春風入庭 2
夕暮れ。
東州の城下は、色とりどりの灯籠で彩られていた。
通りには灯籠を手にした民が溢れ、いつも以上の賑わいを見せている。
子供たちの笑い声。
家族の楽しげな話し声。
露店から漂う香ばしい匂い。
そのどこを見ても、人々の顔には笑みが浮かんでいた。
瑶月と劉晟もまた、並んでその祭りを歩いていた。
瑶月の手には、一つの灯籠がある。
淡い光が灯籠の紙を通り抜け、その光が瑶月の横顔を柔らかく照らしていた。
劉晟は、そんな瑶月を静かに見つめていた。
瑶月は通りを眺めながら、楽しそうに祭りの様子を見ている。
やがて――
「灯籠を流すための船を用意してある」
「船?」
「ああ。こっちだ」
劉晟に案内され、瑶月は川辺へ向かった。
そこには、小さな船が一艘用意されていた。
瑶月は船へ乗り込もうとする。
けれど、揺れる船に足を取られそうになった。
「気をつけろ」
劉晟が船の上から手を差し出す。
瑶月はその手を取り、支えられながら船へ乗り込んだ。
「ありがとう」
「ああ」
二人が乗り込むと、船はゆっくりと岸を離れていく。
水面が静かに揺れ、城下の灯籠の光が川へ細長く映り込んでいた。
しばらく、二人は何も言わなかった。
やがて劉晟が、静かに口を開く。
「この祭りは――沈家への弔いのために始まったんだ」
「……え?」
瑶月の瞳が揺れる。
劉晟は川面を見つめながら続けた。
「四年経った今でも、民はこの街を守った沈家を忘れていない」
瑶月は何も言えなかった。
手の中の灯籠を見つめる。
そこに映る小さな炎が、かすかに揺れていた。
父。
母。
滄岳。
滄瀾。
滄海。
胸の奥に、家族の姿が浮かぶ。
瑶月は静かに灯籠を水面へ下ろした。
そっと手を離す。
灯籠はゆっくりと流れに乗り、川の向こうへ進んでいく。
その頬を、一筋の涙が伝った。
瑶月は拭わなかった。
川面には、無数の灯籠が浮かんでいる。
一つ。
また一つ。
小さな光が寄り添うように流れていく。
かつて――
この川で、家族と船遊びをした。
父の笑い声。
兄たちの声。
母の穏やかな笑顔。
あの頃は、この時間が永遠に続くと思っていた。
けれど今。
同じ川の上で、瑶月の隣にいるのは劉晟だった。
瑶月は何も言わず、流れていく灯籠を見つめる。
劉晟もまた、隣で静かにその光を見つめていた。
無数の灯籠が、夜の川を照らしている。
それはまるで――
四年前に失われた人々の魂が、今もこの街を見守っているかのようだった。




