紅葉の導くもの 2
白綾に隠されているはずの目。
それなのに――
瑶月は、そこから自分へ向けられる視線を感じた。
「……」
瑶月は慕容へ向かって、一礼する。
そして、ふと微笑んだ。
「あの節は助けていただき、誠にありがとうございました」
「おかげさまで、一命を取り留めました」
見えるはずのない慕容の目へ向けて、瑶月は穏やかに微笑む。
「いえいえ。できることをしたまでですよ」
慕容は、いつものように柔らかな声で答えた。
劉晟もまた、瑶月に続いて一礼する。
「我が国の衣は、もう慣れましたか?」
「私はこれで見えませんが……きっと、お似合いでしょう」
そう言って、慕容は自らの白綾を指先で軽くなぞった。
「おかげさまで、寒さを凌いでおります」
「そうか、そうか」
劉晟の答えに、慕容は満足そうに頷いた。
「玉都まで、まだ一日ほどありますが――」
慕容は、道の先へ目を向ける。
「少し先に、大きめの町があります」
「今晩は、そこで休んでください」
「……分かりました」
劉晟は頷いた。
そして、ふと慕容へ視線を向ける。
「慕容陛下が、ここまでお出迎えしてくださるとは思いもしませんでした」
僅かに間を置いてから、続ける。
「歓迎していただき、ありがとうございます」
そう言って、劉晟は慕容を一瞥した。
慕容は、くすりと笑った。
「玉都にいても、暇ですからね〜」
そう言って、何でもないことのように笑う。
瑶月は静かに慕容を見つめていた。
慕容は、自らの馬車へ瑶月と劉晟を案内した。
三人が乗り込むと、馬車はゆっくりと進み始める。
瑶月は、初めて乗る北玄国皇帝の馬車を見渡した。
想像していた以上に、気品に溢れている。
車内は明るい木材で統一され、所々に白亜の装飾が施されていた。
座席には、ふかふかとした獣の毛皮が敷かれている。
瑶月はそっと手を伸ばし、その毛並みに触れた。
真っ白な毛並み。
おそらく、白い狐か何かだろう。
そう思っていると――
「虎ですよ」
「……え?」
慕容が、にっこりと笑った。
瑶月の手が、ぴたりと止まる。
「……虎、ですか?」
「えぇ」
慕容は何でもないことのように頷いた。
瑶月はもう一度、座席に敷かれた毛皮へ目を向ける。
――これが、虎。
驚きを隠せない瑶月をよそに、慕容は穏やかな声で話を続けた。
「今晩、皆さんをご案内するのは、北河という街になります」
「北河……」
「えぇ。そこを治めてもらっている、趙王の屋敷にお世話になろうかと思いまして」
「……趙王」
劉晟が、思わず呟いた。
慕容は、ふと顔を上げる。
「あぁ、そうでしたね」
そして、にこりと笑った。
「我が国は、景国とは少し事情が違うのですよ」
「……」
「約二十年前――」
慕容は、静かに続ける。
「今の北玄国があるこの地には、五つの小国がありました」
「……」
「それらを一つにまとめ、今の北玄国となったのです」
劉晟は静かに聞いている。
「その際、五つの国の王族をすべて廃するのではなく、四つの家には『王』の地位を残しました」
「つまり……」
「えぇ」
慕容が頷く。
「今の北玄国には、私の下に四人の王がいるということです」
景国では――
「王」という称号が与えられるのは、皇族の血脈を持つ者だけだ。
劉晟は淡々と尋ねた。
「それらの王は、北玄国が統一する以前の小国の王族ということですか?」
「えぇ、その通りです」
慕容は、にっこりと笑った。
「今晩お世話になる趙王も、その四王の一人ですよ」




