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古都の春

春が咲き誇る、まさにその頃。


 一行はついに、景国の都――景都へと辿り着いた。


 馬車の窓から、瑶月は流れていく城下の景色を眺めていた。


 東州とは、まるで違う。


 通りには大勢の人が行き交い、商人たちの威勢のよい声が響いている。


 古い建物が立ち並ぶ一方で、新しく建てられた店や屋敷も多い。


 長い年月を経て、この街そのものが少しずつ姿を変えてきたのだろう。


 それでも――


 街の至るところに、景国の歴史が刻まれているような趣があった。


 古い石畳。


 歴史を感じさせる門。


 何代もの時を越えて残されてきた建物。


 人々の暮らしの中に、長い年月が静かに息づいている。


 景都。


 瑶月がこれまで訪れたどの城下よりも賑やかで――


 そして、情緒に満ちた街だった。


 瑶月は窓の外を眺めながら、知らず知らずのうちに目を輝かせていた。


「……素敵な街ね」


 ぽつりと呟く。


 向かいに座る劉晟は、瑶月の視線を追うように窓の外へ目を向けた。


「そうだな」


 短い返事だった。


 景都は、劉晟にとって特別な場所ではない。


 幼い頃から戦場を渡り歩いてきた彼にとって、都へ戻ることは「帰る」というより――


 皇族として、自分の役目を果たすために戻ることだった。


 けれど、瑶月はそんなことを知る由もない。


 ただ目の前に広がる古都の景色に心を奪われていた。


 馬車はゆっくりと城下を進み、やがて大きな門の前で止まった。


 門の上には、重厚な扁額が掲げられている。


 そこには、金の文字で――


 「晟王府」


 と記されていた。


 瑶月は、その二文字を見上げた。


 そして門がゆっくりと開き、その先へ足を踏み入れた瞬間――


 思わず息を呑んだ。


 そこには、これまで見たことのないほど格式高い庭園が広がっていた。


 整然と配置された庭石。


 静かに水を湛える池。


 春の花々が咲き誇る中、幾重にも続く優雅な回廊が庭園を囲んでいる。


 その奥には、幾つもの美しい建物が並んでいた。


 屋根を覆う瓦は、すべて深い藍色に統一されている。


 陽の光を受けるたび、藍色の瓦が静かな光を返していた。


 華美ではない。


 けれど、一目見ただけで分かる。


 この場所には、決して他の者には真似できない格式がある。


 庭園も。


 回廊も。


 建物も。


 そのすべてが――


 そこに住む者の身分を、何より雄弁に物語っていた。


 瑶月は、しばらく言葉を失った。


 そして、隣にいる劉晟へ視線を向ける。


 これまで何度も共に歩き、食事をし、笑い合った男。


 けれど今、目の前に広がる晟王府を見ていると――


 改めて思い知らされる。


 劉晟は、ただの将軍ではない。


 景国皇族。


 そして――


 一つの王府を与えられるほどの身分を持つ男なのだと。

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