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「そしたらこの事故について説明していくね」
翌日昼過ぎ、執務室にて。
おのおの午前中の予定を済ませ、ナナリアが王宮に来てからは欠かさずである二人での昼食を過ごした。
そのままアフィーズに連れられたナナリアは、彼と机を挟み座っていた。
さっそくと事故の話を切りだしたアフィーズ。
まずは情報共有をしようか。
「二ヶ月くらい前、だったかな」
始まりは王領東にある伯爵領からあげられた報告書だった。
国王は各領地の長に対し、月終わりに報告書の提出を義務付けている。
この書類のひとつに、護身用として用いられる魔法具の暴発する事故がいくらか相次いだ、と記載されていたのだ。
「すぐに父上は伯爵家から暴発したという魔法具を回収したんだ。
それをイングリアスさん……ナナって会ったこと、あったっけ?」
「いいえ。ですが、底の見えない方であると聞いているわ。確かこの国へ来る前はアネストジック内で別のお仕事をされていたのでしょう? ハルヒリーデ王国に派遣されていた前代の鑑定師とはまた違った雰囲気をお持ちみたいね」
「そうそう。僕も今回の件で何回か会ったんだけどさ、すごそうな人だったよ。たぶんあの人、鑑定以外の魔法もいろいろ使えるんだろうなぁって」
オストリー・イングリアス。
魔法大国アネストジックより派遣された、ハルヒリーデ王国に在中している魔法具の鑑定師である。
でね、とアフィーズは話を戻す。
「イングリアスさんに鑑定してもらった結果、個人でできる範囲の簡易的なのじゃ分からないって言われて。魔法具が暴発した時点でその部分の構成が壊れてたみたいで、誰が作ったのかとか、そもそもどんな理由で暴発したのかすら、判明しなかったんだ」
だから、魔法大国と名高いアネストジックに詳しい鑑定に出すことにした。
「輸送とか含めると二週間くらいかかっちゃうし、高くついちゃうんだけれど、さすがに何も分かりませんって状態じゃほっとけないからね。ナナも知っての通り、暴発した魔法具は未登録のやつだったからさ。
イングリアスさんの見立てだと、暴発した魔法具はどれも同じ人によって作られたものじゃないかって話で、そうすると、最悪、『事故』じゃなくて『事件』って可能性もあるでしょ?」
「同一犯による、ってことよね?」
「うん」
複数件に渡る魔法具の暴発事故が意図的に起こされた犯行である場合はなおさら、手がかりゼロというのはよろしくない。
そうでなくとも、何かしらの原因というものが存在するはず。
国として再発防止に務めることは当然のことであった。
二週間ほど経過し、魔法大国から詳細な鑑定結果が返ってくる。
「でも結局、誰が作ったのかは分からずじまいだったんだ。
なんで暴発したのかっていうのは解明できたけど、どっちかというと不備が見つかった程度で、気をつけるくらいしか対処のしようがなくてさ」
故、万が一の事件性に備えて国王は各領地へ伝令を飛ばした。
魔法具の暴発――特に、護身用のものが暴発する事案が発生したらすぐ王宮へ報告を入れるように、と。
自分の持つ情報を目の前の少年から得たものとを同時に脳内で並べ、ナナリアは口を開く。
「たしか新聞で暴発について取り上げられるようになったの、ここ一週間の話よ?」
つまりは――。
確信めいた問いへ、アフィーズは肯定的に頷き返す。
「そ。事故が再発したのが一週間と少し前の話なんだ。前もって伝令を飛ばしていたおかげか、今度は一箇所じゃなくて複数の領地……八つの領地、だったかな。から、報告が上がってさ」
二ヶ月前ではなく一週間前から民衆の間で取り上げられるようになった事案。
二ヶ月前は話題に上がらず、しかし一週間前のものは違った。
それの意味するところは。
「さすがにまずいからって、新聞に情報を流したのは僕ら王宮さ」
「やはり。それで、暴発した魔法具は回収したの?」
「もちろん。イングリアスさんに鑑定依頼も出してるよ」
結果のいくつかはすでに返ってきていて、前と同じく簡易的なものでは分からないとのことだった。
「ただ一点、あくまで勘だって言ってたけど、二ヶ月前の魔法具と違う構造になっているかもしれないって」
僕も見比べてなんか違うなーって思ったし、とアフィーズは眉をしかめた。
同じ魔法具だったなら、まだ、犯人一人説濃厚だったんだけれど。
もしも本当に違うのであれば、二ヶ月前の事件とは原因が異なる可能性も大きく浮上する。
「犯人とは言っても、わざとじゃない可能性も十分あるけどさ。上手く作れなくて、それで暴発しちゃってる、みたいな」
「そうね。それで、他に手がかりになりそうな事柄は?」
「んー……事故にあった人が魔法具を買ったっていう店舗に聞いたりもしてるんだけどね」
口ぶりからして、めぼしい成果は得られていないらしい。
「新たに暴発した魔法具も、アネストジックへの鑑定は依頼したのかしら?」
「ひとつだけではあるけれど、うん」
「いつ送ったの?」
「回収してすぐだから、えっと、一、二……」
指折り数え記憶を辿り、少年は答える。
「五日前、かな」
「とすると、早ければ来週には結果が返ってくるわね」
だね、と頷くアフィーズ。
「では、一旦魔法具から解決策を見出すことは置いておいて、他の探れるところを探っていくといったところかしら」
言いつつ、ナナリアはサイドに垂れる左髪を人差し指でくるりと手に取る。
頭がわずかに傾いて、拍子にポニーテールが揺らめいた。
「まずはお金の流れからね」
何かあった時、顕著に現れやすいところだからと、少女は言った。




