↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
95/182

白朱の対 2

 用意された席を前にして、瑶月は困惑していた。


 自分は確かに劉晟に連れられて、この宴へ来ている。


 けれど――


 血縁でもない年頃の男女が、同じ卓に着くというのはどうなのだろう。


 それに、自分は庶民だ。


 今いるこの段に上がること自体、身分を弁えない失敬な行為なのではないか。


 瑶月は周囲を見渡した。


 自分よりも身分の高い者たちが、当然のように席についている。


 やはり、自分がここにいるのはおかしい。


 そう思った瑶月は、静かに段を降りようとした。


「月ちゃん、どこに行くの〜?」


 承琰の声が飛んでくる。


 瑶月が振り返る。


「承琰殿下……」


 少し戸惑いながら、瑶月は頭を下げた。


「こちらの席は、私には身に余るものです」


 そして、一番下の段へ視線を向ける。


 そこには、朔国王太子・蕭昭衡――長淵と、明珠姫の姿があった。


「私は、別の席へ参りますわ」


 そう言って、瑶月が段を降りようとした――


 その時だった。


「皇后陛下のお成りです!」


 大殿の入口から声が響く。


 ざわめいていた大殿が、一瞬で静まった。


 人々が一斉に立ち上がり、頭を下げる。


 やがて、景国皇后・李令蓉が大殿へ入ってきた。


 令蓉は静かに歩を進める。


 まず、段下に並ぶ貴族たちへ視線を向けた。


 そして――


 ゆっくりと、その視線を上段へ移す。


 その先にいた瑶月を、まっすぐ見つめた。


「……」


 瑶月は思わず息を呑む。


 令蓉は、しばらく瑶月を見つめていた。


 やがて、静かに口を開く。


「瑶月よ」


「……はい」


「其方は、私と共に座るとよい」


「……!」


 瑶月の目が大きく見開かれた。


 あまりにも予想していなかった言葉だった。


 返事をすることさえ忘れ、ただ令蓉を見つめる。


 大殿中の視線が、瑶月へ集まっていた。


 その中には驚きもあれば、困惑もある。


 そして――


 面白そうに目を細める承琰。


 何も言わず、瑶月を見つめる劉晟。


 さらに、段下から静かにこちらを見上げる長淵の姿もあった。


 瑶月はただ、目の前の皇后を見つめていた。


 なぜ。


 どうして、自分を――


 あまりにも突然のことに、瑶月は戸惑いを隠せず、その場に立ち尽くしていた。


 そんな瑶月のもとへ、令蓉がゆっくりと歩み寄る。


 そして――


 そっと瑶月の手を取った。


「……皇后様?」


 令蓉は何も言わず、そのまま瑶月を自らの隣へ導いていく。


 瑶月は戸惑いながらも、その手に引かれるまま席へ腰を下ろした。


 隣に座った令蓉へ、瑶月は深く頭を下げる。


「皇后様……身に余る光栄です」


 それでも――


「ですが……私は庶民なので」


 瑶月がそう告げると、令蓉は正面を見つめたまま、静かに尋ねた。


「其方は――」


 一拍。


「皇族や庶民など、身分によって救うべき命を分けているのですか?」


「……」


 瑶月は目を見開いた。


 そして、すぐに首を横に振る。


「いいえ」


 迷いのない声だった。


「命に、貴賤はございません」


 令蓉は、しばらく何も言わなかった。


 ただ、正面を見つめている。


 やがて――


「なら、よいではないですか」


 淡々とした声が響いた。


「ただの席です」


「……」


 瑶月は令蓉の横顔を見つめた。


 その表情からは、何を考えているのか読み取れない。


 けれど、その言葉だけは不思議なほど胸に残った。


 身分ではなく。


 皇族でも庶民でもなく。


 ただ、一人の人間として。


 瑶月は初めて、令蓉という女性を少しだけ垣間見た気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。