11.第三章 再会 エピソード3
「ちょっと、休憩しようか」
義郎さんがそう言って、胸ポケットの中に手を入れたとき、ふと何かがポケットからこぼれ落ちた。ひらひらと舞って、脚立の足元に落ちた紙のようなもの、僕はとっさにそれを拾い上げた。
写真だった。かなり前に撮ったと思しき、すっかり色あせてところどころ泥などで汚れた写真。見るつもりはなかったが、手に取った手前、僕はなんとなく目を遣った。
スーツ姿の男性とワンピース姿の女性が、カメラを見つめながら緊張気味に並んでいる。背景に写っているのは、どうやらこの遊園地のメリーゴーランドのようだった。馬の形が、僕がいつも見ているものと全く同じだったから。二人がよそ行きの恰好をしていることから、デートの一コマを誰かに撮ってもらったのだろうか。
写真の中の男性は、義郎さんだろう。今よりも髪の毛はふさふさしていて、顔の輪郭もシャープな感じがするが、背の高さや真剣な顔をしたときに口もとをかたく結んでいるのは、僕がいつも見ている義郎さんと変わりがなかった。
一方で、隣に写っている女性には、どことなく見覚えがあった。胸のあたりまで伸ばした黒髪、卵型の顔に筋の通った目鼻立ちは、清楚という言葉が似合うだろうか。
どこかで見かけたような気がしたが、写真に写っている今よりもうんと若い敏郎さんの年齢を考えたら、当時、僕が生きていたはずはなく、単なる思い過ごしに違いなかった。
「義郎さん、これ、落としましたよ」
脚立を下りてきた義郎さんに、写真を差し出す。見てしまったことを詫びながら。
「僕の妻だよ。妻と言っても、結婚してすぐに別れることになったんだけどね」
そう答えて、受け取った写真を見つめる義郎さん。もう何度も見慣れているはずだろうに、感慨深そうに眺めているのは、何か深い事情でもあるのだろうか。
「後ろに写っているのは、ここの遊園地ですよね。メリーゴーランドの形が、ここのものとまったく同じでしたから」
義郎さんは、「あぁ」と答えて、強張った頬を緩める。
「この遊園地は、僕たちにとっての思い出の場所でね。実は、学生時代に、僕も圭太君のようにここでアルバイトをしていたんだ。そのときに、妻が客として来ていてね。ひょんなことで、妻が大事な髪留めを落としたとかで、僕が一緒に探したんだ。髪留めはそばの花壇の中に落ちているのを見つけて、そのことがきっかけで、お付き合いすることになった訳さ」
「へぇ、探し物から始まった恋なんて、まるでドラマのような展開じゃないですか」
僕は、義郎さんが穏やかな口調で打ち明けるのに便乗して、ついそう口にしてしまった。
「ははは、そんな大袈裟なものでもないよ。ただ、この遊園地がきっかけで知り合ったものだからね、僕たちのデートはいつもこの遊園地。妻は、ジェットコースターのような激しい乗り物は苦手だったから、あのメリーゴーランドに乗ったり、レストランでハンバーグステーキを食べたりしてね。子供ができたら、三人で来ようなんて、気の早い話をしていたものだよ」
「へぇ、そうだったんですか。いいですね」
流れでそう言ってしまったが、義郎さんが奥さんと別れたことを思い出して、僕は自分の口を掌で押さえてしまった。
「いいんだよ。気を遣ってもらわなくても。結婚生活が長くは続かなかったのは、本当のことだからね。あれは、仕方がなかったんだ……」
そう話した義郎さんの顔が曇ったように見えたので、僕はなんだかいたたまれない気持ちになってしまって、それ以上訊けなかった。
「あっ、すっ、すみません。なんだか、余計なことを聞いてしまって……」
「いいんだよ。もう済んだことだから。さぁ、事務所に戻ってコーヒーでも飲もうか」
僕は、俯きながら、義郎さんの後を追った。




