遠き日の思い出 2
劉晟と沈家の出会いは、戦場だった。
両軍とも、平陽と東州の民を襲っていた山賊を追っていた時だった。
当時の劉晟は、まだ十二歳。
それでも景国の軍を率い、戦場に立っていた。
一方、沈軍には沈皓然を筆頭に、長兄・滄岳、そして十二歳になったばかりの滄瀾がいた。
幾度も同じ戦場で顔を合わせるうちに、いつしか両軍の間には交流が生まれていった。
特に皓然は、幼い劉晟がたった一人で軍を率いている姿を、どこか不憫に思っていたのだろう。
「今日も飯を食っていけ」
戦が終わるたび、皓然はそう言って劉晟を沈軍の軍営へ呼んだ。
最初は戸惑っていた。
他国の将が、自分を食事に誘う。
そんなことは初めてだった。
けれど、断る理由もなく。
気づけば劉晟は、沈家の食卓に座るようになっていた。
皓然が豪快に笑い。
滄岳が兄らしく弟を叱り。
滄瀾が飄々とした笑顔でくだらない話をする。
そんな食卓だった。
劉晟にとって――
それは初めてだった。
誰かと囲む、温かな食卓。
自分のために料理を取り分けてくれる人。
戦場の話ではなく、どうでもいい話をしながら笑う時間。
それまでの劉晟の世界には、そんなものはなかった。
冷え切っていた心に。
ほんの少しずつ。
小さな灯火がともっていった。
それが家族と呼べるものだと、当時の劉晟はまだ知らなかった。
ただ――
沈家の食卓にいる時だけは。
自分も、ひとりではない。
そう思えた。
ある日のことだった。
国境付近の村が、少数の山賊に占拠されたとの報せが入った。
その頃、東州は長雨による災害が続き沈軍の兵士たちの多くは、各地の救援や復旧に駆り出されている。
沈皓然と滄岳も、災害対応のため軍営を離れていた。
村を占拠している山賊の数は、それほど多くない。
そこで、残った兵を率いて劉晟と滄瀾が討伐へ向かうことになった。
合流した劉晟は、滄瀾の後ろに妙な影がいることに気づいた。
「……」
小さな少年だった。
まだ十歳になったばかりの滄海が、何食わぬ顔で立っている。
劉晟は思わずため息をついた。
「沈家は十二歳から戦場に上がるという話ではなかったのか?」
滄瀾は悪びれる様子もなく笑う。
「四捨五入すれば十二みたいなものですよ」
「ならんだろう」
「細かいですねぇ」
滄瀾は笑いながら、滄海の頭を軽く撫でた。
「大丈夫ですよ。こいつ、私より器用ですから。」
滄海は何も言わず、腰に下げた武器を確認している。
劉晟はもう一度ため息をついた。
――沈家というのは、どうしてこうなのだ。
やがて一行は、山賊に占拠された村へ辿り着いた。
遠くから村を観察すると、山賊たちは村人を一ヶ所へ集め、監視下に置いていた。
「正面から叩くのは危険だな」
劉晟が呟く。
「追い詰められれば、村人を殺す可能性がある」
滄瀾が頷いた。
「じゃあ、分かれましょうか」
作戦はすぐに決まった。
劉晟が少数の兵を率いて村へ潜入し、村人を救出する。
その間に、滄瀾と滄海が残りの兵を率いて正面から山賊を引きつける。
――作戦開始。
劉晟たちは人目を避けながら村へ入り込んだ。
物陰を伝い、村人たちへ近づく。
「静かに。助けに来た」
村人たちを少しずつ移動させる。
だが、その途中だった。
「誰だ!」
山賊の一人が、劉晟たちの姿に気づいた。
「敵だ!」
一気に周囲が騒がしくなる。
劉晟たちは村人を庇いながら応戦した。
だが、敵の数が次々と増えていく。
包囲された。
村人を連れている以上、無理に突破することもできない。
その時――
「そこをどけ!」
遠くから声が響いた。
次の瞬間、山賊の一人が吹き飛ばされた。
「劉晟!」
滄瀾だった。
その隣では、十歳の滄海が必死に武器を振るっている。
「滄瀾、右!」
「分かってる!」
二人が外側から山賊を押し崩していく。
やがて、包囲に大きな隙が生まれた。
「今だ!」
劉晟は村人たちを連れて、その突破口へ駆け抜ける。
そのまま三人は互いに背を預けるようにして戦い、最後まで残っていた山賊を制圧した。
村を取り戻した。
戦が終わった頃には、空はすっかり暗くなっていた。
村人たちが次々と家へ戻っていく。
その中で。
劉晟は、村の片隅に身を寄せ合う四人の子供たちを見つけた。
迎えに来る者はいない。
両親を失った孤児たちだった。
四人とも、ひどく怯えている。
劉晟が近づくと、一番端にいた子供が身を縮めた。
その姿を見た滄瀾が、しゃがみ込む。
「怖かったですね」
優しく声をかける。
すると、子供たちは恐る恐る顔を上げた。
滄海もその隣にしゃがむ。
「もう大丈夫だ」
短い言葉だった。
けれど、その声には不思議な安心感があった。
劉晟は、そんな二人を見つめた。
この四人の孤児が――
後の青龍、白虎、朱雀、玄武であった。




