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雲に隠る

夜も更け、宴が終盤に差し掛かった頃。


 瑶月は席を立ち、広間を出た。


 部屋を出る際、劉晟から声をかけられていた。


「着いて行こうか?」


「大丈夫よ。少し外の空気を吸いたいだけだから」


 そう答えて、瑶月は一人で広間を後にした。


 確かに、今日は暗殺者が現れた。


 けれど――


 すでに失敗している。


 それに、騒ぎが起きたことで屋敷の警備も以前より厳重になっている。


 今、この状況で再び狙ってくるとは思えなかった。


 瑶月はそう考えていた。


 回廊をゆっくりと歩く。


 夜風が頬を撫でる。


 月光に照らされた庭は、昼間とはまるで違う静けさに包まれていた。


「……綺麗」


 瑶月は足を止め、庭を眺める。


 その時だった。


「……?」


 ふと、庭先の壁に何かが見えた。


 月明かりを受けて、きらりと光っている。


「……何かしら」


 瑶月は気になり、壁へ近づいていく。


 それは、金属のようだった。


 月光を反射して、僅かに輝いている。


 瑶月がもう一歩、近づいた。


「瑶月様?」


「……!」


 背後から、声がした。


 聞き覚えのある声だった。


 瑶月が振り返る。


 ――その瞬間。


 後頭部へ、鋭い衝撃が走った。


「……っ」


 視界が大きく揺れる。


 身体から力が抜けていく。


 何が起きたのか理解する間もなく――


 瑶月の意識は、暗闇へと落ちていった。



その頃――


 広間では、まだ宴が続いていた。


 けれど、劉晟は先ほどから何度も入口へ目を向けていた。


「……」


 瑶月が広間を出てから、しばらく経っている。


 少し外の空気を吸うだけだと言っていた。


 それなら、もう戻ってきてもおかしくない。


 劉晟は静かに立ち上がった。


 そして、近くにいた小雪へ声をかける。


「小雪」


「はい」


「瑶月を探してくれ」


「……承知しました」


 小雪はすぐに広間を出ていった。


 それから――


 しばらくして。


「……!」


 広間の扉が勢いよく開いた。


 小雪が、息を切らしながら駆け込んでくる。


「お、お嬢様が……!」


 その声には、明らかな焦りが滲んでいた。


「お嬢様が、見当たりません……!」


 広間の空気が、一瞬で変わった。


 劉晟の表情から、血の気が引いていく。


「……何?」


 低い声が響いた。



先ほどまで、琴の音が響いていた。


 舞姫たちが華やかに舞い、笑い声さえ聞こえていた広間。


 けれど今は――


 その空気が、嘘のように冷えていた。


 誰も、口を開かない。


 静まり返った広間に――


 ガシャンッ!


 突然、大きな音が響いた。


 皆が一斉に音の方へ目を向ける。


 そこには、立ち上がった慕容がいた。


 その足元には――


 先ほどまで手にしていた酒盃が、無残に砕け散っている。


「……」


 劉晟は、目を細めた。


 慕容が、ここまで感情を露わにする姿を見るのは初めてだった。


 次の瞬間。


 その場にいた北玄の者たちが、一斉に跪いた。


 誰もが、頭を深く下げる。


 慕容はゆっくりと周囲を見渡した。


「……陳家の警備が、ここまで杜撰なのですか?」


 穏やかだった声は、どこにもなかった。


 低く、冷たい。


 そして――


 明らかな殺気が滲んでいた。


 誰一人として、顔を上げられない。


 その時。


 広間の扉が開いた。


 玄武が、急いで中へ入ってくる。


 そのまま劉晟の元へ近づき、声を潜めた。


「……外の庭に、これが」


 そう言って、玄武が手を差し出す。


 劉晟は、それを見た。


「……」


 小さな真珠。


 瑶月の髪飾りについていたものだった。


 そして――


 その白い真珠には、僅かな赤い痕が付着していた。


 血だった。


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