は中級以上の精霊剣にしか使われない。それだけ彩光精霊石は貴重で高額なのだ。
「もしかしたら、と思ってたけど……水城ズって、かなり良いトコのお嬢様……?」
「そんなことない、とは思うけど……ただまあ、父さんとかが、そういうコネがある立場の人だから」
「コネ……コネかぁ……」
アキがなんか遠い目をしだした。
「……あ。優輝さん、「とか」って、咲様の事?」
「うん、そうだね」
さすがヒロ、鋭い。
「ふみゅ…………優輝」
何やら少し考え込んだ後、アキはぽんと僕の肩に手を乗せて、
「あたし達のもお願いねっ!」
実に良い笑顔で、僕のコネを利用する宣言をした。
「こうも清々しく頼むなんて……アキは大物ね。まあ、汚くないコネは利用するべき、かしらね」
「んも〜そんな褒めても今は何も出ないよ〜?」
褒めているのだろうか? まあ、サチさんの言には同意するけど。
「みなさんこんにちは。午後も早いですね」
「……ん(ぺこり)」
戦闘着について話していると、蒼月さんと月影ちゃんが来た。
蒼月さんは、午前と違い弓道着のような格好だった。月影ちゃんの話では、蒼月さんの戦闘着はまだ完成していないらしいので、今のは仮の戦闘着なのだろう。
そういえば、2人の戦闘スタイルについては、月影ちゃんが護身術の達人という事以外は聞いてなかったな……蒼月さんは、格好からして弓使いなのは確定かな。で、月影ちゃんだけど……
「か、かわいぃ……お持ち帰りしたいぃ……」
「え。さ、サチさん?」
最初に月影ちゃんの今の格好に感嘆の声を上げたのは、サチさんだった。
間延びしたトロけたような声を発したものだから、最初はパフィンさんかと思った。ちょっと驚いたけど、なんかサチさん、「可愛い」にこだわりがあるみたいだから、意外ではない……かな?
「ん……どうも、です……」
そう感謝を述べ、静かな動作でカーテシーをする月影ちゃん。確かに全てが凄く可愛い。
「ふふふ……真っ先にお分かりいただけたのは塩谷さんでしたか。素晴らしいでしょう……月影の! 最強装備時の! 可愛さ上限突破な姿あは〜〜‼︎」
「うわ」
語っている途中で唐突にヘブン状態になった蒼月さんにちょっと引く。
そんな、サチさんが思わずトロけ顔になっちゃったり蒼月さんがさらなる残念さを露呈させちゃったりした月影ちゃんの可愛すぎる格好は、いわゆるゴスロリ服だ。
白と黒で構成されたゴスロリ服は、月影ちゃんの美しい銀髪にこれ以上ないくらい似合っていて、物凄く可愛い。だからまあ……ちょっと引いちゃったけど、興奮する気持ちは少しは解る。
「……ふむ。良いセンスだ」
「さすが瑞希さん、そう言って下さると思っていましたわ。ふふふ」
そう言って蒼月さんは、聞いてもいないのに月影ちゃんの戦闘着についての詳細を語り始めた。
ヘッドドレスのデザインがどうだとか、ジャンパースカートとボレロの色合いと月影を引き立てる豪奢過ぎないレースとフリルの使い方に苦労したとか、他にもコルセットが精霊石がパニエがドロワーズがブーツが……
(3人共生き生きしてるなあ)
……最初の方は何となく理解出来ていたから聞いていたけど、途中でテンションについていけなくなり聞き流す事にした。
「瑞希はまあいいとして。さっちゃんがあの専門用語飛び交う会話についていけてる事にビックリだねぇ」
「僕も、単語自体はわかるけど、あの熱量にはついていけそうもないなあ」
「アタシも〜」
「で、でも、熱中出来る趣味があるって、素敵だと思う、かも」
「あー、そうだな。俺の趣味は自己鍛錬くらいだし、確かに凄いよなって思うぜ。ああ言うのなんていうんだっけ。同じ穴の狢だったか?」
「それは微妙に違うかな。この場合は同好の士か、同人だね」
静かにヒートアップする月影ちゃん可愛いの会話を眺めながら雑談していると、いつの間にか月影ちゃんが僕らの近くにいた。気配消すの上手いなあ。
「えっと……なんかお疲れ様、月影ちゃん。その戦闘着、とっても似合っていて可愛いよ」
なんだかんだで感想を言いはぐっていたので、蒼月さんから聞き飽きてるだろうけど僕も褒めた。
「ん……(こく)」
ほんのり頬を染め、小さくお辞儀する月影ちゃん。凄い可愛い。
「そういえば。このゴスロリ服、精霊防具?」
蒼月さんの台詞の中に、精霊石が云々てあった気がしたので、聞いてみた。
「……火の彩光精霊石を使用、だそうです……」
「んへぇ」
アキが奇声を出してるけど今はスルーしておこう。
「あ、あの、気になってたんですけど。優輝さんの戦闘着も、もしかして」
「ああ、うん。使われてるよ、彩光精霊石」
「ぐべぇ」
「んほぉ」
再び奇声、というかひとつ増えてる。パフィンさんかな? まあスルーする。
「インナー以外は、彩光精霊石入りの神霊石を使用してるって言われてる。父さんと咲さんが、知り合いに発注した特注品らしいんだけどね」
「こういう事聞くの、不躾かもだけど。その、お値段は……」
「うん、まあ。高級車が1、2台買えちゃうくらい、らしい」
僕も姉さんから聞いただけだから、本当に聞いた値段が正しいかはわからないけど。彩光精霊石の貴重度を考えると、嘘ではないんだろうなあ。
『………………』
3人共黙ってしまった。沈黙が辛い。
まあ、3人の気持ちはよく分かる。僕も今でも、親からとはいえこんな良い物仕立てて貰っちゃって申し訳ない、とか思ってるし。
「優輝さんは……愛されて、いるんですね……」
「……月影ちゃん?」
初めて、月影ちゃんから話題を振られた気がする。
「……私と、蒼月。本当の親の顔を、知りません……今の父様は、あまり、家にいません……」
「…………」
いきなりちょっと重めの話が始まったけど……もしかして、僕を気遣ってくれているのかな?
「ので……本の知識、ですが。良い親は……大切な我が子に、良い贈り物をしたいと思うもの、らしいです。ので、その……」
そこまで言って、迷うように視線を彷徨わせてから蒼月さんに視線を向けてから、
「蒼月とは……血は繋がっていません。親代わりではなく、姉、のような。その、なのですが……気を使い過ぎないで欲しい、と……」
言いたい事が上手く言葉に出来ないようで、蒼月さんと今自分が着ている服とに視線を彷徨わせる。
でも、月影ちゃんが何を言いたいのかは、何となく伝わって来た。要するに。
「んっと。子を思う親からのプレゼントなんだから、申し訳なく思う必要はない。てこと?」
「……ん……(こくり)」
月影ちゃん……ほんと、気遣いが出来る良い娘だなあー……好き。
「そうだね。ありがとね、月影ちゃん」
「……ん(ふい)」
僕が感謝を告げると、頬を赤らめ恥ずかしがるように視線を逸らした。凄く可愛い。
(申し訳なく思う必要はない、か)
溺愛されているとはいえ、親が何でも用意してくれるのが当然とは思わないし、そんな子供にはなりたくない。
とはいえ。時には少しくらい、甘えても良いのかもしれない。時々なら、ワガママを言っても良いのかもしれない。うん。
「というわけで」
「ということで?」
「どこまで要望が通るかわからないけど。みんなの戦闘着のデザインとかコンセプトとかが決まったら、教えてね。僕らのコネで、みんなの戦闘着を用意してあげちゃうから」
「え、いいのっていうか大丈夫なのん? さっきのは冗談っていうか……さすがに高級車が買える金額をポンと払えるほど、うちは裕福じゃないよ?」
さすがに戸惑うアキ。そこではっきり冗談だったって言えるアキは、やっぱり良い子だ。
「期待されすぎても困るけど。サチさん曰く、汚くないコネは使うべき、らしいし。友達の戦闘着だもん、出来るだけ良い物使って欲しいからね」
友達のための戦闘着だ。友達の命を守る事になるかもしれない精霊防具だ。
それなら――少しワガママを言っても、いいよね?
「あー」
「イミよくわかんないんだけど……」
「うーんとだな」
「えっと……」
「……」
月影ちゃん意外の4人が、何やら言いたそうに数秒口籠る。と、
「とりあえず。ありがとうお友達っ!」
「……ユキさん太っ腹過ぎない?」
「ああ、良い人過ぎるな」
「……惚れちゃいそうです」
なんか優しげな笑顔で、口々に感想を告げてきた。
キーンコーン……
「あら、時間ですね」
「ですね……後で月影ちゃんのゴスロリ写真下さい」
「ええ、勿論」
「……ん? どうした優輝?」
「いや、なんでもないよ。さ、行こっか」
反応に困る反応をされて、どう返そうかと思っていたところで時間切れになった。けどまあ。
(みんな嬉しそうだったし、このままでいっか)
あまり気にしない事にした。
さて。いよいよ午後の訓練開始だ。本日最後の授業でもあるし、頑張るぞー。




