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魔法具を売るためには国からの許可を得る必要がある。
売る魔法具についても、鑑定師オストリー・イングリアスからの許可を得なくてはならない。
魔法大国から派遣されている鑑定師が一人しかいないのは、ハルヒリーデ王国の現状を鑑みた結果ではないかとナナリアは考えていた。
暴発した魔法具は店頭で売られていたもの。
許可の降りていない魔法具が売られていた時点で犯罪であることに変わりはない。
それが単なる事故で済まして良いものなのか、はたまた事件性があるものなのかというお話。
国に登録されている魔法具店は毎月、所属している領地に収支報告を義務付けられている。
その収支報告について、まずは魔法具暴発のあった領地のものは、ナナリアが提案した翌日にはその三分の一が、翌々日には全てが揃っていた。
「どう?」
アフィーズからの問いに、資料の最終行に目を滑らせつつナナリアは答える。
「……とりたてて怪しい動きをしているところはないわね」ちらり視線をあげ、手に持っていた紙の束を机上に置いた。
「強いて言えばという団体はあったのだけれど」
「そうなの?」
「ええ」
幾枚かをめくり、目的の一面を開く。
「このお店よ」
ナナリアが指し示したのはちょうど昨年あたりから開店した店だ。
疑いの余地がないほどに頭角を表していることが見てとれる。
不自然とは言いきれないが、調べておくに越したことはない、そんな動き。
「ひとまずアポイントメントを取るわ。直接的には関係ないにせよ、何かしらの情報が得られるかもしれないし」
そもそも、と内心。
(今は緩やかになったとはいえ、前国王のせいで滅びかけているこの国。そんな国で利益を伸ばしていること自体、どこか引っかかりを覚えるわ。……ただの杞憂なら良いけれど)
他国との貿易もままならない状況。
どうにか隣国へ農作物の輸出を、それで得た利益を用いて輸入を行なっている程度。先の魔法大国への詳細鑑定もひとつしか出せなかったくらいには国庫に余裕がない。
ハルヒリーデ王国で主に使われている通貨が前国王以前よりずっと安くなっていることもその理由の一端を担っていて。
無論、国内のお金の巡りも悪い。
にも関わらずの利益の伸び。
隣国でならよく見られる光景なのかもしれないが、この国では悪目立ちしかねない事象。
一層気を引き締めていこうと、ナナリアは行動を開始する。
☆☆☆
調査にはナナリア本人が直接向かうことになった。
アフィーズはすでに成人していることもあって他の仕事も抱えており、王宮でお留守番。
代わりにかの魔法大国から派遣されている鑑定師がついてくることになった。あとは護衛が二人ほど。
件の店があるという街までは馬車で移動し、預けてからは徒歩で。
着いた先はなかなかに立派な木造建築。
周囲に馴染みつつも目を惹く趣向はさすがなもの。帰ったら遊園地のデザイン案として書き加えておこうかとナナリアは店の端から端までに目を通す。あるいは事件が落ち着いたら、各地の建築物をお忍びで見て回っても良いかもしれない。
入り口前に店の関係者であろう人が立っていた。
青年は敬礼をするとこちらへ話しかけてくる。
「お待ちしておりました。ナナリア・リウイーア嬢でお間違いないでしょうか」
「ええ。急な連絡で悪かったわね」
「いえいえとんでもない。では中へどうぞ」
「失礼するわ」
片開きの扉をくぐり、店内へ。
清潔でいてどこか温かくもある雰囲気と、整頓され目当てのものが見つけやすそうな配置。
見る限り、暴発した魔法具と同じ型のものは置いていないようだ。
そもそもの話。
「こちらの店では護身用魔法具を扱っていないのね」
「暴発事故が相次ぎましたから。当店で扱っている商品はどれも安心安全かつ高品質ではありますが、万が一を考え、ここ一週間ほどは表に出しておりません」
「そう。在庫を見せていただくことは可能かしら?」
「もちろんでございます」
さらに一枚扉をくぐる。
この一軒で倉庫も兼ねているのだろうか、人二人が同時に通るのが限界であろう廊下といくらかの部屋が見てとれた。表の装飾に比べると窮屈さを感じてしまう。
案内人の青年の後ろをついていきつつ、ナナリアは軽くオストリーへ目配せを送った。対し彼は首を横に振り答える。
今のところ怪しい箇所はない、ということだろう。
オストリーには魔法で隠蔽されているものがないかどうかを探るよう、あらかじめ依頼していた。ナナリア自身、魔法の知識はあるものの、実践はあまり得意ではない。他に覚えるべきこと学ぶべきことが多かったが故、魔法の実践的教育は後回しにされてきた。
今オストリーが使っているのであろう探知魔法も、行使はできるがせいぜいが隠されていない魔素の探知が可能な程度。探知可能範囲もそこまで広くない。
現状オストリーが嘘をつく利益がないため疑ってはいないが、時と場合によっては自身で探知をしたくなることもあるだろう。
帰ったら外装のメモだけではなく、魔法の練習もしようか。
さしあたっては探知魔法から。
と、案内役の青年が立ち止まった。
「こちらでございます」
開かれた扉の先はやはり倉庫となっていたようで、敷き詰められた棚にさまざまな物品が肩を縮こませ並んでいる。
「入口側から三列ほどが護身用の魔法具となっております。こちらも調査なさるのでしょうか?」
「許可をくれると助かるわ」
「かしこまりました。マスター、この店の責任者からはあらかじめ許可を得ています。破壊以外でしたら、と」
「ありがとう。イングリアスさん、頼めるかしら?」
「簡単なのでいいんですよな?」
「ええ。同じ型かどうか、それから危険性の有無を」
「承知」
一つ一つを丁寧に、ではなく、ざっくんばらんに。無言で護身用魔法具へ調査の魔法をかけていくオストリーの姿を横目で見つつ、ナナリアは自身の近くに置かれた調査済みのそれに意識を傾ける。
隣の魔法具と比べても違いなど分からない。同じ型故に当たり前のことなのかもしれないが。
「異常は特に見当たらねぇ。至って普通の魔法具でっせ」
示された棚全ての魔法具を調べ終わったオストリーがこちらへ戻りつつ告げる。
「そう。ありがとう、イングリアスさん」
仮にこの店が黒であったとして。
午前中唐突に連絡が来た上でその一時間後に顔を見せた来訪者とはいっても、このレベルの過ちで露見させるほど愚かではないみたいだ。
残っている護身用魔法具があったら調査をさせてほしい、とはあらかじめ伝えてあったこと。
が、調査内容はそれだけではない。
「では責任者の方と話がしたいのだけれど」
ナナリアの言葉に、案内の男はもちろんでございますと返答する。
「我らがマスターも貴女様との対話を望んでおられました。次期王妃たる、貴女様との」
「そう」
思わず驚愕が出てきそうになる表情を、王妃教育で培われた技術でもって制する。
ナナリアが次期王妃である――次期国王アフィーズと婚約を結んでいる情報については、国民向けの新聞で流れたことはなかったはず。
またナナリアの周囲は基本的に少人数の貴族家出身の人間で固められているため、おいそれと国民に情報が流れることもまた、ないはずだ。無論、隠されているというわけではないため、王宮に出入りできれば手に入る情報ではあるが。
しかし今のご時世、仕事で王宮に出入りすることすらも相当な労力を要する。
どうやらこの店は、普通に民として生きていれば知るはずもない情報を仕入れることができるらしい。
「では、案内をお願いしてもいいかしら?」
動揺は見せない。表情を隠す技術は優先して身につけた事項だ。
――が、それもまだ完璧ではないようで。
「…………なんで」
再びの廊下を進んだ突き当たり。
二つほど階数を上げたさらに奥にある扉の前。
静かに視線をこちらへ向け待っていた、一人の少女。
「おひさしぶりです、ナナリアお姉さま」
ビリリアント・リウイーア。
リウイーア侯爵領からは遠く離れたこの場所で、想定外のナナリアの従妹が、微笑み立っていた。




