9.第三章 再会 エピソード1
木枯らし何号かが吹き荒れて、残っていた木々の葉を一気に落とすのと同時に、どこからともなく冷たい空気を運んできた。厚着をしてその上にスタッフ用の赤いジャンバーを着ているが、足元からじわじわと襲ってくる冷気は、外でただ立っていることの多い遊園地の仕事にはきつい。
そんなある日、僕は、アルバイトに入って欲しいと頼まれた。入るのが平日だったので、僕は一瞬戸惑ったが、幸い講義の予定をメモしている手帳を開いてみると、その日は朝一番の講義に出た後は、教授の都合で休講が続いていたので、少し遅れてアルバイトに入ることができそうだった。
週末だけの営業のはずなのに、何をするのかと不思議に思いながらアルバイト先に行ってみると、園内の植木のそばに脚立を立てて、そこに上って作業をしているスタッフの姿が目に入ってきた。
「あっ、圭太君、今日は無理言って申し訳ないね。来てもらって助かるよ。見ての通り、みんなでクリスマスの準備をしているところなんだ。なにしろ、うちみたいな小さなところは、高いお金を払って専門の業者にお願いする訳にはいかないからね」
呆気に取られて立ち尽くす僕の姿を見つけて、統括責任者の男性が眉間に眉を寄せながら言ったので、僕はなんとなくその日呼ばれた理由がわかった。クリスマスの雰囲気を醸し出すために、園内の木々に電飾を施すのだ。
義郎さんとペアを組んで作業をするように言われて、園内のどこかですでに作業を始めている義郎を探し始める。義郎さんの姿は、観覧車の近くで見つけた。二階の高さのところまで脚立を上った義郎さんは、肩にかけている電飾の線を一本ずつ枝や幹に巻きつけている。あの高さに上ったら、僕なんてたちまち足がすくんで作業どころではなくなってしまいそうだが、義郎さんは高さをもろともせずに平然と作業をこなしている。その姿は、まるで熟練した職人のよう。もともと、建設会社でエンジニアとして働いていたと話していたから、この手の作業は慣れているのかも知れない。
僕は、急に声をかけて驚かさないように、ゆっくりと脚立のそばに向かうと、
「義郎さん、おはようございます。作業を手伝いに来ました」
と、声をかけた。
義郎さんは軽く右腕を上げて反応すると、手元から垂らした電線を持っているようにと言った。上から垂れてきた電線を持って、僕はそれを機の幹に巻き付けていく。その作業を何度も繰り返していく。もともと、口数の少ない義郎さんだったが、その義郎さんが指示を出さなくても、僕はなんとなく義郎さんが言わんとすることがわかった。一本、また一本と、木々に電飾を巻き付けていくごとに、義郎さんとの間で妙な連帯感のようなものが生まれているのを感じる。いわゆる阿吽の呼吸と呼ぶものだろうか。
作業に余裕ができたのか、義郎さんは脚立の上で徐に口を開いた。
「圭太君、大学の方はどうだ?」
僕が大学生というのを知っているので、僕に話しかける話題として、大学の勉強の進み具合を訊くのが無難だと思って、そう訊いてきたのだろうか。
僕はたちまち、答えに窮してしまった。可もなく不可もなくと言った感じで、なんとなく講義を受けているだけで、特に何が勉強したいとか、こんな力をつけたいと言った目的意識があった訳ではなかったから。
「あっ、はい。なんとか、大学に通っています。でも、自分が何をやりたいのかが、はっきりとわからなくて……まわりには就職を見越して、資格の勉強を始めている学生もいますけど、僕が将来、どの道に進みたいのかも、正直言って何もわからないのです」
僕の本音だった。普通なら、最初の部分だけを答えて、愛想笑いを浮かべていればよいのだろうが、つい本音を話してしまった。もちろん、それには理由があって、不思議にも義郎さんには何でも話せるような気がしていたし、義郎さんから何かためになるようなことを聞けるかもしれないと、期待していたところもあった。
義郎さんは、表情を変えることなく、黙々と手を動かしている。
「無理に見つけようとしなくてもいいんじゃないか」
不意に頭上から、義郎さんの声が聞こえた。
「えっ?」




