北からの使者
北玄国の使者が、青龍と共に部屋へ入ってきた。
「劉滄燼さま。慕容陛下から言伝を預かっております」
「……」
劉晟は黙ったまま、使者の言葉を聞いていた。
使者は劉晟を一瞥し、続けた。
「十日後、劉滄燼さま、沈瑶月さまともに、ここ三白州を発ち、北玄国の都――玉都へ向かっていただきます」
「……」
「おおよそ、十日ほどの距離です」
そう言って、使者は微笑んだ。
劉晟は静かに聞いていた。
この北玄国への訪れが、吉なのか凶なのか。
今はまだ分からない。
けれど、行くしかない。
「分かった」
劉晟が短く答える。
使者は頷き、続けた。
「旅に必要なものはこちらでご用意しました」
そして、穏やかな口調で付け加える。
「冬の北玄は寒うございます。雪が降る前に到着されるとよいですね」
「……ああ」
劉晟は、それだけ答えた。
翌日。
屋敷の庭には、旅に必要なものがずらりと並べられていた。
昨日の使者が用意したものだという。
衣服を始め、旅先で必要になる様々な品。
そして、薬材まで揃えられていた。
劉晟は並べられた品々を、静かに見つめていた。
どれも一目で分かるほど高級なものばかりだった。
衣服も、薬材も。
必要なものを用意したというより、こちらの事情をすべて把握した上で揃えたようにさえ見える。
――あまりにも、待遇が良すぎる。
劉晟には、慕容の狙いがますます分からなくなっていた。
その隣で。
瑶月は用意された装飾品の一つを手に取り、指先でそっとなぞっていた。
細かな細工が施された、美しい装飾品だった。
瑶月はそれを眺めながら、ぽつりと呟く。
「……もう行くのね」
そんな瑶月に、劉晟が声をかける。
「まだ数日はある」
瑶月が顔を上げる。
「やり残したことはあるか?」
瑶月は劉晟を見つめた。
「そうね……」
少し考えてから、ふっと微笑む。
「思い返せば、特にない気もするわ」
そして、何でもないことのように続けた。
「だって、劉晟も一緒に北玄国へ行くんでしょう?」
瑶月はそう言って、微笑んだ。
「……ああ」
劉晟は短く答えた。
瑶月は庭に並べられた荷物へ視線を戻す。
「ただ……」
少しだけ間を置いて。
「ここで過ごした日々が、あまりにも楽しかったわ」
そう呟く瑶月を、劉晟は横目に見つめた。
「……そうだな」
静かに、そう答えた。




