新たな関係 2
ここ二ヶ月ほど、お嬢様は毎晩、劉晟さまのお部屋へ通われています。
小雪は深いため息をついた。
劉晟さまの治療だそうで、毎晩、鍼灸を施しているとのこと
お嬢様には、午前中に治療されてはいかがですかと提言してみたのですが
午前中は劉晟さまも鍛錬や政務でお忙しいようで。
夜の方が都合がいいのだという。
……複雑だった。
正直なところ、お嬢様があの気取った将軍と親しくなられるくらいなら――。
まだ、長淵さまの方が……。
そこまで考えて、小雪は慌てて首を振った。
――いえ。
これ以上は考えないでおこう。
考えれば考えるほど、頭が痛くなりそうだった。
その頃。
瑶月と劉晟は、毎日の治療を続けていた。
朝、昼、そして夜。
決まった時間になると、瑶月は劉晟のもとへ漢方薬を届けに行く。
そして夜には、鍼灸を施す。
治療を始めたばかりの頃、二人の間に会話はほとんどなかった。
「痛む?」
「問題ない」
「本当に?」
「ああ」
必要なことだけを尋ね、必要なことだけを答える。
治療が終われば、瑶月は部屋を出ていく。
ただ、それだけだった。
けれど、二ヶ月も続けば、少しずつ変化が生まれる。
「今日は鍛錬が長かったようね」
「見ていたのか」
「窓から少しだけよ」
「少しだけにしては、よく見ていたな」
「劉晟が目立つからでしょう」
「俺が?」
「ええ。あれだけ大きな矛を振り回していれば、嫌でも目に入るわ」
「……なるほど」
「左腕も、前より動くようになってきたわね」
「ああ。お前の治療のおかげだ」
「素直にお礼を言うなんて、珍しいこともあるのね」
「礼くらい言う」
「そうだったかしら?」
そんなたわいもない会話が、少しずつ増えていった。
いつしか二人は、治療とは関係のない話まで交わすようになった。
城下で見つけた店の話。
食べ物の話。
平陽の季節の話。
そして最近では、時々、二人で城下へ出かけることさえあった。
最初のうちは、小雪や青龍、白虎も一緒だった。
けれど、いつの間にか二人きりで出歩くことも自然になっていた。
瑶月自身も、それを不思議には思わなくなっていた。
冬の到来を知らせるような冷たい風が、平陽の城下を吹き抜ける頃。
「今度、東州へ行く」
劉晟が、ふいにそう告げた。
「東州……?」
その名を聞いた瞬間、瑶月の表情がわずかに強張る。
劉晟は彼女の様子を見ながら、続けた。
「お前も来るか」
「……」
瑶月は少し考えた。
けれど、答えはすぐに決まった。
「あと一ヶ月ほど、毎晩の鍼灸が必要よ」
「そうだな」
「だから、私も行くわ」
当然のことのように言う瑶月に、劉晟の口元がふっと緩んだ。
「それで、どうして今頃、東州へ行くの?」
「朔国との停戦条件が、おおむね決まった」
「停戦……」
「ああ。蕭昭衡が、正式な書類を届けに来る」
「蕭……昭衡」
瑶月はその名を口の中で繰り返した。
そして、何かに気づいたように顔を上げる。
「ああ、長淵さまね!」
瑶月の顔が、ぱっと明るくなった。
「そういえば、昭衡は字名だったわね」
その声には、隠しきれない喜びが滲んでいた。
それを見た劉晟の眉が、ほんの僅かに寄る。
「……ああ」
短い返事だった。
先ほどまでとは違う、わずかな硬さが声に混じっている。
けれど瑶月は、それに気づかなかった。




