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同船共済

長淵が何も言えずにいると、承琰はふっと笑った。


「そんな顔しないでください」


 いつもの軽い口調だった。


「謀叛をしろと言っているわけではないのです」


 そこで、少しだけ間を置く。


「まあ、してもらっても構いませんが」


 そう言って笑う承琰の顔は、変わらない。


 長淵は、何も言えなかった。


 やがて承琰は、声を少し低くした。


「私は、其方に――」


 長淵を見る。


「本当の王太子になって欲しいのです」


「……」


「朔国のためになるような」


 長淵の瞳が揺れた。


 承琰から、目が離せない。


「そのためには、あの屠城の裏で何があったのか――」


 承琰の声は、静かだった。


「蕭玄江が、あそこまでの虐殺をしてまで手に入れたかった北幻珠とは何かを知る必要があります。」


 一呼吸。


 そして、承琰は長淵へ問いかけた。


「協力してくれませんか?」


 柔らかな笑みを浮かべたまま。


「王太子さん」


 長淵は、しばらく黙っていた。


 やがて――


 小さく頷いた。


「……分かった」


 その答えに、承琰は満足そうに笑った。


 長淵は一礼すると、踵を返す。


 そして、そのまま部屋を出ていこうとした。


「王太子さん」


 背中から、承琰の声が届く。


 長淵が足を止める。


 振り返ることはしなかった。


「月ちゃんに――」


 承琰は、穏やかに笑う。


「謝罪できたらいいですね」


「……」


 長淵は何も答えなかった。


 ただ、僅かに拳を握り――


 そのまま部屋を後にした。



 長淵は、回廊をゆっくり歩いていた。


 その先に広がる庭園を、ぼんやりと眺める。


 承琰の言葉が、頭から離れなかった。


 ――本当の王太子。


 朔国のため。


 王家のため。


 そう、自分に言い聞かせてきたのかもしれない。


 弱勢だった頃は、四六時中、命を狙われ…


 だからこそ、綺麗事だけでは政などできない。


 そう思っていた。


 けれど――


 人の上に立つ者が、綺麗事を口にしなければ。


 誰が、それを口にするのだろう。


 王が理想を求めなければ――


 いったい、誰が求めるというのだろう。


「……」


 長淵は、遠くを見つめた。


 脳裏に、あの日の瑶月が浮かぶ。


 目の前で劉安に殴られ――


 その場で崩れていく彼女。


 そして、劉晟に連れられていく姿。


「……」


 また、助けることができなかった。


 あの時も。


 そして、今も。


 無力な自分が、憎かった。


 彼女のために――


 自分は、あと何ができるのだろう…


 長淵は、深く息を吐いた。


 そして――


 ゆっくりと顔を上げる。


 遠くを見据えるその瞳には、先ほどまでの迷いはなかった。


 長淵は、静かに前を見据えた。



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