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累月公主

少し離れたところでは、瑶月が万華や千葉と楽しそうに話をしている。


 劉晟は、そんな瑶月の姿を目を細めて眺めていた。


 おそらく――


 瑶月にとって、同じ年頃の友人に近い存在と呼べるのは、初めてなのだろう。


 楽しそうに笑う瑶月を見ていると、劉晟の表情も自然と和らいでいた。


 すると――


 隣にいた趙凌が、劉晟へ声をかける。


「滄燼さまの矛の型は、独特ですね」


「……そうですか?」


「やはり、実戦を経験されていると違うのですね」


 趙凌はそう言いながら、自分の矛へ目を落とす。


 劉晟は、少し考えてから口を開いた。


「趙凌さまの矛は、まっすぐで素晴らしいものでした」


「……!」


 趙凌が顔を上げる。


「ただ――」


 劉晟は一呼吸置いた。


「あまりにも型通りだと、相手に次の一手を読まれる可能性がありますね」


「なるほど……!」


 趙凌の目が、一気に輝いた。


「そういうことですか!」


 そして――


 突然、劉晟の腕を掴む。


「ぜひ、またご教授願います!」


「……」


 あまりの勢いに、劉晟は一瞬言葉を失った。


「……ああ」


 短く答える。


 その様子を少し離れた場所から見ていた瑶月は、くすりと笑った。


 どうやら――


 武の話になると、二人とも話が尽きないらしい。



趙凌は、劉晟の腕を掴んだまま、次々と質問を投げかけていく。


「では、あの時はどう動くのですか?」


「相手が右から来た場合は――」


「なるほど!」


 劉晟が答えるたびに、趙凌の目が輝いていく。


 どうやら、すっかり話に夢中になっているらしい。


 瑶月はそんな二人の姿を見て、ふふっと笑った。


 そんな穏やかな時間が、しばらく流れていた。


 やがて――


「……」


 庭の向こうから、慕容と趙侯拓が並んで歩いてくる。


 二人の姿に気づいた一同は、すぐに立ち上がった。


 そして、一礼する。


「楽にしてください」


 慕容が笑いながら言う。


 一同が再び腰を下ろす。


 慕容は、楽しそうに二人を眺めた。


「若いって、いいですね〜」


 その言葉に、趙侯拓も笑って頷く。


「まったくですな」


 そんな二人の会話を聞きながら、慕容はふと瑶月へ顔を向けた。


「……瑶月」


「はい?」


「そなたは、もう庶民ではありませんよ」


「……?」


 瑶月が首を傾げる。


 慕容は、穏やかな笑みを浮かべたまま続けた。


「景国皇帝――承琰殿下が、そなたの功績を認めてくださったのです」


「……」


「累月公主、と命名されたのですよ」


「……え?」


 瑶月の目が、大きく見開かれた。


「公主……?」


 思いもよらない言葉だった。


 瑶月は、呆然と慕容を見つめる。


 すると――


 慕容の顔が、ゆっくりと劉晟へ向いた。


「……」


 その口元に、僅かな笑みが浮かぶ。


「大切にされていますね」


「……」


 劉晟は何も答えなかった。


 瑶月は、その言葉の意味が分からないまま、劉晟へ目を向ける。


 劉晟はいつものように、静かな顔をしていた。



瑶月は、まだどこか納得しきれない様子で劉晟を見ていた。


 そんな瑶月の疑問に答えるように、慕容が穏やかに口を開く。


「滄燼殿は、私が瑶月さんを北玄国から帰さないことを恐れたんだと思いますよ」


 そう言った慕容の顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。


「……」


 瑶月は、しばらく黙って考える。


 そして――


「……なるほど」


 ようやく納得した。


 庶民の瑶月であれば、北玄国から連れ出すことは容易ではない。


 けれど――


 景国の公主であれば話は別だ。


 景国の皇帝から正式に認められた公主を、北玄国が理由もなく引き留めることはできない。


 もし何かあったとしても、景国は堂々と彼女を迎えに来ることができる。


 瑶月は、もう一度劉晟へ目を向けた。


「……」


 劉晟は相変わらず、何も言わない。


 瑶月は、そんな彼を見つめながら思った。


 ――抜け目のない男だわ。

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