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死体拾いの軍医

十六歳になった瑶月は、変わらず戦場にいた。


 正確には――


 戦が終わった後の戦場に。


 今日もまた、荒れ果てた大地を歩いている。


 折れた旗。


 砕けた武器。


 血に染まった土。


 そして、無数の兵士たち。


 その中から、まだ息のある者を探す。


「こちらに一人!」


「担架を!」


「傷口を押さえて!」


 瑶月の声が、静まり返った戦場に響く。


 死んだと思われていた兵士の中から、かすかな呼吸を見つけることもある。


 その命を拾い上げ、軍営へ運ぶ。


 いつしか兵士たちは、瑶月のことをこう呼ぶようになっていた。


 ――死体拾いの軍医。


 少々、物騒な呼び名だった。


 けれど。


 瑶月に拾われた兵士たちにとっては、きっと違う。


 絶望しかない戦場で、自分を見つけてくれる存在。


 死の淵から引き上げてくれる存在。


 まるで――




 そう呼ばれることが、瑶月にはどこか皮肉に思えた。


 自分自身が、かつて救いを求めていた側だったから。


 それでも。


 目の前に助けられる命があるのなら。


 瑶月は今日も、その手を伸ばす。


 そして。


 小雪もまた、少しずつ変わっていた。


 軍営で長く過ごすうちに、武芸の腕は目に見えて上達している。


 以前なら到底敵わなかった兵士にも、今では食らいついていけるほどになった。


 そんな小雪の姿を見ていると、瑶月は時々思う。


 ――いつか。


 小雪に似合う剣を贈りたい。


 小雪が自分の身を守れるような。


 そして、いつかこの軍営を離れる時が来ても、その剣だけは持っていてほしい。


 そんなことを考えながら。


 その日の仕事を終えた瑶月は、自分の天幕へ戻ってきた。


「今日も疲れた〜……」


 天幕の幕を上げる。


 そして――


「……あれ?」


 中に、一人の男がいた。


「お疲れさま」


「……長淵さま?」


 そこにいたのは、蕭長淵だった。


 長淵は手にしていた茶を、瑶月へ差し出す。


「これを」


「ありがとうございます」


 瑶月は何の疑いもなく受け取った。


 その横で、小雪は密かに思う。


 ――お茶をお渡しするのは、私の役目なのですが。


 けれど、そんなことを口にするわけにもいかない。


 瑶月は茶器を手にしたまま、長淵を見る。


「何か御用ですか?」


「ああ」


 長淵は頷いた。


「以前、瑶月が提案したことを正式に採用しようと思ってな」


「……以前?」


 瑶月が首を傾げる。


「軍医の治療方法についてだ」


 数日前。


 瑶月は長淵に、一つの提案をしていた。


 これまで軍営では、医療天幕へ運ばれてきた負傷兵を、基本的には運ばれた順番に処置していた。


 だが、それでは問題がある。


 軽傷の兵士が先に運ばれ、重傷者が後回しになってしまうことがある。


 ほんの少し処置が遅れただけで、救える命が失われることもある。


 だから瑶月は考えた。


 傷の重さ。


 緊急性。


 生存の可能性。


 それらを基準に、負傷兵を三段階に分ける。


 そして――


 優先度の高い兵士から処置する。


 そうすれば、限られた医薬品と人員でも、救える命を増やせるのではないか。


 それが瑶月の提案だった。


「これを軍の正式な治療方法として採用する」


 長淵が言った。


 瑶月の瞳が、ぱっと輝いた。


「……本当ですか?」


「ああ」


「ありがとうございます!」


 瑶月は嬉しそうに笑った。


「これなら、もっと助けられる命が増えます」


 長淵は、そんな瑶月を見つめた。


「ああ」


 そして、ほんの少しだけ口元を緩める。


「そうだな」


 瑶月が戦場で拾い続けてきた命。


 その一つ一つが、少しずつ軍の形を変えていた。


 かつて家族を失い、生きる理由すら失っていた少女は――


 今、自分の手で誰かの明日を作ろうとしていた。

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