間話 弔いの花
闇市から戻って、数日が経った。
ここ数日、瑶月は忙しくしていた。
女性たちが監禁されていた場所を訪れ、残された痕跡を調べる。
役場へも足を運び、過去に似たような事件がなかったかを調べていた。
けれど、目新しい手かがりはなかった。
あの一件以来、北河は恐ろしいほど穏やかだった。
川で酔っ払いが足を滑らせ、落水した事故。
それ以外には、死人が出るような事件は一件も起きていない。
まるで――
何事もなかったかのように。
そんなある日のこと。
瑶月は劉晟と共に、茶楼の一角に座っていた。
「はい」
瑶月は慣れた手つきで、劉晟の茶杯へお茶を注ぐ。
「ありがとう」
劉晟は茶杯を受け取った。
瑶月は自分の茶を一口飲むと、窓の外へ目を向ける。
そこには、小さな路地が見えていた。
――雨禾が倒れていた場所。
劉晟が言ったのだ。
『もし、雨禾に知り合いがいるのなら、彼女の最期にいた場所を訪れるかもしれん』
その言葉を聞いて、二人はここで待つことにした。
朝からずっと。
窓の外を、静かに眺めながら。
「……」
瑶月は、再び路地へ目を向ける。
人が一人、通り過ぎる。
荷車を引いた男が、その前を横切る。
けれど――
雨禾を探しているような者は、まだ現れない。
「……来ないわね」
「ああ」
劉晟が短く答える。
それでも二人は、席を立たなかった。
その時だった。
一人の男が、路地の前を通り過ぎようとした。
何気なく歩いているように見える。
けれど――
路地の入口へ差しかかった瞬間。
男は、手にしていた花を落とした。
どこにでも咲いているような、ありふれた花だった。
けれど、それらは明らかに人の手によって束ねられている。
「……!」
瑶月が目を細める。
男は、花を落としたのにも関わらず、何もなかったかのように、そのまま歩いていった。
そして――
路地裏へ姿を消す。
「劉晟」
「ああ」
劉晟はすぐに立ち上がった。
茶楼を出ると、男の後を追う。
けれど――
路地へ入った時には、もう男の姿はなかった。
分かれ道がいくつもある。
人通りも少なくない。
完全に見失った。
やがて劉晟は、路地の入口へ戻ってくる。
瑶月は、そこに残された花を見つめていた。
どこにでもある、ありふれた花。
けれど――
誰かが、雨禾のために束ねたもの。
瑶月は、しばらくその花を静かに見つめていた。




