白朱の対 1
宴当日。
瑶月は、鏡の前に座っていた。
身に纏っているのは、光沢のある上質な白地に、鮮やかな朱色の刺繍が施された華美な衣。
普段よりもずっと華やかな装いだった。
耳元では真珠が揺れ、髪には精緻な装飾が飾られている。
その中には――
いつも身につけている歩揺もあった。
額には細やかな額飾り。
化粧も普段より少しだけ鮮やかに施されている。
鏡の中に映る自分を見つめながら、瑶月はわずかに不安そうな顔をした。
「……似合うかな?」
後ろに控えていた小雪へ尋ねる。
「お似合いですよ!」
小雪は間髪入れずに答えた。
「宴では、きっと一番お美しいですよ!」
あまりにも必死な様子に、瑶月は思わず小さく笑った。
「ふふ……ありがとう」
瑶月はもう一度、鏡の中の自分を見る。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
部屋を出て、屋敷の門へ向かう。
すると――
門前には、すでに劉晟が立っていた。
深い真紅の衣。
そこへ施された黒の刺繍。
いつもの黒衣とは違う装いだったが、その姿はよく似合っている。
瑶月は思わず足を止めた。
――綺麗。
そう思いながら、しばらく劉晟を見つめてしまう。
その時。
劉晟が振り返った。
そして――
瑶月の姿を見た。
「……!」
ほんの僅かに、瞳が揺れる。
言葉が出なかった。
白と朱。
耳元で揺れる真珠。
髪を彩る装飾。
月明かりの下で見る姿とは、また違う。
それでも。
劉晟の胸に、ただ一つの言葉が浮かんだ。
――美しい。
自分でも驚くほど、自然にそう思った。
けれど、それを口にすることはなかった。
瑶月は何も知らず、ゆっくりと劉晟のもとへ歩み寄る。
「お待たせしました」
その声に、劉晟は我に返った。
「……いや。待っていない」
短く答える。
そして、いつもと変わらない顔を作ると、瑶月を馬車へと案内した。
瑶月はその背中を追いながら、ふと振り返る。
――今日は、どんな宴になるのだろう。
胸の奥に小さな緊張を抱えながら、瑶月は馬車へ乗り込んだ。
煌びやかな大殿へ、瑶月と劉晟がゆっくりと足を踏み入れた。
先ほどまで賑やかだった大殿が――
一瞬にして、静寂に包まれる。
誰もが、二人へ視線を向けていた。
深い真紅の衣に身を包んだ劉晟。
その姿には、皇族特有の重厚な雰囲気が漂っている。
普段は後頭部で束ねている黒髪も、今日は下ろされていた。
艶のある黒髪が肩へ流れ、その美しさをいっそう際立たせている。
長年、戦場に立ち続けているとは思えないほど、整った顔立ち。
鋭さを宿した瞳。
端正な輪郭。
その姿は、誰もが息を呑むほど美しかった。
そして――
その隣には、純白の衣に身を包んだ少女がいた。
衣に負けないほど白い肌。
そこへ薄く紅を差した頬。
伏せられた瞳。
まだ幼さの残る顔立ちには、不思議な妖艶さも滲んでいる。
何より――
隣にいる美男子に、少しも引けを取らない美しさと気品があった。
春の宴に招かれた景都の令嬢たちでさえ、普段なら抱くはずの羨望や僻みを忘れてしまうほどに。
二人は、まるで白と朱。
異なる色を纏いながら、並んだ姿は不思議なほど調和していた。
瑶月は、劉晟の少し後ろを歩いていく。
大殿の奥には、皇族と各国の来賓のために設けられた台があった。
三段に分かれたその席は、身分に応じて明確に分けられている。
一番上。
中央には、景国皇帝・劉安と皇后・李令蓉の席。
その一段下には、北玄国皇帝・慕容九思の席が用意されている。
その隣には、景国皇太子・承琰。
そして劉晟の席が並んでいた。
さらに一段下。
そこには、朔国王太子・蕭昭衡――長淵の席。
その隣には、今回の訪問に同行した明珠姫の席が用意されている。
すでに多くの者が席についていた。
けれど――
景国皇帝・劉安。
皇后・李令蓉。
そして北玄国皇帝・慕容九思。
三人の席だけが、まだ空いていた。




