残夏、秋の風 2
馬車へ乗り込もうとした瑶月は、ふと足を止めた。
すぐ横にいる小雪へ、視線を向ける。
今回の北玄国行きは、決して安全な旅ではない。
慕容が何を考えているのかも分からない。
そんな場所へ――
小雪を連れて行っても、本当にいいのだろうか。
瑶月は、しばらく小雪を見つめていた。
そして、そっと小雪の雲肩へ手を伸ばす。
少し乱れていた雲肩を、指先で丁寧に整える。
それから、ゆっくりと口を開こうとした。
けれど――
先に小雪が、ふわりと微笑んだ。
「お嬢様のお側が、小雪の居場所です」
「……そう」
瑶月は、小雪を見つめる。
そして、小さく微笑んだ。
「ありがとう」
それだけ言うと、瑶月は馬車へ乗り込んだ。
小雪も続いて乗り込む。
やがて馬車がゆっくりと動き出した。
窓から見える三白州の景色が、少しずつ遠ざかっていく。
見慣れた街並み。
水路の流れる街。
夏の間、何度も歩いた道。
瑶月は、静かにその景色を眺めていた。
胸の奥に、少しばかり寂しさが込み上げる。
――楽しかった。
三白州で過ごした日々は、思っていた以上に穏やかだった。
夢のような日々だった。
けれど――
これから向かう北玄国で、何が待っているのかは分からない。
瑶月の脳裏に、慕容の顔が浮かんだ。
悪い人には見えない。
けれど――
底が知れない。
今回、なぜ自分と劉晟を北玄国へ招くのか。
その理由も、目的も、未だに分からない。
何を考えているのか分からないことが、一番怖かった。
瑶月の表情に、不安が滲む。
その時――
隣にいた劉晟が、そっと瑶月の手を包んだ。
「……」
瑶月は、劉晟を見る。
劉晟は穏やかな目で瑶月を見つめていた。
「大丈夫だ」
ただ、それだけ。
けれど――
その声を聞いた瞬間。
不思議と、胸の奥にあった不安が少しずつほどけていく。
瑶月は、劉晟の手を見つめた。
そして、静かに微笑む。
「……そうね」
そう答えると、瑶月は再び窓の外へ視線を向けた。
遠ざかっていく三白州を眺めながら――
瑶月は、静かに北玄国への道を進んでいった。




