間話 あの日の雷雨
四年前。
東州屠城の後。
東州城下へ続く道では、罪人を運ぶ一行を大勢の民が取り囲み、騒ぎを起こしていた。
その混乱に紛れるようにして――
劉晟、青龍、白虎の三人は東州城下へ入った。
城門を抜けた瞬間。
劉晟の目に、凄惨な光景が飛び込んできた。
道のあちらこちらが、赤黒く染まっている。
乾ききっていない血。
まだ鼻につく、生々しい血の匂い。
滄海。
滄瀾。
滄岳。
そして――
皓然殿。
脳裏に、彼らと過ごした日々が浮かんでは消えていく。
けれど。
目の前に広がる光景は、そんな記憶を踏みにじるようなものだった。
沈家へ向かう道のりは、まるで地獄だった。
麻布に包まれた遺体が、道端に積み上げられている。
崩れ落ちた建物。
焼け焦げた木材。
誰もいない店。
風が吹くたび、どこからともなく血の匂いが漂ってくる。
青龍も、白虎も何も言わなかった。
言葉にできるような光景ではなかった。
やがて――
沈家が見えてきた。
劉晟の足が止まる。
大門には、いくつもの血痕が残っていた。
門は無造作に開け放たれている。
誰かが逃げた形跡もない。
誰かが迎えに出てくる気配もない。
静まり返った屋敷。
それだけで分かった。
ここには――
生き残った者はいない。
劉晟は何も言わず、屋敷の中へ入った。
大広間。
そこには、四つの遺体が並べられていた。
白い布が、静かに身体を覆っている。
劉晟の足が止まった。
「……」
しばらく、動かなかった。
やがて。
一歩。
また一歩。
ゆっくりと遺体へ近づいていく。
脳裏に浮かぶのは、死体ではない。
生きていた頃の彼らだった。
眠そうな顔で、いつも気怠げにしていた滄海。
飄々とした笑みを浮かべ、冗談ばかり口にしていた滄瀾。
何事にも真っ直ぐで、熱すぎるほど熱い言葉を口にしていた滄岳。
そして――
誰よりも優しく、皆を包み込むように笑っていた皓然。
劉晟は、白い布の前にゆっくりとしゃがみ込んだ。
震える手を伸ばす。
一枚目。
白い布をめくる。
そして――
二枚目。
さらに、めくる。
顔を確認するたびに。
胸の奥が、締めつけられていく。
もう、声は出なかった。
怒りなのか。
悲しみなのか。
悔しさなのか。
自分でも分からない。
ただ。
目の前にある現実だけは、変わらなかった。
沈家は、もうない。
かつて共に笑った者たちは、もういない。
劉晟はゆっくりと立ち上がった。
そして、誰に向けるでもなく。
「……許さん」
低く、呟いた。
そのまま大広間を出る。
外へ出た瞬間――
急に降ってきた雷雨が、劉晟の身体を打ちつけた。
劉晟は空を仰いだ。
雨を避けようともせず、そのまま立ち尽くす。
冷たい雨が、髪を濡らす。
頬を伝う雫。
それが雨なのか、それ以外のものなのか。
青龍も白虎も、何も言わなかった。
やがて劉晟は、ゆっくりと視線を戻した。
その時だった。
少し先の地面に――
一つの簪が落ちていることに気づいた。
泥にまみれ、雨に濡れている。
劉晟は、無言のままそれを見つめた。




