月下の秘密
瑶月の部屋を後にした劉晟は、自分の部屋へ戻りすぐに、小雪、朱雀、玄武を呼び寄せた。
部屋の中では、蝋燭の灯火が静かに揺れている。
しばらく誰も口を開かなかった。
やがて、劉晟が小雪へ視線を向ける。
「……朱雀と玄武も知っているのか」
小雪は、伏せていた目をゆっくりと上げた。
「はい」
その一言で、朱雀と玄武は何のことを問われているのかを察した。
劉晟は、しばらく黙っていた。
そして静かに一言。
「説明してくれ」
小雪は一度だけ息を整えた。
「お嬢様の髪と瞳は、生まれつきです」
一拍置く。
「月光を浴びると、輝きを帯びます」
「……」
「特に満月の夜は、一層その輝きが増すのです」
劉晟は何も言わなかった。
先ほど見た瑶月の姿が、脳裏に浮かぶ。
満月の光を浴びていた髪。
そして、どこか不思議な光を宿していた瞳。
あれは、見間違いではなかった。
小雪は続けた。
「沈家でも、ご家族以外には……一部の使用人にしか知らされていませんでした」
「なぜ、そこまで隠していた?」
劉晟の問いに、小雪はわずかに目を伏せる。
「……理由までは、私も詳しくは知りません」
そう答えてから、静かに続けた。
「ただ、お嬢様自身……何もご存じありません」
「……瑶月が?」
「はい」
劉晟の眉が、わずかに動く。
「ご自身の髪や瞳が、月光を浴びると変わることも」
「……」
「なぜそうなるのかも」
小雪は静かに首を横へ振った。
「何も、ご存じありません」
蝋燭の火が、ふっと揺れた。
劉晟は黙ったまま、その炎を見つめる。
瑶月は知らない。
自分自身の秘密を。
そして――
その秘密を、沈家は知っていた。
父も。
母も。
三人の兄たちも。
家族が揃って、瑶月本人にさえ知られないよう隠していた。
――なぜだ?
いったい、沈家は何を隠しているのか。
劉晟の胸の奥に、新たな疑念が静かに芽生えた。
劉晟は、しばらく黙っていた。
やがて、朱雀と玄武へ視線を向ける。
「お前たちは、滄瀾らから何か聞いているか?」
朱雀は少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ。何も聞いていません」
一拍置いて、続ける。
「ただ……沈家の三兄弟とお嬢は、母親が違うと聞いています」
「……」
「それ以上のことは、知りません」
劉晟は静かに聞いていた。
腹違いの兄妹。
貴族の家であれば、さほど珍しいことでもない。
それだけなら、特に気に留めることでもなかった。
けれど――
脳裏に、先ほどの瑶月の姿が浮かぶ。
満月の光を浴び淡く輝く髪。
不思議な光を宿した瞳。
そして、それを何も知らないまま見つめていた瑶月。
「……」
劉晟は、長い沈黙の中で考え続けた。
沈家は、なぜ隠していたのか。
なぜ、瑶月本人にさえ知らせなかったのか。
そして――
沈家は一体何を隠しているんだ。
まだ何一つ、確かなことは分からない。
だからこそ。
劉晟は重い口を開いた。
「確実なことが分かるまでは――」
一呼吸置く。
「瑶月には、伝えないでおく」
「承知しました」
小雪と朱雀玄武が静かに頭を下げる。
劉晟は窓の外へ目を向けた。
いつの間にか、夜の闇は薄れ始めている。
東の空が、わずかに白み始めていた。
長い夜が、終わろうとしている。




