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30話 訓練の授業1回目

「…………」

「うわびっくりした」


 1人用更衣室のジッパーを開けると、月影ちゃんがすぐ目の前にいた。


「…………。こんにちは……」


 何故か少し間を置いてから挨拶される。なんだろ?


「こんにちは、月影ちゃん。これ邪魔だったかな?」

「(ふるふる)……事情、聞きました、ので……」


 1人用更衣室を指差して聞くと、小さく首を振りそう言ってくれた。優しい。


「ところで、その格好は間違いなく蒼月さんの趣味だよね」

「……?」


 月影ちゃんが不思議そうな顔をして、僅かに首を傾ける。


 栄陽学園で指定されている服装は、制服のみだ。指定の運動着はなく、公序良俗を大きく乱すような服でなければどんな服装で訓練に参加しても構わない事になっている。

 なので、僕の服は、朝鍛錬で来ていたのと同じ組み合わせのものだ。


「予想通りだけど、やっぱミズ姉さんのカッコ、ユキさんとおそろなのね〜」

「うむ。色までは合わせていないがな」


 姉さんも僕と同じ組み合わせだけど、姉さんは青系が好きだから、パーカーとショートパンツの色がサファイアブルーだ。


 で。月影ちゃんの運動着だけど……いわゆる、昔の体操服だ。

 上は名札付きの白い体操シャツ、下は濃紺色のブルマだ。こんなマニアックな格好を月影ちゃんが選ぶとは思えないので、蒼月さんのチョイスで間違いない。


「……体操着のお約束はこれです、と、蒼月が……」

「まったくあの人は……」


 周りを見回し、蒼月さんを見つけるとこちらに気付き、小さく手を振って穏やかな笑顔を向けてきた。

 ちなみに蒼月さんも月影ちゃんと同じ組み合わせだった。月影ちゃんはともかく、蒼月さんはそんな格好で恥ずかしくないのだろうか。


「あ、あの、優輝さん、私も使わせて?」

「え? ああごめんヒロ。どうぞ」


 開けたらある意味アブナイ格好の月影ちゃんがすぐ目の前にいたので、出るのを忘れて話し始めてしまった。


 僕が1人用更衣室から出ると、ヒロはそそくさと入り慌てた感じでジッパーを閉め、すぐに衣擦れの音が聞こえて来た。やっぱりヒロも、これを使うのは恥ずかしい事は恥ずかしいらしい。


 早くに着替え終えた僕は、すぐに更衣室を出た。姉さんが「皆が着替え終わるまで待て」とか言い出したけど、目のやり場とかに困るから当然待たない。「着替え終わったのにいつまでもいたら邪魔になるから」と言い、返事を待たずに早歩きで1人出てた。





 待つこと数分。授業開始約10分前に、雅を含めた友達みんなが一緒に固まってこっちに来た。


「んもぅ優輝ったら、すみっこにいれば邪魔になんてならないでしょうに」

「1人用更衣室(あんなもの)使っといて長々といられないよ。いくら場所取らないって言っても、非常識な事してるし、目障りに思う人もいるかもだし」

「で、でも、着替え中直接ジロジロ見られないのは良かったから、えーと、瑞希さんありがとう?」

「私は優輝のために用意しただけだ、気にするな」


 まあ、助かったのは確かだからいいけど。ある意味目立っちゃうのはちょっと恥ずい。


 ということで、友達全員着替え終わった訳だけど。姉さんと朝鍛錬組は同じ運動着だったから見たことあるけど、アキヒロの運動着はここで初めて見ることになった。


 2人の格好はお揃いで、白い体操シャツに赤のハーフパンツという、まあ普通の学校体操着スタイルだった。

 当然シャツに名札は付いていない。あったらコスプレ衣装みたいになってしまう…………


「どうしました?」

「……?」

「……いや、なんでもない」


 コスプレ衣装みたいな格好の蒼月さんから視線を逸らす。月影ちゃんは違和感ないのになあ……いや、違和感ないのが違和感ある、かも。


「お〜、みなさん早いですね〜。5分前行動、大事ですよね〜」


 ネイ先生が来た。訓練担当の先生は、クラスの担任が受け持つから、つまり1-Dの訓練の指導者はネイ先生だ。

 僕らが小さい頃は、咲さんとネイ先生に戦闘指導して貰っていたけど、僕らがある程度強くなると学園に戻ってしまい、帰郷した時くらいしか指導してくれなくなった。

 ので、ネイ先生の指導は久しぶりだ。嬉しい。





「さてさてみなさん、恐らく待ちに待った訓練の授業です〜。と、言いたいのですが〜」


 うん? 何かあるのかな。


「日に2回ある訓練の授業ですが、午前は主に体力トレーニング的な事をするので、本格な戦闘は、午後の訓練からになります〜」

『ええ〜〜!』


 クラスメイトの一部から不満の声が上がる。というか、他のクラスからも聞こえて来た。


「不満はわかりますが、体力トレーニングは大事ですよ〜? 基礎体力が上がれば、それだけ戦闘訓練で得られるものが増えます〜。そ・れ・に」


 そこで一度切り、イタズラを考えている子供のようなちょっと悪い顔をして、


「守護者仕込みの体力トレーニングを、甘く見ない方が良いですよ〜」

『…………』

「うおおぉ〜〜! 楽しみです! 先生っ早く始めましょうっ!」


 その一言で、うちのクラスは静かになった。雅だけは騒がしくなったけど。


「ふふふ〜、嬉しい事言ってくれますね〜。とはいえ、まずは必要事項の通達からです〜」



 ネイ先生はそう言い、訓練の基本的な流れを説明してくれる。

 と言っても特別な事は言われない。午前は準備体操に体力トレーニング。午後は準備体操に戦闘訓練、クールダウンストレッチの流れだ。


「それと、これは事前に伝えられていますが一応〜。午後は、自分の戦闘着が決まっている人は、運動着ではなくそれを着て来て下さいね〜」


 戦闘着と聞いて、みんなが少しザワつく。

 訓練の授業に関して、入学案内で簡単な説明があった。それには、授業には自分の選んだ運動着を各自用意する事。そして、戦闘着が決まっているものはそれを持参する事、とあった。


 戦闘着とは、読んで字のごとく、戦闘の時に着用する服の事だ。

 当然、戦闘スタイルは個人個人で違うものだから、みんな違う服装や防具を用意する事になるだろう。軍隊ではないしね。

 とはいえ、実戦経験のある人は少ないだろうし、何よりみんなは学生だし、入学して間もない。戦闘着がすでに決まっている人は、多分少ないだろう。


「さて、これで以上です〜。さあさあ、まずは準備運動、始めますよ〜」


 ネイ先生の一言で、いよいよ訓練の授業が始まった。といっても、1回目は体力トレだし、僕らはネイ先生の指導は受けたことがあるから、懐かしさは感じたけど新鮮味はなかったけど。

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