狙われた客人 2
騒ぎを聞きつけた使用人たちが、次々と瑶月の部屋へ集まってきた。
何が起きたのか分からない者たちも多く、廊下は瞬く間に人で溢れていく。
そこへ――
「瑶月……!」
焦りを隠しきれない声が響いた。
劉晟だった。
知らせを聞いた瞬間、部屋へ駆けつけてきたのだ。
使用人たちは慌てて道を開ける。
その奥から――
「劉晟、私は平気よ」
瑶月が姿を現した。
「……!」
劉晟は瑶月の姿を目にすると、すぐに彼女の元へ歩み寄った。
頭の先から足元まで、怪我がないか確かめるように視線を走らせる。
「本当か?」
「ええ」
瑶月は小さく頷いた。
「小雪が守ってくれたから」
その言葉を聞いて、劉晟はようやく僅かに息を吐いた。
だが、その表情から緊張が消えることはなかった。
「何があった?」
「黒ずくめの男が突然、襲ってきたの」
瑶月が答える。
「小雪と剣を交えたあと、逃げていったわ」
「……逃げた?」
劉晟の目が鋭くなる。
「ああ」
小雪が頷いた。
「屋根へ上がり、そのまま逃走しました」
劉晟は何も言わず、窓の外へ目を向けた。
そこへ――
「瑶月!」
新たな足音が響いた。
趙侯拓を先頭に、陳飛や屋敷の者たちが駆けつけてくる。
「何があったのですか!?」
陳飛は瑶月の姿を見るなり、顔を強張らせた。
「まさか……我が屋敷で、このようなことが……」
言葉が続かない。
自分の屋敷で、客人が襲われた。
しかも、暗殺を疑われてもおかしくない状況だ。
「私じゃない……」
陳飛が、震える声で呟いた。
「私は、何も知りません……!」
その言葉に――
隣にいた趙侯拓が、冷たい視線を向ける。
「……陳飛」
「は、はい……」
「それを――」
趙侯拓は、陳飛から視線を逸らさない。
「陛下の前でも、同じように言え」
「……!」
陳飛の顔から、一気に血の気が引いた。
部屋の空気が、凍りつく。
そして――
誰も、口を開かなかった。
広間には、すでに慕容が座っていた。
瑶月が広間へ入ると、すぐに頭を下げる。
「陛下、ご心配をおかけしました」
「よい。怪我はないですか?」
「ええ。大丈夫です」
瑶月が答えると、慕容は小さく頷いた。
その横では、香佳が不安そうに眉を寄せている。
「……一体、誰がこんなことを……」
声には心配だけではなく、僅かな苛立ちも滲んでいた。
そこへ――
「遅くなりまして、申し訳ありません」
居菲が姿を現した。
急いで駆けつけてきたのか、額には薄く汗が浮かんでいる。
劉晟は、そんな居菲を一瞥した。
「まさか……屋敷内で、このようなことが起きるなんて……」
居菲が息を整えながら言う。
その後ろから、趙侯拓に連れられた陳飛も広間へ入ってくる。
「陛下……!」
陳飛は慌てて頭を下げる。
「誓って、私ではありません!」
その顔は、すでに青ざめていた。
「私は何も知りません。決して――」
慕容は、そんな陳飛へゆっくりと顔を向けた。
「……」
何も言わない。
ただ、黙って陳飛に顔を向けている。
その沈黙が、かえって重かった。
やがて居菲が、その場で跪いた。
「陛下」
居菲は深く頭を下げる。
「陳家でこのようなことが起きた以上――今夜は、陛下方にはお戻りいただいた方がよろしいかと存じます」
そして、顔を上げる。
「犯人は、必ず捕らえます」
その言葉を聞いても、劉晟は何も答えなかった。
ただ、居菲をじっと見つめている。
居菲もまた、劉晟の視線を感じていた。
けれど、その視線から逃げることはしない。
広間に、重い沈黙が落ちる。
慕容も、まだ何も言わなかった。
やがて――
瑶月が静かに口を開いた。
「……犯人は、すでに失敗しております」
全員の視線が、瑶月へ集まる。
「陛下。私なら大丈夫です」
瑶月は穏やかに続ける。
「ここで去れば――私たちは犯人に恐れをなし、逃げたことになってしまいます」
そして、一度だけ慕容へ視線を向けた。
「それでは、犯人の思うままです」
「……」
慕容は、顔を瑶月に向け
やがて――
「瑶月が、そこまで言うのであれば」
穏やかな声が広間に響く。
「犯人を見つけるまで、陳家から去るわけにはいかないですね」
「……!」
陳飛の顔が強張る。
居菲も僅かに目を見開く
劉晟の目だけが、静かに細められた。




