少女の罪
煌びやかな大殿には、あまりにもそぐわない少女がいた。
衣は泥と血に汚れ、髪は乱れている。
かつて名門沈家の一人娘として、美しい衣を纏っていた面影はほとんど残っていなかった。
やがて、大殿の奥から二人の男が姿を現した。
朔国王、蕭玄江。
そして、その隣には王太子、蕭長淵。
臣下たちが一斉に頭を下げる。
瑶月もまた、深く頭を垂れた。
「表を上げよ」
国王の声が響く。
瑶月はゆっくりと顔を上げた。
「其方は、沈家末娘の瑶月で間違いないか?」
「はい。沈瑶月でございます」
「……此度は、大変だったな」
その声には、僅かな憐れみがあった。
十三歳。
まだ幼い少女に向ける、王としての慈悲だった。
瑶月はその言葉を聞いた瞬間、何かを思い出したように俯いた。
父。
母。
三人の兄。
あの日の東州。
もう、帰る場所はない。
玄江の声が再び響く。
「其方は、東州を守護してきた武家の生まれだ」
先ほどまでの憐れみは、もうなかった。
「此度のことの大きさは、分かっているだろう」
「……はい」
瑶月は俯いたまま答える。
「山賊、そして所属不明の軍勢の侵入を許したこと」
「……」
「さらに、敵兵を殺すために毒を用いた」
玄江の声は淡々としていた。
「いくら保身のためとはいえ、倫理に反する行為だ」
大殿が静まり返る。
「そなたは、死罪に処すこともできる」
瑶月は何も答えなかった。
その横で立つ長淵の視線が、次第に遠くへ向かっていく。
拳が、固く握られている。
けれど、何も言わない。
国王の言葉を遮ることは、王太子である彼にもできなかった。
「だが――」
玄江が言葉を切った。
「そなたは十三という幼い歳で、優れた医術を身につけている」
瑶月の指が、僅かに動いた。
「何より」
玄江は瑶月を真っ直ぐ見た。
「倫理に反する行為を犯したとはいえ、そなたは約二百名の民を、その手で生き延びさせた」
沈黙。
そして玄江は、判決を告げるように言った。
「沈瑶月」
「はい」
「そなたを、本日より庶民とする」
瑶月は顔を上げない。
「そして、優れた医術を有する者として――」
一呼吸。
「王太子直属軍の軍医として働いてもらう」
大殿が静まり返った。
瑶月は、しばらく何も言わなかった。
やがて。
小さな声が落ちた。
「……死ねないの?」
長淵の瞳が揺れる。
玄江は答えた。
「ああ」
「……」
「其方は、死ねない」
瑶月の唇が僅かに震えた。
「その罪を、生きたまま償いなさい」
玄江は静かに続ける。
「これからは――」
一瞬だけ、国王の声が柔らかくなる。
「その手で、人を生かせ」
瑶月は俯いたまま、動かなかった。
生きろと言われた。
けれど。
自分にはもう、生きる理由など残っていない。
そう思っていた。
それでも。
死ぬことさえ許されないのなら。
せめて――
父が。
母が。
兄たちが。
最後まで守ろうとしたものだけは。
守ろう。
瑶月は、ほんの僅かに顔を上げた。




