停戦の使者 1
東州城下の外に、長淵たちの一行がいた。
これから敵国の将軍――劉滄燼へ、停戦条件を記した書簡を届ける。
そして。
瑶月も、おそらく彼と共にいる。
東州へ入れば、朔国へ無事に戻れる保証はない。
それでも――
瑶月を連れ戻すためには、行くしかなかった。
長淵は静かに息を吐き、覚悟を決める。
「行くぞ」
馬を前へ進めた。
城門を抜けた瞬間。
長淵の目に、意外な光景が飛び込んできた。
東州は――
栄えていた。
四年前に屠城があったとは思えないほど、街には活気がある。
民たちは笑い、子供たちは通りを自由に駆け回っている。
店先には商品が並び、あちこちから人々の声が聞こえてくる。
長淵は、わずかに目を細めた。
もっと寂れた街を想像していた。
戦で傷ついた土地。
民が怯え、沈黙する街。
だが、目の前にあるのは――
穏やかな日常だった。
やがて一行は、会合の場へ到着した。
かつて沈家があった場所。
長淵の視線が、屋敷の門へ向く。
そこには今も――
「沈家」
と記された扁額が掲げられていた。
長淵の胸が痛む。
この場所に、瑶月がいる。
そして。
この場所を守り、ここまで蘇らせたのが――
あの劉滄燼なのか。
戦場で見てきた劉滄燼は、冷血で、策に長け、何より圧倒的な武力を持つ男だった。
だが、目の前の東州は、その男の印象とはあまりにも違っていた。
「こちらへ」
使用人に案内され、長淵たちは数日滞在するための部屋へ向かった。
だが、長淵だけは別だった。
屋敷の一角にある執務室へ案内される。
長淵はすぐに察した。
――これから、あの男と対面する。
劉滄燼。
そして――
瑶月を連れ去った男。
執務室へ向かう途中、長淵は何気なく周囲を見回した。
けれど、瑶月の姿はどこにもない。
……そう簡単には会わせてもらえないか。
やがて、執務室の前へ辿り着く。
扉がゆっくりと開かれた。
静かな部屋だった。
その奥に、一人の男が座っている。
目を閉じ、左肘を卓の上に置いていた。
その左手でこめかみを支え、静かに息をしている。
まるで、長淵が入ってきたことなど気にも留めていないようだった。
長淵の足が止まる。
やがて男が、ゆっくりと目を開いた。
鋭い瞳が、真っ直ぐに長淵を捉える。
――劉滄燼。
初めて見るわけではない。
戦場では何度も対峙してきた。
けれど。
こうして向かい合うのは、初めてだった。




