紅葉の導くもの 1
すっかりと体調が良くなった瑶月は、玉都へ向かう馬車の中にいた。
あれ以来――
時折、劉晟が瑶月の額へ手を当てるようになった。
「……」
瑶月は、そのたびに小さく笑う。
「もう大丈夫よ」
「ああ」
そう答えながらも、劉晟はしばらく瑶月の顔を見つめている。
そして、何事もなかったかのように手を離す。
そんな二人を見て、小雪は小さくため息をついていた。
――本当に、心配性なんだから。
やがて一行は、玉都まで一日ほどの距離まで辿り着いた。
その頃には、季節もすっかり秋へと変わっていた。
道の両脇に並ぶ木々は、赤や黄色へと色づいている。
風が吹くたび、鮮やかな葉がひらひらと舞い落ちていく。
「……綺麗」
瑶月は、窓の外へ目を向けた。
赤く染まった木々を眺めているうちに――
ふと、一年前のことが脳裏をよぎった。
あの日も、紅葉が綺麗だった。
赤く染まった木々の下で。
瑶月は、手にした歩揺を劉晟の胸へ突き立てた。
「……」
瑶月の指先が、無意識に髪へ触れる。
そこには――
あの日、劉晟を刺した歩揺が飾られていた。
今では、何事もなかったかのように髪を彩っている。
瑶月は、そっと歩揺へ触れた。
そして、隣にいる劉晟へ目を向ける。
あの日、この歩揺で刺した男がいる。
何も変わらない顔で、静かに前を見ていた。
「……」
瑶月は、もう一度窓の外へ目を向ける。
赤く染まった木々が、どこまでも続いていた。
これから向かう場所には――
北幻珠について、何か分かるかもしれない。
そう思うと、胸の奥に緊張と、ほんの少しの期待が込み上げてきた。
その時――
劉晟が、ふと前方へ視線を向けた。
道の先に、何台もの馬車が停まっている。
その周囲には、大勢の従者たち。
どう見ても、ただの旅人を迎えるための規模ではない。
「……」
劉晟の目が、僅かに細くなる。
馬車が近づくにつれ、その異様な光景がはっきりと見えてきた。
やがて――
劉晟たちの乗る馬車が、ゆっくりと速度を落とす。
そして、静かに止まった。
「……何かしら?」
瑶月も窓の外へ目を向ける。
劉晟は先に馬車から降りる。
そして瑶月へ手を差し出した。
「気をつけろ」
「ええ」
瑶月はその手を取り、馬車から降りた。
その直後だった。
向かいに停められていた、大きな馬車の扉が開く。
中から、一人の男が姿を現した。
「……!」
劉晟の表情が、僅かに変わる。
瑶月も、その人物へ目を向けた。
見覚えのある顔。
北玄国皇帝――慕容九思。
「……なぜ、ここに」
劉晟が、低く呟いた。
玉都までは、まだ一日ほどの距離がある。
それなのに――
北玄国の皇帝が、自ら都の外まで出てきている。
劉晟は、静かに慕容を見つめた。
いったい、何を考えている。
そんな劉晟の視線など気にする様子もなく、慕容はゆっくりと二人へ歩み寄ってくる。
そして――
「お久しぶりですね、劉滄燼さん」
いつものような、穏やかな笑みを浮かべた。
その顔が、劉晟の隣に立つ瑶月へ向く。
「そして――」
慕容は、瑶月を見つめる。
「元気な姿を見れて安心しましたよ、瑶月さん」
秋風が、静かに吹き抜ける。
瑶月の髪に飾られた歩揺が、かすかに揺れた。
そして――
慕容の白綾もまた、風に乗るように、静かに宙を漂っていた。




